32.試験勉強
「それでは漫画愛好会の皆様、ご機嫌よう」
イザベラは喜びを隠しきれていない社交辞令的な笑みを浮かべながら、漫画愛好会の会室を後にした。
「どうしよう、私のせいで……みんな、ごめん」
マリアは顔を真っ青にして、独り言のように何度も謝罪の言葉を呟いた。
エドナを始めとした他の会員は、「そんなことはありませんよ」と慰めにもならない言葉で励ましていた。
「マリア。みんなに謝る暇があったら、今からでも試験勉強しましょうよ」
「キャシーちゃん……でも、勉強って何から手をつければいいの? どうしたらいいか分かんないよ」
やれやれ。
手のかかる聖女様ね。
「だったら私が勉強を教えてあげるわ」
本当はルイの勉強を手伝いたいところだけど、仕方ない。
それに今の彼なら平均点が取れなくとも落第することはないだろう。
「本当?! ありがとう、キャシーちゃん! だけどキャシーちゃんが教えてくれたとしても、私そこまで賢くないから平均点を取れる自信がないよ」
「だったら私と貴女にしかできない方法で勉強すればいいじゃない」
私は彼女の目の前で分身の魔術を行使してみせた。
「それって、キャシーちゃんがいつも漫画を描く時にやっている分身の魔法だよね?」
「いいえ。これは魔法じゃなくて魔術。だから貴女も私の真似をすれば分身が出せるのよ」
「えっ、魔術だったの!? 魔法陣、いつの間に描いてたの?」
「私が行使したのは非陣式魔術だから魔法陣を描かないのは当たり前よ。貴女に教えるのは陣式魔術……つまり魔法陣を描くタイプの魔術よ」
私は分身魔術の魔法陣を紙に描いてマリアに見せた。
「魔法陣の描き方と魔術の発動のさせ方は魔術実践の授業で習ったでしょ?」
マリアは魔術の発動に関しては天才的だ。
最初こそ戸惑っていたものの、あっという間にコツを掴み、魔法陣に流す魔力量を細かく調整できるようになった。
今では教師ですら手こずる魔術ですら手間取ることなく行使できる。
早速マリアは私が教えた魔法陣を宙に描いて行使すると、彼女に瓜二つな分身が現れた。
「本当だ、私も分身が出せてる!」
彼女は興奮のあまり分身とハイタッチする。
その光景を見た他の会員達は『高位魔術を初見で発動できるなんてさすが聖女様だ』と褒め称えた。
「貴女と私の魔力量だったら、一度に出す分身はお互い千人くらいがいいかしら? 一度に千人出せるように調整した魔法陣も教えるわね」
「えっ、千人も? というよりキャシーちゃん、分身なんか出してどうするつもりなの?」
「もちろん、勉強に決まっているでしょ。分身が経験した記憶は本体にも蓄積されるから千人の分身を出して勉強すれば、単純に勉強時間は千倍になるってことよ」
「あっ、それ某忍者漫画でもやってた修行方法だ。まさか自分がやる側になるなんて思わなかった」
「それに加えて、私も分身を千人出して貴女の分身全員にマンツーマンで勉強を教えるの。その方が勉強も捗るでしょ?」
「だからキャシーちゃんも分身してくれるんだ、至れり尽くせりだね。ありがとうキャシーちゃん」
こうして今日から放課後、マリアとマンツーマンで試験勉強をすることになった。
流石に分身を千人出すとなると学院では収まりきれない。
そのため本体だけ会室に残し、分身達は私が作り出した亜空間へ移動して勉強することにした。
また、他の会員達も自分が足を引っ張ることがないよう、会室で自主勉強をし始めたようだ。
ルイには事情を説明し、試験勉強まではマリアにつきっきりになるため勉強の手伝いができない旨を伝えると、『僕は一人でも勉強を頑張れますので大丈夫です』と了承してくれた。
家でよく自主勉強をしている姿を見かけたし、今度の試験も彼なら問題ないだろう。
千人の分身による勉強効果は絶大だったのか、マリアは、読み書きすらできなかったオルフェウス言語がたったの数日で完璧に話せるようになった。
その変わりようにイザベラや生徒会の面々は多少は驚いたものの『どうせキャサリンの魔法によるものだろう』とあまり深く捉えてはいないようだった。
そうしてマリアに勉強を教える日々が数週間続いた後、いよいよ試験が始まった。




