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完璧令嬢は暇つぶしに運命の番を愛でることにした  作者: サトウミ


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18.魔法陣の描き方

魔法測定が終わると、次は魔術実践の時間になった。

生徒達の緊張と期待が入り混じる。


「本日の魔術実践では、実際に魔術を発動させます。皆さんが扱うのは、この五つです」


教師は手を掲げると、人差し指をペンのように宙へ走らせ、魔術の基礎である五つの下級魔術の魔法陣を描く。

そして、魔術を行使する時の重要点を教えながら、実際に魔術を発動させる。

すると、拳ほどの炎や水が魔法陣から出てきた。

教師の魔術に生徒達から「おおっ!」と歓声があがる。


「では、早速皆さんも挑戦してみましょう。授業で学んでいるとは思いますが、魔法陣の描き方が分からない人は……いませんね?」


その問いに、マリア以外の全員は元気よく「はい!」と返した。


「よろしい。では早速始めてみましょう。編入生のお二人……マリアさんとルイさんは、魔法陣の書き方から教えます」


教師の指示に従い、二人は校庭の端へと移動した。

私はルイの、アルフレッドはマリアの補助を申し出て、私達も二人の後を追う。


「では簡潔に説明します。魔法陣を書くには、始めに魔力の流れから作らなければなりません。指先から魔力を放ちながら円を描くと、魔力がその軌跡に沿うように流れ始めます」


教師は手本を見せるため、宙に指で円を描く。

円は透明ながらも、魔力の流れができているため、そこだけ蜃気楼のように空間が歪んでいた。


「ただし、適当に魔力を放つだけでは流れはできません。指先から勢いよく放出しながら、素早く()()()()を描く。それが魔力の流れをコツです。魔力の流れを持つ円が書けたら、後は流れに沿うように内側に術式を書けば……」


教師が円に内側に術式を書き込んでいくと、あっという間に魔法陣が出来上がった


「はい、完成です!」


完成した魔法陣を見て、マリアとルイは目を丸くして感心する。


「それではお二人とも、やってみましょう」


ルイとマリアは早速、宙に丸い円を描く。


マリアの描いた円は大きな渦となり、宙に浮いて空間を歪めていた。

その渦は段々と大きくなり、台風のように周囲を巻き込みながら成長する。

魔力の渦は魔力量の多い王宮魔道士ですら、意図的に作り出すのは困難だ。

流石は異世界の聖女、と言ったとこか。

周囲の生徒も、口をぽかんと開けてマリアが作った魔力の渦を眺めている。


『えっ、あれ!? ……私、またなにかやっちゃた?』

マリアは冷や汗を掻いて苦笑いした。


「ただ円を描いただけで魔力の渦ができるとは…! 素晴らしいです、聖女様」

円を描くこと自体は失敗だが、教師も魔法の渦に感心する。


だが一方で、ルイの円は宙に浮かぶことはなく、全く魔力が流れていなかった。

ま、初めてならコレが妥当な結果ね。

魔力コントロールが未熟だと、魔術を行使するどころか魔法陣を描くことすら難しい。

考えられる失敗としては、魔力が全身から分散して放出されてしまっているせいで指先からほとんど魔力が出ていない……とかだろう。


「気にすることはないわ、ルイ。私が魔法陣を描くコツを教えてあげる」


ルイの手を取り、目を閉じて彼の身体に流れる魔力を感じ取る。

……あら。

ルイったら、意外と魔力量が多いわね。

それこそ、魔術の教師や王宮魔道士をも凌駕するレベルと言っても過言ではない。

これだけあれば、後は魔力を出すコツを掴むだけ……と思ったが、そうはいかなかった。


ルイの身体は、体外へ魔力を放出しにくくなっている。普通は魔穴と呼ばれる魔力の出口が身体中にあるのだけれど、彼の場合はそれがない。

強いて言えば、魔力は頭の先に流れやすくなっているみたい。


「ねぇ、ルイ。もしかして貴方、頭に怪我をしているの?」


頭にあった魔穴が怪我のせいで塞がっているのであれば、頭に魔力が集中していることにも説明がつく。

図星だったのか、ルイはハッと息を呑んだ。

そして何故か手を振り解き、私から遠ざかる。


「ど、どうして、それを?」


ルイの声は震えていて、目も泳いでいる。


「あら? あまり触れられたくない話だったかしら?」

「それは……」


ルイの視線は私ではなくアルフレッドへと向かう。

アルフレッドはその視線に気づくと、眉間に皺を寄せて睨み返した。

そんなルイの様子から、アルフレッド、もしくはランドルフ伯爵に頭を傷つけられたのだろうと察しがついた。


「とりあえず、頭に怪我があるなら治してあげるわね」

「…えっ?」

「私の『完全回復』の魔法があれば、たとえ四肢が欠損しても完全に治せるわ」


ルイに手を翳して魔法を行使しようとした、その時。


「駄目っ!!」


彼は今まで見たこともない程に取り乱して、私から遠ざかった。

その瞳は、まるで殺人鬼を映すかのように私を見つめ、小さく揺れながら怯えていた。


「あっ、キャサリン様! 声を荒げて、すみません」

「いいのよ別に。だけど、どうしてなの? 怪我を治されて困ることでもあるのかしら?」

「それは……その理由は……」

「ランドルフ伯爵が関係している、とか?」

「っ!? 申し訳ありません、それ以上は話すことはできません」


また秘密なのね。

マリアに嫉妬していた時のような鬱屈した感情が、私の中に湧き上がる。


人には誰だって、言いたくない秘密の一つや二つはあるものだ。

それを詮索するのは無粋だし、何より知ったところで大した情報ではないだろう。

そう頭の中で冷静に考えていても、秘密を話して欲しいという気持ちが収まらない。


ルイの秘密を探るのは簡単だ。

ランドルフ邸で使った『空間追憶』の魔法で調べれば瞬時に分かる。

だけど私は、魔法ではなくルイの口から直接知りたい。


「フフフ……そう、わかったわ」


運命の番(ルイ)は面白い存在ね。

家族の秘密ですら、どうしても知りたいと願ったことは一度もない。

勿論、調べれば分かることを、わざわざ相手から聞きたいと思ったこともない。

こんな非合理的な感情を私から引き出させるルイは、間違いなく私にとって特別な存在だ。


「言いたくなければ、そのままでいいわ。だけど、これだけは覚えておいて。

どうやら私は、貴方のことを、何でも知らないと気が済まないみたいなの」


ルイは目を大きく開いて、まっすぐ私を見つめる。


「貴方が何が好きなのか、何が苦手なのか、何が得意で、どんなことをしたら喜ぶのか?

ランドルフ邸でどんな暮らしをしていたか、マリアとの秘密は何なのか……。

貴方のことは誰よりも知りたいし、貴方自身のことを教えて欲しいの。

私は、ルイの全てを知った上で、貴方の全てを受け入れるわ。

だからお願い。いつかは、貴方の秘密を全て教えてね?」


ルイに微笑みかけると、彼は頬を少し赤くさせながら戸惑うように顔を伏せた。


嗚呼。

いつか、彼の口から秘密を聞き出せるのかしら?

その時が、とても楽しみだわ。

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