最後の夜に。
処女作!!(笑)
本当は、もう少し濃くするつもりが…割と爽やか15禁位にまとまってしまいました。
難しいです。
揺れるロウソクくらいに弱い、間接照明。
柔らかいオレンジは、作る陰すらあったかい。
栗栖先輩のアパート。
大好きな人の空気。
心地いい、時計の秒針の音をききながら、まどろむのが私の、週末の楽しみ。
けど今日は、小さな駆動音がずっと続いてる。
だから私はかわりにひとり、毛布をかぶるの。
大好きな先輩は、真剣な表情で、パソコンのディスプレイをみつめてるから。
邪魔したらいけない。
邪魔したら、いけないの。
「…ごめんな、緋織。まだ、かかりそうだ。眩しいか?」
液晶画面の冷たい光を受けて、先輩は気遣わしげに、ベッドの私に振り向く。
眩しい。
先輩、まぶしいよ。
その無機質な光が、先輩を連れて行っちゃうと思うと、悔しいよ。
「ううん、大丈夫。大事な連絡なんでしょ?しっかりと打ち合わせして下さい」
「悪いな。…ったく、現地時間でお構いなしにメールして来やがる。少しはこっちの時間も考えろっつの。しかもギリギリで。ホント…頼むぜ」
そう言って髪をかき混ぜる先輩は、それでも嬉しさを隠せてない。
私は笑って、枕に顔を押し付けた。
邪魔しちゃだめ。
ごそごそと、毛布をたくしあげて背を向ける。
涙が、止めどなく溢れた。
お腹が熱い。締め付けられてるみたい。
喉が痛かった。
きつく閉じたまぶたは、真っ暗な筈なのに、優しい、沢山の残像が押し寄せてくる。
決意を壊そうと、襲ってくる。
怖い。
耳なりがひどくて、なにも聞こえなかった。
駆動音が、荒い呼吸をかき消してくれてることをただ信じて、私は毛布の中で丸くなった。
涙は、とめどなく溢れた。
少しでも動いたら、細胞さえもが悲鳴を上げて、押し殺したはずのワガママが、情けなく溢れてしまいそうだったから。
身じろぎさえもできなかった。
「どうした?」
それから、どのくらいたったのか。
気づくと私は毛布をどけて、体を起こしていた。
「おトイレに…」
無意識に口は、葉を紡ぐ。
「先輩は、寒く、ないですか?」
「うん?あぁ。大丈夫。もう少しで終わる」
「あんまり、根詰めすぎないで下さいね」
「…サンキュ」
無防備な裸足に、フローリングの冷たさが染みる。
先輩の視線は、相変わらず液晶の文字の上。
少し眉根を寄せて、目を眇めてる。
ボールを蹴りながらゴールを睨む、あの一瞬と同じ顔。
なんて、精悍な表情。
私はそっと部屋を出て、トイレに入って扉を閉める。
途端に、涙が溢れた。
その勢いで、声まで零れてしまわないように、嗚咽を飲み込むと、
それだけで精一杯だったみたいで、簡単に膝が折れた。
涙が。涙が、溢れて止まらない。
静かに静かに、心掛けてきたこと、みんな薄っぺらく思えるくらい、ひどく溢れて止まらない。
軽薄なくらい明るいライトに、浮き彫りにされたまま、膝を抱えた。
いたたまれない。
こんな風に泣くために、こんな所に逃げてきたなんて。
なんて、情けない。
その時だった。
「…緋織?」
突然、先輩の声。
嬉しい、なんて、思った自分。馬鹿。
「なっ、どうしたん、ですか?」
「どうって……中々戻ってこねぇから、心配したんだよ」
怒ったような声。
知ってる。
こういうとき、先輩は、怒ったみたいな声で、困ったみたいな顔で、でも、返事を促すように、優しく、笑う。
「あ…大丈夫です。ちょっと、考えごと…してて…」
「考えごと?やめとけよ。トイレで考え事とか、おっさんになるぞ」
「ふっ。なんですか、それ」
あ。今あんまりうまく笑えなかった。
気づけば、余計に喉が詰まった。
「すみません、もうちょっとで、出ますから」
「下ネタ?」
「もう。違い、ますよ」
もう、いい。
いいから、やめて。
早く。あっち、行って。
「廊下は、冷えます。早く、あっちに…戻ってて、ください」
先輩の言葉は、冗談すら優しい。
立ち上がろとする先から、視界が滲んでく。
「冷えます、ってなぁ…お前の方が、寒いだろうが」
え?
