レジスト5 転校生ヤガミアヤメ
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10月26日 正午
天星高校
診察の結果、どちらも軽傷だった八代と武は、本人たちの希望もあり、荷物を取りに学校へ戻る事となった。
「まぁ、今日は現場検証やらで臨時休校になったからな。神野は自宅へ、伊佐美は寮へさっさと戻るように……」
車を運転する校長先生は後部座席の2人へ命じた。
すると、カーラジオから聞こえる内容が、歌謡曲から定時の報道番組に替わる。
<<ここからは、これまで入っている主なニュースをお伝えします。始めに、今朝発生した落下物による事故の続報です>>
「お、何か進展があったか?」
<本日午前8時半頃、天星高校敷地内で発生した、車両落下事故について。車両の特徴から自衛隊の輸送トラックと見られ、警察との合同検証が行われておりましたが、細部が運用されているどの車種とも異なる事、事件発生時刻にどの基地でも空中輸送は実施されて居なかった事などから、何者かによって偽装された車両であると、合同記者会見の場で明らかにされました……>>
「しっかし現に降ってきた上に、怪我人まで出てるんだがなぁ……。じゃあどこのどいつが落っことしたってんだ?神様仏様か?」
後ろの2人を気遣ってか、校長は憤りの声を上げた。
あのトラックの出処が別時空の女神だと察している八代は、なんとも言えない表情で、誤魔化すように窓の外を眺める。
すると、窓ガラスに反射して視えた武も、何やら思うところがある様子。黙々とこちらを見つめていた。
「(……思えば、最初に気づいたのは武の方だったな)」
やはり神社の子として、神々の争いについて何か知っているのだろうか?と朝の疑念を思い出す八代だったが、校長の居る中では聞きづらい、とこの件を保留することに決めた。
すると、信号待ちの合間に、ふと思い出したと、校長が呟いた。
「あぁ、そうだ。本当は今朝のHRで紹介する予定だったんだが、お前らのクラスに転校生が来るぞ」
「「えっ!?」」
と、八代と武は同時に驚きの声を上げた。
「何でも、貿易商のご両親が桟更へ転勤になったそうでな。だが海外へ出張する事が多いからと、寮のあるウチに転校して来たらしい。伊佐美はもしかしたら、今晩の夕食時にでも見かけるんじゃないか?」
校長はそれ以上の詳細は明かさなかったが、後部座席の2人は、それぞれに考え込んだ。
「(この時期に転校生って不自然だろ。まさか、女神の刺客じゃ……)」
「……まさかな、あのババァでも流石に年を考え……」
と、武も転校生にどこか心当たりがあるようで、何やら気になる単語が漏れ聞こえてくる。
が、直後に車が学校へ到着した為に、深く吟味する事ができなかった。
それから後、2人は教師陣から労いの言葉をかけられながら解放され、武は自宅へ、八代は寮へと、それぞれの帰途についた。
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午後
附属寮内 コミュニティルーム
天星高校の附属寮は、八代を含め3学年90名が暮らしている。
建物は玄関を校舎へ向けての凹字形3棟建て。2階以上は中央南館を境界として、西館が男子棟、南館が女子棟となっているが、1階は全体が男女共用スペースとなっており、食堂と男女別の大浴場、多目的のコミュニティルームが設けられている。
その寮内共有スペースは現在、朝の一件で休校となった為に、普段は利用時間がバラけている生徒たちが一同に集まり、混雑気味となっている。
一部は自室に籠もったものの、残りは暇をもてあまし、利用時間外ながら特別に開放された食堂か、私物持ち込みOK(ただし管理は自己責任)のコミュニティルームに分散していた。
八代はまず食堂を覗いたが、見知った顔はおらず、消去法でもう片方へと向かった。
壁際にずらりと本棚が並び、一見すると図書室に思えるその部屋には、30人ほどが屯しており、使用の際に一々帳簿へ予約の記入が必要なテレビとメディアプレーヤーを使って、有名な怪獣映画を見ていた。
入室すると、扉の開閉音に気づいた何人かは振り返ったが、一人を除いて、怪獣とアイロンのような形の兵器の戦いに視線を戻した。
その一人、屯する群衆の最後方に居た迷彩柄の私服姿の男子は、静かに席を立って八代へ近寄ってくる。
「伊佐美くん、伊佐美くん。大事なお話がありますぞ」
「あ、キリュウ。……すまん、GMKのDVDは今部屋なんだわ」
キリュウと呼ばれた同級生、桐生院義人は、そっちじゃないと首を横に振った。
「アレはいつでも良いです。それよりも……女子寮の方で第一種警戒態勢ですぞ」
「うん?なんじゃそりゃ……って、確かあの映画の奴か」
視線を向けると、場面はアイロン型兵器の先端が開き、怪獣の吐いた熱線を打ち返すところ。
怪獣の咆哮に、視聴者の数名が歓声をあげる。
「すげぇなアイロン」
「アイロン言うな!あれはスーパーえ……」
