78話 私がもし本当に海人を好きならば……
それから俺たちは黙々と作業をして、午後六時半前には会議室をお開きにすることが出来た。
そして、今……俺と中川さんと月野さん……三人で一緒に下校している……
「いや〜書類最初は意味わからなかったけど最後らへんはすらすら行けるようになったよ!! やっぱり慣れるって大事だね!!」
中川さんが嬉しそうにそう言う。
ちなみに今前に中川さんと月野さんが後ろに俺が歩いている形で下校している。
俺は仲良く喋る二人の後ろを黙々とゆっくりと歩いて追っていた。
「やっぱり鈴音はすごい!! 先輩たち褒めてたよ、鈴音が来てくれたおかげで楽になったって……」
「エヘヘ、そうなの! 役に立ててよかった!」
「反対にワタシなんか……」
そう悲しそうな顔を浮かべる月野さんを見て、俺は何か言わなきゃいけないと思った。
「それは……月野さんもだよ……俺は月野さんが来てくれてとても助かってるよ!」
「……ほんとに……そういうとこだよ……君は……」
俺には月野さんが何を言ったか聞こえになかったが……月野さんは中川さんの制服の袖を引っ張ってなにかを言った。月野さんの耳を見ると、とても赤くなっていた。
「じゃあ! ワタシここだから! また明日!! お二人さん!!」
「うん!! じゃーね!! 雫!!」
「また明日……月野さん……」
月野さんは俺から離れてそう言って手を振る。
月野さんの家は俺の家から少し離れているため、必然的にここの道で別れることになっている。
昨日、月野さんと一緒に帰った時もここで別れた。
それからの帰り道……俺と中川さんは家に帰るまで横並びに歩いているにも関わらず一言も喋らなかった……彼女は何か考え込む様子を見せていて、俺に話しかけてくる方はなく、俺は俺で話すきっかけが掴めなかった。この夕日が完全に沈みきった暗黙の夜の中……ただただ沈黙の時間が続いて行った。
ーーーーーー
(中川鈴音)
私は気づいてしまった……
私も多分、今横で歩いている彼……山田海人……海人の事が好きだと思う……
これが恋かもしれないと自覚したのは、彼が体育祭のリレーの時、みんなの声援を一斉に受けながらみんなの期待に応えようと全力で走る彼の姿に私はとてもかっこいいと思い、胸が高鳴った。
それから時々彼の事を思ってしまう……
そして、体育祭が終わった後の学校がある日の朝、海人の前にたくさんの女子が集まっていた。
私はそれを見て胸が締め付けられるような感覚を覚えた。最初はこの感覚がなんなのかわからなかったけど……この前、雫にオススメされて雫に借りて読んだ恋愛漫画にヒロインが好きな男子がある日女子にモテ始めて、やきもちを焼いているというシーンだった。
私はこのやきもちというワードが気になりアームルで調べた。
すると、好きな人や恋人が自分以外の人と仲良くするのを嫌がる気持ちを指す。
そう書いてあった。
それと同時に私は理解した……私は海人の事が好きなのかもしれないと……
だって、その恋愛漫画のヒロインと全く同じ気持ちになったのだから……
「……ほんとに……そういうとこだよ……君は……」
あのさっきの雫の反応は多分……そういうことだろう……
この世界に来てから一番初めに話しかけてくれたクラスメイト……雫……
私の大切な友達の雫……
彼は優しいから……雫が好きになるのもわかる……
親友は私と同じ人が好き……
……私は元々この世界の人間じゃなくて別の世界の人間……本来この世界に来るはずじゃなかった人間……
本来海人と結ばれるべきなのは雫であって、私ではない……
私がもし海人を本気で好きならば……
私はこの恋から手を引かなければいけない……




