レジスト4 異邦トラック、ダメ絶対!2nd Attack
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10月26日 朝
天星高校 附属寮 404号室
目覚まし時計のアラームで、八代は起床した。
「あれ?……いつの間に寝てたんだ?」
起き抜けの頭で回想するも、昨晩の記憶がすっぽりと抜けていた。はて、昨日の夜は何をしていたのだったが、と。
が、ふと目に入った自分の服装、買った覚えのないスポーツウェア姿で、全てを思い出す。
行方不明の同級生を装った電話に誘い出され、深夜の交差点でトラックに引かれそうになった。
しかし、死神の少女がそれを真っ二つに両断し、自分を助けてくれた。
そして、自分が別時空の女神に狙われており、この世界の神々がそれを阻止しようと少女を派遣した事を知らされたのだった。
「……壮大な世界観だなぁ。ラノベかよ」
しかし夢や妄想ではない証拠に、手の爪の間には、まだ化け物の血が残っていた。
ベッドから抜け出て、洗面所で念入りに血糊を落としながら、八代は鏡を見てハタと気づく。
「そう言えば、アヤメさんは?」
返り血で汚れた衣服の代わりを用意してくれたのみならず、誰にも察知されずに寮の自室まで送り届けてくれた死神の少女。彼女はあれからどうしたのか。
ハンドタオルで水気を拭き取りながら、部屋を改めるも、書き置きや伝言の類は見つからなかった。
「……お礼、ちゃんと言えてなかったな」
別時空の女神が自分の魂を狙うと宣言した期間は今月の末まで。
その間、これまでと同じように何処かで、文字通りの陰ながら守ってくれているのだろう。
だが、面と向かって感謝を伝えられなかった事に、少し恥ずかしさを覚える八代であった。
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同日 午前8時30分
天星高校 敷地内
段々と肌寒さを覚え始める秋晴れの朝。他の寮住まいの生徒に混じって登校する八代に、背中から抱きつく者がいた。
「よっ、や〜しろ!久しぶりぃ!」
「ひっ!?……てなんだよ……タケシか……久しぶりって、一日休んだだけだろ……ったく」
衝撃を覚えた一瞬の内に、昨日の件がフラッシュバックし、警戒心を露わにした八代だったが、相手の顔を見てすぐにそれを解いた。
神野武。いわゆる『悪友』という奴だ。
家は本土のとある神社の宮司の分家筋で、人工島である桟更区が出来たときに、その本社から勧請(簡単に言うと神様の分霊を引っ越し)された分社を管理している。
昨日はその神社の祭事の日だったのだが、宮司である武の父が定番のトラブルにて行動不能となり、代わりに武が代理を務めたのだった。
日頃、宮司の息子という肩書きについて「名ばかりで何の権力もない」と本人が嘯く故に、八代も気にはとめて無かったのだが、昨日の件が注意を引かせた。
「……なぁ武。昨日、何か変わった事はなかったか?……その、親父さんの腰、以外で」
「ん?……いや特には。……いつも親父がやってるように、赤飯と油揚げを捧げて、祝詞を唱えて……まぁ、参拝客は少なかったな、ご時世の所為か。……て、そっちの方に何かあったのか?」
と、普段と変わりない態度で聞き返してくる武。
「(この反応、神々の争いについては知らないみたいだな。)……いや、お前が言った通り、このご時世だから……」
訝しむ悪友に誤魔化した答えを返して、八代は歩を進める。
が、ふと武が立ち止まり、それに気づいて振り向くと、宮司の息子は空を睨んでいた。
「どうした?たけs……」
「八代、今すぐ校舎へ逃げ込めっ!」
と、今度はいきなり八代の背中を突き飛ばす勢いで押して、先を急がせてくる。
