34.ランドルフ邸へご招待
とある日の朝。
この日も私とルイは教室で一緒に予習をしながら、朝のホームルームが始まるのを待っていた。
「あぁ、今日もケイティとルーイが一緒に勉強をしているわ」
「漫画では、あんなことになっていたけれど、実際のお二人はどうなのかしら?」
「お二人が仲睦まじくされている姿は目の保養だわ」
そんな噂話が聞こえてくる度に、少し嬉しくなる。
以前はルイを貶す噂ばかりだったから、冷静に聞き流すよう努めていた。
だけど今の噂は、無視するのが馬鹿らしく思える程に、聞いていて心地良い。
噂話を耳に入れながら予習をしていると、ふとルイが深刻な表情をした。
「あら。分かりにくい問題でもあったの?」
「いえ。キャサリン様、何でもありません」
思い詰めたような顔で『何でもない』と言われても、信じられるわけがない。
そんな何気ない話をしていると、教室が少しざわついているのに気がついた。
教室を見回すと、険しい顔をしたアルフレッドが、まっすぐこちらに向かっていた。
アルフレッドは獲物を狙う鷹のような瞳で、ルイを睨みつける。
その眼差しにルイは一層、顔を強張らせた。
ルイの表情が固かったのはアルフレッドのせいだったのだろう。
「ご機嫌よう、ランドルフ様。今日はどのようなご要件でしょうか?」
話しかけて牽制すると、アルフレッドは眉間に寄せた皺を緩めて、私の目を見て話し始めた。
「ベルモント様、失礼します。そこにいるルイ・クロスに話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ルイへの用事、ですか? 私が先にお聞きしてもよろしいでしょうか」
「恐れ入りますが、私がご用件のある相手はベルモント様ではなく、ルイ・クロスでございます。お手数ですが、ルイ・クロスと直接お話しする機会をいただけませんでしょうか」
「あら。私を介すことに何か不都合でもございますか? ルイを虐げるような内容でないのであれば、今この場で話してくださっても問題ないように思われますが」
語気を強めて話すと、少し唇を尖らせて殺気を放つようにルイを睨みつけた。
そして小さく息を吐くと、観念したように口を開く。
「ベルモント様。今度の休日にルイ・クロスを我がランドルフ邸へ招待したいのですが、よろしいでしょうか?」
今更ルイを招待?
何を企んでいるのかしら。
十中八九、碌なことではない。
「でしたら、私もランドルフ様のお屋敷にお伺いしてもよろしいでしょうか? 単身で格式高いランドルフ邸へ訪問するとなると、彼も何かと心細いかと思われますので」
「それは……」
アルフレッドはルイを睨みつけるように目配せする。その射抜くような視線に、ルイはたじろぎ、目を逸らすように私を見つめた。
「キャサリン様。もし可能であれば、僕一人でランドルフ様のお屋敷へ赴いても……いえ、やはり一緒に来てくださいませんか?」
話している途中で意見が正反対に変わったためか、私もランドルフも虚をつかれて、一瞬、言葉が出なかった。
「貴様、一体どういうつもりだ!?」
アルフレッドは今にも殴りかかりそうな勢いで、ルイを怒鳴りつける。
そんなアルフレッドを止めようと、私は声を張って割り込んだ。
「あら、ランドルフ様。私がランドルフ邸へ赴くのがそれ程までに嫌でしたか?」
「いえ、ベルモント様。決してそのようなことは…」
「でしたら構いませんよね?」
「しかしながら、ルイ・クロスを招待する理由は我がランドルフ家の極秘事項に関わる内容でして」
「極秘事項というのは、ランドルフ伯爵が以前ルイに施した処遇と、何かしらの関わりがございますでしょうか」
その話題に触れた途端、アルフレッドの顔から血の気が引き、ルイに対する敵意を引っ込めた。
どうやらルイを引き渡した時の出来事は、アルフレッドも知っていそうね。
自分の父親がやらかした事を引き合いに出されて、さぞ肝が冷えたことだろう。
「……分かりました。でしたら、ベルモント様も一緒にご来宅くださいませ」
苦虫を噛み潰したような表情でアルフレッドは了承すると、「それでは失礼しました」と一礼して、そそくさと教室から出ていった。
そしてルイに対して鋭い殺気を放ちながら、自分のクラスへと帰った。
アルフレッドはルイに、何をしでかすつもりだったのだろう?
何はともあれ、ルイに危害を加えられる前に牽制できて良かった。
今週末のランドルフ邸では、彼らの思惑が何なのか、しっかり見極めよう。
そう考えていた私には、彼らの目的が別にあることなど、つゆほども思い至らなかった。




