レジスト7 異邦トラック、ダメ絶対! 3rd Attack
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10月27日 午後12時50分
天星高校 校門〜校舎間の遊歩道
昼食休憩中の校内へ2台のトラックが突入して20秒ほど。
その荷台から降りてきた黒い人型の異形達の前に、渋団扇を持った褐色肌の女警備員が、空からフワリと降り立つ。
「ヤレヤレ、こんな堂々と乗り込んでくるなんてネ……。こっちの世界じゃ、化け物や神秘の類は無い事になってんだヨ!」
女警備員改め、黒闇天女は愚痴を零しながら、渋団扇の先を直上へ振り上げる。
瞬間、薄曇りだった秋の昼空は墨汁色の雲に覆い尽され、秋雨の再来が如き大雨が、校舎の窓からこちらを伺う人間たちの視界を遮る。
中庭や屋上で弁当を広げていた生徒たちは、校内放送で最寄りの校舎内へ避難を始めていたものの、その多くは運悪く、下着までずぶ濡れになった。
「……さて、追加で10人くらいは風邪で寝込んで貰うか。アンタらのせいで、そんだけの被害がでたんダ。この対価はきっちり払って貰うヨ」
不可視の結界で雨を防ぎつつ、黒闇天女は迎撃の為に徴収する運気について算盤を弾くと、豪雨に打たれている敵を見据える。
だが、漆黒のデッサン人形のような異形どもは、打ちつける雨の衝撃も寒さも感じていない様子で、あるかも解らぬ知性で敵と判じたらしき個体から、黒闇天女へと無音で襲い掛かり始める。
「名乗りも無しかい!無作法だネ!」
黒闇天女は後ろへ飛び退りながら、再び渋団扇を一閃させる。
そして、運悪く、先頭を征く2体へ雷が直撃し、黒き異形は内部から破裂する。
しかし、それが落雷に由来するものではないと、黒闇天女は即座に見抜く。
「……ちっ、中に発破の類を仕込んでやがるネ。狙いは坊やとの心中ってところかネ」
破片の飛び散り具合から、かなり威力のある自爆兵器と断定する。
「(校舎へ入れっちまうとヤバいネ。……それと格闘技禁止……捌ききれるカ……)」
更に距離を取りながら、黒闇天女は三度渋団扇を振るう。
すると、異形の群れの先頭数体が運悪く欠けていた舗装に躓き、後続が更にその上へ倒れ込むと、ギャグ漫画のような人形の山ができる。
そこへまたもや運悪く、大気を突き破った電気エネルギーの塊が、今度は3連続で直撃する。
バリバリバリ……ダガーーン!
身体に揺れを感じるほどの雷鳴が、異形の自爆音をかき消す。
しかし遊歩道には、直径2m程の穴とバチバチと帯電しながら散乱する破片が遺った。
「はぁ、はぁ……人形の方は終い、かネ?」
疲労により雨よけの結界が破れ、頭からずぶ濡れになりながら、黒闇天女は残る大物……これまで動きの無い4トントラック2台を見据える。
アヤメの報告では、アレらは女神の放った異形による変化とのこと。実際、高校への接近を察知した黒闇天女の権能により、片方は突入直前に運悪く道路に転がるスプレー缶を轢き潰しタイヤが破裂。不意打ちを封じられていた。
「(アタシが運気を操れるって事は、間違いなく生物。殺せば止められるカ……殺せればね)」
だが生憎、こちらの貧乏神はアヤメのように一刀両断出来る刃物の類は持ち合わせておらず、巨体2つを強運と素手ゴロで倒す、というのは文字通り骨が折れるのを覚悟せねばなるまい。
……と、2対1での戦闘に備える黒闇天女だったが、相手はそれを裏切る動きを見せた。
Brrrrrr
2台の4トントラックは、共に鳴き声の様にクラクションを響かせると、 荷台側面のウィングパネルを開く。
そして、名前通りに翼の様に広げたその下からドロドロと黒い粘液が溢れ出す。
粘液は滾滾と湧き出し続け、雨に晒されながらも薄まらずに寧ろ密度を濃くしながら、ゆっくりと先程と同じ人形を形作っていく。
さらに今度は、その数は20で止まらず、無数に湧き出し続けていた。
出来上がった人形はぞろぞろと前進を始める。
「ハァ!?子宝祈願はアタシの管轄外なんだがネェ……」
黒闇天女は皮肉を吐きながら、しかし後ろへ退き始める。
「(アタシの力は一旦打ち止めダ。それに、黒いのをいくら倒しても、大元のあの怪物が生きてたら繰り返しダ……)」
ずぶ濡れの女神は、校内への退避と一般人への被害の許容を視野に入れ、対策を練り始める。
すると、思わぬ乱入者の思念が、黒闇天女に伝わる。
『おい、黒夜の、もしや戦の最中か?』
「っ!?その声、ネルガルの旦那かイ?どこに……」
と、声の主の姿を探す黒闇天女。
その時、一撃の雷鳴が轟き、同時に先程の声が悲鳴をあげた。
『ぐわっ!?おのれ黒夜っ!この雷雨は何故っ!?こぉぉぉ……桿をやられたァ!』
「……まさか、あんた……」
天を仰いだ黒闇天女。すると答え合わせとばかりに、白いセスナ機が黒雲を突き抜けて落下してきた。
ブォォォォォ…………ダガーン!
そして機体は、運悪く、敵陣の後方、黒い異形を産み続けていた4トントラック2台の間へ墜落し、ソレらを巻き添えに爆散した。
爆薬でも積んでいたのか如きの炸裂で膨れ上がった炎が、異形の群衆を背後からまとめて呑み込み、更にその先の黒闇天女にも迫る。
彼女は咄嗟に渋団扇を一振し、結果、舞い上がっていたセスナの主翼の片方が落下、運良く防護壁となるように地面に突き刺さる。
更に運良く、熱風は校舎の手前で力尽き、被害は、破片が数枚のガラスにヒビを入れた程度で収まった。
「……ふぅ、こりゃ儲けたね」
主翼からひょっこり顔を出し確認すると、人形の群れは全て焼失し、跡には墜落したセスナの残骸と、トラックに化けていた怪物二匹の死骸が、雨の中で燻りながら横たわる光景が広がっていた。
そして、遺骸の奥でモゾモゾとナニカが動き、怨嗟の声を挙げた。
「何が儲けた、だっ!こっちは大損だぞ、黒夜!」
そして遺骸の肋を乗り越え、黒いレザージャケット……の焼けた残骸を纏う益荒男が姿を現した。