27.漫画愛好会
『キャシーちゃん……相変わらず凄いよ! 完璧だよコレ!』
私が描いてきた原稿を読んだマリアは、目を輝かせて鼻息を荒くした。
マリアの漫画制作を手伝うようになって早数ヶ月。
彼女は生徒会にお願いして漫画愛好会を作ってもらい、私は栄えある会員第一号に選ばれた。
漫画愛好会の活動日時は数学研究会と丸被りなため、ルイが数学研究会に行っている間、私は漫画愛好会で活動することとなった。
今日は漫画愛好会の会室で、彼女にお願いされていた漫画の原稿を持ってきたのである。
『貴女がお願いした絵柄って、こんな感じで合っていたわよね?』
『うん、この絵柄だよ。完璧にオリジナルを再現できてる』
マリアのいた世界の漫画を再現するのは骨が折れた。
絵柄や漫画の構成自体は、彼女に確認した通りに描けばいいだけなので、それ程難しくない。
だけど問題は、その量だ。
彼女曰く、この作品は異世界では人気作らしく、総ページ数は2500ページ以上にも及ぶ。
1ページあたり約30分で描き上げたとしても完成させるのに1250時間以上かかる計算だ。
分身の魔術を駆使しなければ、未だに完結まで描ききれなかっただろう。
ルイが数学研究会の活動をしている間の、いい暇つぶしにはなった。
「キャサリン様、マリア様と何のお話をされているのですか?」
問いかけてきたのは、同じく漫画愛好会の会員であるエドナ・ロビンソン子爵令嬢だった。
大きな丸眼鏡が印象的な彼女は、私とマリアが描いた漫画のファン第一号だ。
今では彼女も愛好会の活動を通して、一緒に漫画を描いている。
「あら失礼。まだ言語翻訳の魔法をかけていなかったわね。コレでマリアの言葉が分かるかしら?」
「マリア様、私の言葉が分かりますでしょうか?」
「うん、バッチリだよ。エドナちゃん」
「キャサリン様、いつも翻訳ありがとうございます。それで、お二人はどのような話をされていたのですか?」
「実はキャシーちゃんに、この漫画を描いてもらってもらったの」
「こちらですか? この作品は…?」
「向こうの世界で一昔前にヒットした人気作品だよ。こっちの世界に似た世界観だから、こっちの人でもウケると思うんだけど」
エドナは原稿を手に取って読み始めると、目にも止まらぬ速さで読み進めた。
その顔は、お宝を見つけた冒険者のように、好奇心と笑顔で溢れていた。
「素晴らしい……とても面白いです。こちらの作品も父にお願いして出版しても良いでしょうか?」
エドナの父であるロビンソン子爵が大手出版商会のオーナーだからか、漫画愛好会が描いた漫画は子爵を通して出版されている。
漫画愛好会が描いた作品は瞬く間に王国中で話題になり、その売り上げは人気ロマンス小説を超える勢いだそうだ。
その影響もあってか漫画は学院内でも広まり、漫画愛好会に入る者も何人か現れた。
「もちろん。むしろ、いつも出版してくれてありがとう」
「いえいえ、こちらこそマリア様の漫画を出版できて光栄です。そういえば出版で思い出したのですが、今度人気小説が原作の漫画を出版する予定なのです」
「そうなんだ。じゃあ、こっちの世界初の漫画になるね。なんて言うタイトルなの?」
「それはまだ秘密です。ですが期待していてください。ルシアン殿下が宮廷画家にお願いして描いてくださることになったので、そのクオリティはキャサリン様の漫画に引けを取りません」
「えっ! ルシアン殿下が?」
殿下がわざわざ宮廷画家を遣わせるなんて、よほどお気に入りの小説なのだろう。
「あら、良かったじゃないの。出るのが楽しみね」
「はい! 今月の25日に発売されますので、キャサリン様もマリア様も、是非買って読んでください」
「えぇ、もちろんよ」
「楽しみにしてるね!」
この時の私は気づいていなかった。
ルシアン殿下のくだらない企みに。
宮廷画家を遣わせてまで漫画制作を手伝った理由が判明したのは、実際に漫画が発売された後のことだった。