「お前、ホント……頼むよ」
ぼやけた視界。
耳朶を、声が貫いた。
「せ…んぱ…」
私は、縫い止められたみたいに呆然と、見つめるしかなかった。
ぼやけた、白々しい光の個室をきりとって。
柔らかい闇を背に、先輩が、立っていた。
なんで…
「っや!勝手に、開けないで、下さいよ」
慌てて立ち上がって、背を向ける。
「鍵なんか、してなかったじゃねぇかよ」
「っだからって…っ」
ドア越しだった声が、毛布ごしだった声が、直接私に響いてくる。
だから、だめ。
それだけで、また、涙が。
「そういう、問題じゃ」
いいかけて、抱きしめられた。
強く、強く。
「……枕、濡れてた」
息を、することさえ忘れた。
「泣いてたろ…独りで」
その声は、強く。
強さのあまり、かすれていた。
「なんで…ひとりで泣くんだよ…どうして、こんなとこで…」
かすれた声は優しく。
溢れる優しは、あまりに切実で、切迫してて。
私に対して、あまりに無防備で。
私の息一つで、傷ついてしまいそうで。
私は、動けなかった。
「一体、何が問題なんだよ!?なんで、隠れて泣いたりするっ…」
あぁ…。
あぁ
全身で、全てで。
求められてるのがわかった。
私は、これから、何を、言っても…この人を傷つける。優しい先輩を、苦しめる。
こんなの…。
「だって…っ」
だから、こんなの。
こんな風に、なりたくなかったのに。
「だっ…てっ…先輩、夢、叶って…のに、私…邪魔…したく、なかった…」
「緋織…」
「背中…押して…がん、ばってっ、て…言う、つもりで…」
あぁ、こんなのやだ。
喜ばしいことなのに。
夢が近づいたのに、笑えないだなんて。
なんて情けない。
だからした決意も、みっともなく露見して、簡単に崩れて。
ただの押し付けになりを呈して、優しい先輩を傷つけて。
それなのに先輩は、情けなく泣く私を、抱きしめてくれる。
「…めん、なさ…」
「緋織」
「ごめん、なさい…こんな、じゃ、マネージャーも…彼女も…失格」
顔を歪めると、今度は、力無く、あっけないくらい、簡単に笑えた。
「…馬鹿ヤロウ」
「…っふ」
突き崩すような激しさに、感情さえ消えてめまいがした。
「失格って…なんだよ、それ。ゲームか何かか?」
「んっ」
「…なんも、無いだろ。俺らの間には。まだるっこしいルールも、問題も、何も」
後ろに感じる、硬い壁の感触。
骨ばった、大きな腕に閉じこめられて。
吐息混じりの囁きが、唇にこぼされる。
何か言おうと口を開くもけど。
黙らされるように、もう一度。
唇を、奪われた。
「何もきかねぇ」
「ーっや」
「……隠すなよ…頼むから」
空気と一緒に、思考まで奪われる。
先輩、唇…熱い。
かわりに熱を注ぎこむみたいに、口移しで言葉を紡ぐ。
「お前が…ドイツ行き、喜んで、くれてんのも…」
苦しくて、少し唇が外れる度に喘ぐ、私の吐息も。
震えも。
「離れたく、ないって…思って、くれてることも」
悲しみも。
消し方がわからなくて、くすぶり続けてた、冷たい熱も。
「ぜんぶ…わかってる」
痛みさえ。
全て。
奪っていって、包み込む口づけ。
「……あ」
痺れる。
痺れて、真っ白に、焼き尽くされるみたいな、幸福感。
瞼の下の先輩の、鮮やかだった残像さえも焼き尽くす、爽快感。
「だから、無理すんな…俺には、ずっと素直でいてくれよ」
「…せん、ぱい」
私は、先輩の首にしがみついた。
「先輩ぃっ」
もう、先輩しかみえてない。
「緋織」
全て奪って、払拭して、与えてくれた先輩は。
優しく、不敵に、堂々と、笑った。
「緋織、愛してる」
百獣の、王様みたい。
気高く強く、優しく。
「私も…愛して…」
言い終えないうちに、噛みつくようなキス。
食べ尽くすように、深く。
生きてくために、必要なんだって、叫んでくれてる。
「…ひ…おり」
「…んっ、ぱっ…い」
先輩。
先輩と一緒にいたい。
もっと一緒にして欲しい。
食べ尽くして。
ひとつにして欲しい。
欲しい。
だから。
「っはぁ…せんぱい…私…わ、たし」
全てを奪って。
何もかも、捧げさせて。
三つ目のキーワード、なんて書こうか迷いました。
初めての夜?
初夜…はちょっと奥ゆかしすぎるし。
だって、初エッチって…なんかちょっと、爽やか指向のこの作品には、少し下世話かな〜、と。
まぁ、結局書いたんですが。