25.調査終了
アップルトン邸へ戻ると、男爵やルイを始めとした他の冒険者達はまだ帰ってきていなかった。
屋敷にいるのは家令とわずかな使用人のみ。
私は彼らに事情を説明し、囚われていた女性達を引き取ってもらった後、客室で男爵が帰ってくるのを待った。
それから数時間後、調査を終えた冒険者達が討伐したモンスターの死骸を抱えて、一人、また一人と帰ってきた。
その中にはルイとモーリスの姿もある。
二人はモンスターと遭遇しなかったのか、手荷物は行きとほぼ変わりない。
「あら。お帰りなさい、二人とも」
私が門まで出迎えると二人は目を丸くした。
「キャサリン様……もう、帰られていたのですか?」
「えぇ。調査が終わって帰ってきたら誰もいなかったから退屈していたところなの」
「ベルモント様、恐れ入りますが……調査を終えるのが早すぎませんか? まだ1日目ですよ? 僕達ですら、少し早めに調査を切り上げたのですが」
モーリスは呆れたように小さくため息をつく。
私の言い方が悪かったのか、彼は勘違いしているようだ。
「私は調査を切り上げたのではなく、調査そのものが完了したと言っているのよ」
「……え?」
モーリスは私の言葉が理解できずに、口を開けたまま黙った。
その状態で数秒経った後、ようやく意味を理解したかのように大きな声をあげて驚愕した。
その事実に唖然としたのは彼だけではない。
ルイも大きく目を見開いて、思わず手に持っていた古いノートを落とした。
「あら、ルイ。そのノート、どこで手に入れたの?」
彼は、まるで隠すかのように慌ててノートを拾う。
ノートには四字熟語のようなものが書かれていた。
百鬼賢人……?
聞いたことのない四字熟語だが、百鬼夜行と似たような意味合いの言葉なのだろうか?
「このノートは、調査中に見つけました。それより、キャサリン様。調査が完了したそうですが、ネームドモンスターが見つかったということでしょうか?」
「その件については、アップルトン男爵への報告も兼ねて説明するわ」
私達は一旦、応接室へ戻り、男爵や他の冒険者達が揃ったところで報告を始めた。
「……ということで、瘴気の元凶であるモンスターの討伐及び、ネームドモンスターの調査は完了しました」
私の報告が終わると、その場にいた全員が異口同音に「おぉ」と感嘆を漏らした。
「まさか鬼神だけじゃなくて瘴鬼までいたなんて」
「瘴鬼って、A級モンスターだろ? それを一人で倒すなんて流石は元S級冒険者だ」
「暁の魔王を一人で倒したくらいだし、キャサリン様にとって瘴鬼一匹を倒すのは朝飯前ってことか」
「まぁ、俺らじゃ朝飯前どころか、逆に朝飯にされていただろうけどな。ハハハハ」
雇われ冒険者達がそんな雑談を楽しんでいる中、ルイだけはなぜか浮かない顔をしていた。
鬼神も瘴鬼もアップルトン領にはいないのだから、彼の大好きなハニートレントがなくなる心配もないはずなのに。
「あら、ルイ。どうしたの? 何か気になることでもあるの?」
「いえ、大したことでは……ただ……」
「ただ?」
「鬼神のナキリがどこへ行ったのか、瘴鬼のグランザーハから聞いていませんか?」
「さぁ? ただグランザーハは『ナキリは人間と共生するためにこの国を出た』って言っていたから、少なくともオルフェウス王国にはいないと思うわ。百歩譲ってまだこの国にいたとしても、人間と共生すると言っているくらいだから人間に危害はないんじゃないのかしら?」
まぁ仮に害があったとしても、アップルトン領にいなければ、どうでもいいわ。
今回の依頼はあくまでアップルトン領内での調査だもの。
他の場所まで調査して後始末をする気はさらさらない。
「そう、ですか……」
ルイはそれでも尚、憂げな表情をしていた。
「大丈夫よ、ルイ。鬼神だろうが瘴鬼だろうが、貴方を襲うモンスターは、私が片っ端から塵に変えてあげるから」
私がそう微笑みかけると、彼はぎこちない笑顔で「ありがとうございます」と小さな声で返事をした。
面倒臭いから放置しようかと思ったが、彼がここまで心配するなら鬼神のナキリも始末しようかしら?
いや、そもそもルイが気にしているのは鬼神のナキリなの?
何かを見落としているような、何かを勘違いしているような……そんな腑に落ちない感覚に囚われる。
私はルイの浮かない表情が気になりつつも、アップルトン男爵からの依頼を終えた。




