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完璧令嬢は暇つぶしに運命の番を愛でることにした  作者: サトウミ


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14/36

14.仲違いから数日後

マリアを泣かせたあの日から、もう数日が過ぎた。


彼女とは、あれ以来一度もまともに言葉を交わしていない。

それどころか、彼女と会っても逃げられてしまう。


廊下の向こうで彼女の姿を見つけても、視線が合った瞬間、彼女は怯えたようにうつむき、足早にその場を去る。

そのためか、あの日以降放課後に会いに来ることもなくなった。


ルイに聞けば、マリアは今も数学研究会には顔を出しているらしい。

つまり彼女は、今もルイと会っているのだ。


……理屈ではわかっている。

彼女に敵意があるわけではない。

泣かせてしまったのは、私の言葉が過ぎたからだ。

けれど、それでも胸の奥に渦巻くこの感情──どろりとした苛立ちの塊が、どうしても消えてくれない。


嗚呼、本当に非合理的で、面倒くさい感情だわ。

異界言語だろうが、魔術理論だろうが、最初そこ理解に苦しむものでも、数日もせずに理解することができた。

なのに何故この怒りだけは、原因が分からないのだろう?

しかも私自身、制御ができていないのだから厄介だ。



──嗚呼。面白い感情ね。



◆◆◆



今日も、いつも通りルイと並んで登校する。

ベルモント家の馬車が学院の門前に止まると、生徒たちが一斉にこちらを見る。

視線の向こうには、好奇と興味と、わずかな悪意が混ざっていた。


「……聞いた? キャサリン様が、聖女様を泣かせたんだって」

「聞いたわ。噂じゃ、ひどい言葉を浴びせたらしいじゃない」


「可哀想な聖女様。あの方、よくキャサリン様に会いに来られていたのに」

「まさか、完璧なベルモント様がそんなことを……」

「聖女様とキャサリン様の間に、一体何があったんだ?」


そんな噂話をされても仕方ないわね。

隣にいたルイが、心配そうに私を見つめる。

彼は「キャサリン様……」と何か言いかけたけれど、私は首を横に振った。


「貴方が気にする必要はないわ」


かく言う私も、噂話をされることには慣れているから気にしていない。


私達はそんな視線を浴びながら、教室へ向かう。

その途中、前方に見慣れた姿を見つけた。

絹糸のような艶やかな髪の女生徒と、ダークブラウンの滑らかな髪の女生徒。

──イザベラとマリアだ。


マリアがこちらを見た瞬間、まるで小動物のように怯えた表情を浮かべ、イザベラの後ろに隠れた。

彼女のその仕草を見たイザベラは、私が近くにいることに気がついた。


「まあ……ベルモント様。ご機嫌よう」


イザベラは、マリアを庇うように一歩前に出る。

彼女の笑みは、警戒心が込められているようにも、いつもの嫌味な愛想笑いのようにも、見える。


「ご機嫌よう、リュミエール様」

イザベラの微笑みに、私はいつも通りの愛想笑いで返す。


「マリア様に何か御用かしら?」

「いいえ。偶然お会いしただけですわ。……ただ、以前の件について、改めてお話しできればと思っておりますの」

「その必要はございません!」


ピンと張りつめた空気が、周囲を一瞬で凍らせた。

イザベラの声は、明らかに()()()()()()の声量だった。

通りすがりの生徒たちが足を止め、こちらを注視する。


「マリア様から事情は伺いました。ベルモント様がマリア様をお嫌いなのは理解しております。マリア様に対してどのようにお感じになられるかは、すべてベルモント様のご自由でございます。どうか無理に親しくなさろうとお思いにならなくても結構でございますよ」


表面上は丁寧な言葉遣い。

けれど、その中身は棘そのものだ。

まるで「マリアには近づくな」と言わんばかりだった。

周囲のざわめきが大きくなる。

それでも私は微笑を崩さず、冷静に話し続ける。


「あら、それは誤解ですわ。私はマリア様を嫌ってなどおりません」

「でしたら、どうして聖女様の存在を不快に思われるのでしょう?」


イザベラは、まるで裁判所で罪人を追い詰めるように、優雅な言葉遣いで追及する。

その声の高さのせいで、もう完全にこの場は注目の的だ。


「マリア様をご覧になると、どうしても苛立ちが抑えきれないのでございますよね? ですが、たとえベルモント様であられても、その不快感を隠しきれず、以前のような態度をマリア様にお示しになれば、不敬罪に問われるおそれがございますよ」


言っていることは事実であり、忠告の範囲を出るものではなかったが、イザベラの口調にはどこか非難めいた響きがあった。

周囲も彼女に影響されて、冷ややかな目を私に向ける。


「どうしたんだい? イザベラ嬢」


その声が響いた瞬間、張り詰めた空気が一変した。

ざわめいていた生徒たちの視線が、一斉にその方向へと向かう。

黄金色の髪を朝陽に照らしながら、ゆっくりと歩み寄ってくるのは──ルシアン・オルフェウス王子殿下だ。

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