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毒ではなく、呪い?

毒ではなく呪い。

犯人の持つ依り代を燃やせば解呪できるかもしれないとアレンは言う。


(「よし、情報を共有しよう。協力してくれ」)


アレンが眉を寄せる。

ミシェルを危険にさらしたくないのだろう。

だけど、このままではミシェルの立場は悪いままだ。


私に促され、アレンはミシェルの腕に自分の腕を重ねた。

ミシェルの手が押し出される。

<ペンを>

ミシェルの手を使ってアレンは書いた。

隣に座るユーリスの腿に。

「「え?」」

ユーリスとミシェルの声が揃った。

仲のいいことだ。

<ジークだ。ペンを>

「アレン、冗談なのか?」

ミシェルは首を振った。

「ぼくの意志じゃない。怖いよ、ユーリス」


ユーリスは顔をこわばらせながら、使用人にテーブルを運ばせた。

紙とペンも。


<ユーリス、私だけが知っていること聞いてみてくれ>

恐怖に青ざめたミシェルは今にも倒れそうだ。

可哀そうに、自分の意思とは無関係に動く手など恐ろしくてあたりまえだ。

アレンが恨みがましく私をみている。

だけど、意思疎通の手段はこれしかない。

「ぼくの苦手な食べ物は?」

(「ロブスターだ。生け簀のロブスターに名前を付けて毎日見に行っていたのを知らずに食べさせられた」)


「兄上!」

ユーリスが叫んだ。

「へ、陛下?」

ミシェルはいやそうだった。



前国王の時代からの家臣だという主だった連中を広間に集める。

ぐるりと全員を見回して、ユーリスは声を張った。

「犯人はこのなかにいる!」


その場は騒然となった。

「なにをバカなことを」

「我々の忠誠を疑うとは」

「アレンめに何を吹き込まれたのか」


予想通りではあるが、皆腹を立てている。

顔色を無くして逃げる奴がいれば簡単だったけど、そううまくはいかない。

だけど、なにかしら反応はあるはずだ。

アレンもミシェルも全員のリアクションに気を配っている。


「いいから、きけ!」


「ユーリス様。我々一同、陛下のためであれば死を恐れるものではありません。

 また陛下に万一のことがあれば、ユーリス様をこの偉大なヴァ―ゲル王国の新しい主としてお仕えする所存でございます。

 家臣の無い王などありえません。身元の知れぬものを寵愛し忠臣を疑うことは王国の根幹にかかわります。どうぞご短慮なきよう」


慇懃ではあるがどこか尊大な言葉でユーリスを宥めたのは、長身痩躯の老人だった。

先々代の頃からの重臣だ。

今も逆上して詰め寄る連中の後ろで泰然と構えている。

まとめ役なのは間違いない。

彼の言葉なら、信じる者は多に違いない。

それに、私の死んだあとの計画もすでにあるらしい。

「短慮だと?」

「ヴァ―ゲル王家に3代にわたりお仕えしたこの年寄りの言葉、どうぞご一考を」


私は幼い頃から慣れ親しんだはずの男の顔をまじまじとみつめた。

声音は穏やかだが、その目は鋭い光がある。

良き王になられよと常に励ましてくれた声だった。


そうか。

おまえが、私を殺そうとしているのか。



『ユーリスも、生まれなど気にせず好きに生きればいいと思っている』

あいつにそう言った時、黙って頷いた内心はどれほど怒りに満ちていたのだろうか。

あれがきっかけになったのだと今はわかる。

この状態になってから彼らの本音を聞く機会が増えた。

この王国を愛し、その象徴である王家を守りたいのだ。

裏切り、ではないな。

彼らにしてみれば先に裏切ったのは私のほうだろう。

私が死んだらユーリスを王に据えて絶対王政の継続を目指すつもりだ。

ついでに邪魔なミシェルを排除できればなお良いというわけだ。


まあ、ユーリスにその気はないだろうけれど。


アレンと話したかった。

ユーリスは改革派の領主たちと共に行動を開始する。

うまく呪いのもとを破壊すれば私は意識を取り戻せる。

それはアレンとは話せなくなるということだ。

ミシェルの近くにいるから一方的に話しかけることはできるが、どうみても不審者だ。

返事は聞こえないし、姿を見ることもできない。

誰にも顧みられず、寂しくはないのか?


アレンと会えなくなることが、私は寂しい。

彼の孤独を思うと胸が張り裂けそうだ。

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