「うるせぇ、黙ってみてろ!」
と、そんな小さな馬鹿騒ぎを横目に、八代は特撮オタクな友の言葉を脳内で翻訳する。
「……え〜なになに、女子寮にGの気配?ゴキジェットなら食堂のおばちゃんに分けて貰えるだろ」
「誰がゴキブリの活動なんぞを化学、地質、 気象、精神などいかなる点で一つ確認するもんですか!……確認したのは転校生ですよ、転、校、生!」
「転校生……あぁ。さっき校長から聞いたわ」
と、病院帰りのやり取りを聞いた義人は、ガックリと肩を落とす。
「なんだ、知ってたんですか。……ちなみに、生徒会の女子が引っ越し業者のダンボール箱を4階へ運ぶのが見えた、という内容だったんですぞ」
「いやそんな惜しむような事じゃねぇだろ。というか俺の怪我の心配しろよ」
「だってネットニュースで、命に別状のない軽傷ってでてましたもん」
「ドライな奴だなぁ……しっかし、その転校生本人の姿は見てないのか?」
手近な座席に腰掛け、八代は訊ねる。荷物が届いている以上、本人不在ということはあるまい。
が、義人は肩をすくめて返す。
「姿を確認したら、ソレ第三種警戒態勢ですぞ?」
「いやそもそも転校生を警戒すなや。……と、誰か転校生を見たやついるか?」
映画鑑賞中の面々のうち、見知った顔に声をかける八代。
しかし、彼らはいずれも八代の方を見ずに返答した。
「さぁ?俺らはずっとここで『vsシリーズ一気見会』してたし……」
「女子寮の事は女子に聞けよ」
すると、下級生の一人が手を挙げた。
「あ、多分あたしの隣の部屋に入るんだと思います。降りてくる時、会長と、妹の方の法隆寺が掃除してたもん」
「……だ、そうですぞ。まぁ夕食時に寮長から紹介があるのでは?」
「……ふ〜ん」
と、八代は生返事して席を立ち、出入り口へ向かう。
「おや伊佐美くん、ビオゴジ見ていかないので?」
「もう3回は見てるからな。……それより疲れたから眠ぃんだわ」
海中に消える怪獣王とシンクロしたように欠伸を一つ吐くと、八代はコミュニティルームを辞した。
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寮内1階 ロビー
言い訳でなく、本当に眠気を覚えた八代は、自室に向かうべく、中央棟のエレベーターホールに向かう。
他にも帰宅する生徒がいたのか、カーゴは最上階に上がっていた為に、降りてくるまで暇をもて余す。
すると、背後から声をかけられる。
「あの、すいません。女子寮の3……05号室というのはどこでしょう」
「あ、それなら隣の赤い扉のエレベーターで3階に……ん?聞き覚えのある声……ってアヤメさん!?」
「おや、八代さんでしたか」
振り向くと、そこにはキャリーバッグを引きずり、何故か天星の学制服を纏っている、死神の少女アヤメが居た。
驚く八代を目の前に、エヘヘとそばかす顔に笑みを浮かべると、アヤメは告げる。
「八代をより間近で警護できるように、転校生として潜入することにしたんです」
「転校生って、アヤメさんの事だったのか」
「はいっ、八神菖蒲17歳。島根の…、えっと……なんとか高校から転校してきました」
曖昧な自己紹介に、八代はがくっ、と転びかけた。
「アバウトだなぁ……それ、もしかして偽造した身分?」
「そりゃそうですよ。私、死神ですから。記憶や記録の改ざんが得意な神様の一柱が、チョチョイ、と。ちなみに八神という名字は、自分で考えたんですよ」
「何故にヤガミ?」
「『シニガミ』との掛詞です」
両手で4と2を表し、『“四”“二“ガミ』と読ませる菖蒲。
4×2=8、『四二が八』である。
「ダジャレかよ」
「掛詞と言ってください!……って、それよりも、早く部屋を教えてください。荷物置きたいんですから、っと」
わざとらしく、ドシンとキャリーバッグを置き直す菖蒲。
やれやれと溜息を吐き、八代は女子寮側のエレベーターのボタンを押す。
「305号なら3階の角の辺りかな。降りたら左ですよ」
「ありがとうございます。……あと、明日からは同い年なので、敬語はやめよっか、八代くん」
「いきなり下の名前は気休すぎでしょ。八神さん」
と、無駄話をしていたらカーゴが到着した。
降りてくる生徒はおらず、菖蒲はキャリーバッグと共に中へ入り、3階行きのボタンを押す。
「では、また明日ね、八代……もとい伊佐美くん」
「また明日、……あ、そうだ。昨晩と今朝はありがとう。特にあの蹴り、お陰でまた助かったよ」
と、言いそびれていたお礼を述べる八代。
しかし、菖蒲は一瞬キョトンとして、何かに気づくと慌てて訂正しようとする。
「あっ、違うの!今朝のは……(ガチャン)」
が、肝心なタイミングで、無情にも扉が閉じる。
入れ替わりに、男子寮へのカーゴが降りてきて、八代は入浴セットを持った数名と入れ替わりに、自室へと戻った。
その後は、夕食を菖蒲の紹介で賑やかになった食堂で取った後、大きなトラブルもなく、一日が終わった。
神々のゲーム終了まで、あと4日。