そんな2人を、唐突に黒い影が覆った。
反射的に空を向くと、太陽に重なった何かが、こちらを目掛けて落ちて来るのが見えた。
段々と輪郭がはっきり見えてきたそれは、昨日とは違う型のトラックだった。
「何で上から!?」
「いいから走れ!お前に落ちてくるぞ!」
悪友の警告で、本能的に走り出す八代。
他の生徒も気づき、悲鳴を上げながらレンガ敷きの遊歩道をてんでばらぱらに逃げ回る。
八代達も頑丈な校舎を目指して走るが、トラックは八代を追尾しているかのように、落とす影の直径を広げながら迫る。
昨晩の恐怖がフラッシュバックし、八代は歯を食いしばり念じた。
「(助けてくれ!アヤメさん!)」
直後、ガシャーンという金属のひしゃげる騒音と衝撃波が、八代達の背中を襲った。
前のめりに倒れる八代と武。肘と頬にひりつく痛みを感じながら、八代は起き上がり、後ろを振り向く。
すると、深緑色で荷台に幌をつけた軽トラックが、屋根をこちらに向けて、おおよそ5メートル離れた地面に叩きつけられていた。
「まっじか……直撃コースだったが……奇跡だな。いてて」
同じように、顎を擦りむいた武が、その場で寝転がりながら、安堵の溜息を吐いた。
その後、騒ぎを聞きつけた教員や巡回中の警邏が駆けつけ、八代たちは病院へ運ばれた。
教員の車で搬送される中、八代は目に焼き付いたトラックの屋根の様子から、助かった訳を察した。
「(あの蹴りつけた跡……アヤメさんだ。お礼が、また一つ増えちゃったな……)」
金属板にしっかりと刻印されたローファー状の足型に、死神の少女の気配を感じた。
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しばらくの後
桟更区立飛騨総合病院 ロビー
<<……速報です。先程午前8:30分頃。桟更区立天星高校で、トラックが空中から落下する事故が発生。負傷者が出ている模様です。繰り返します……>>
褐色の指が、ポータブルラジオのスイッチを切る。
「ヤレヤレ……コリャ大事になるネ〜。後始末はだ〜れがやらされるんだカ。あの“外様”は隠匿って言葉を知らんのかネ?」
持ち主の女性は、外したイアホンを指で弄びながら、愚痴をこぼす。
その隣に座る死神の少女アヤメは、診察室から目を離さずに、問いかけに応える。
「残り1週間を切って、アチラも余裕が無くなってきたのでしょう。精神世界からの攻撃は、尽く潰してやりましたから」
「キヒヒヒ、しかもやったのがあんたみたいな新米の小娘だったもんだから、策と一緒にやっこさんの面目も丸潰れだわナァ。……ま、それでブチギレて強行手段に出てくるってんなら、油断はならないんだけどネ」
「はい。……先程はありがとうございました。私の速さでも間に合いませんでしたから」
自戒の念も込められた謝意を、女性に伝えるアヤメ。
その項垂れた頭にポン、と手を載せて撫でながら、女性は励ましの言葉をかける。
「あんたは良くやってるよ。人間にバレないように、なんて縛りをかけて、単独で護衛させたのはアタシらの落ち度サ。……ま、先に底を抜いたのは外様の方ダ。ならこっちも、本気の布陣でかかるヨ」
「……では?」
アヤメの確認に、八百万の神の一柱は強く頷く。
「アタシも参戦するヨ。加えてもう一柱、とびっきり相性の悪い相手も呼んどいた。アンタとアタシとソイツ、三柱そろえば最強、いや『最凶』の防御になるだろうネェ。じゃ、根回しを始めますカ」
女神は蠱惑の笑みを浮かべ立ち上がると、携帯端末を取り出し、外へと出ながら登録済みの番号へかける。
「……もしもし?アタシ〜。ぎっくり腰の調子はどうヨ?……用事?ニュース見てないノ?………キヒヒヒ、安心しナ、あんたの息子は生きてるヨ。頼みたいのはその件でネェ……」