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レジスト1  異邦トラック、ダメ絶対! 後編

#####

しばらくして 

4丁目のオフィス街


 NTTの公衆電話検索システムを使い、東雲(しののめ)雲雀(ひばり)が待つはずの電話ボックスを見つけた八代。

 しかし中にも、その周辺にも、女子高校生の姿は見当たらない。


「はぁ、はぁ……し、東雲は?」


 疾走により、思考が乱れる八代。

 すると、件の電話ボックスから、呼び出し音が聞こえてきた。


ジリリ、ジリリ、ジリリ、ジリリリリリ……


「な、なんだ?」


 ゾワリ、と八代の胸の内に、嫌な感覚が広がる。

 逃げろ、と警告する本能とは逆に、八代は電話ボックスに入り、受話器を取り上げる。


「……も、もしもし?」

<<ニゲテ!ソコカラ、ニゲテッ!>>

「っ!?この声、夢の中の……」


 その濁声が聞こえた途端、八代の背筋を悪寒が走った。

 反射的に受話器を放り投げ、電話ボックスから逃げるように飛び出すと、道路を挟んだ向かいに()()はいた。


 黒と、黒の中に白い点……いや違う。

 ガードレールを基準に、八代と同じ背丈とみた人影。

 黒いレインコート、否、黒いフード付きのマントを羽織ったその人物の顔は、漆黒の中で唯一の白……白い、骸骨。ドクロだった。


 死神。


 その単語が、自然と脳裏に浮かんだ。

 それを証明するように、対峙する人影は、真っ直ぐ伸ばした右腕を横に掲げると、ぐるりと反時計回りに一周させる。


シャリリン


 金属の擦れる、いや研がれる音が聞こえたのが早いか、気づけば黒マントの腕の先には、街灯で刃が煌めく鎌が握られていた。


「か、かま?しにがみ?死神なのか!?……まさか、俺を!?……う、うわあぁぁぁ!!」


 八代は叫び声を、上げながらどことも決めずにその場から逃げ出す。

 だが、ふと横を見れば、さっきの死神が、鎌を身に寄せた姿勢で向かいの歩道を並走していた。


「ヒッ!?……だ、誰かぁぁ!」

 

 助けを求めて、憚りなく叫ぶ八代。

 すると、ビルの間を木霊したような女性の声が聞こえた。


『……こちらへ、早く!』

『っ!?』


 その声があちらにも聞こえたのか、警戒するように死神はブレーキをかけた。

 それ幸いと八代はスピードを上げ、ふと閃いた行き先、目の前に見える横断歩道の先を、全力で目指す。


『ダメッ!トマッテッ!ヤシロサン!』


 悪寒を伴う濁声が、自分を呼び止めようとする。

 

「嫌だぁ、止まらないぃ!止まると死ぬゥ!」

『ダメッ!車道ニ出テハッ!信号ッ!』

「え、しんごうって……っ!?」


 ふと、八代が見上げた信号機の色は、赤色だった。


「(あ、やべっ……)」


 足を止めようとするも、身体は既に車道の上。

 そして八代の身体が、真横から強い光に照らされる。


PHaalalalalala……


 クラクションが聞こえ、周囲の時間が急に失速する。

 光源の方へ顔を向けると、目測5メートル先に4トントラックと思しき車体が見えた。

 2つのヘッドライトが、まるで生物の両目のように八代を捉え、バンパーはニヤリと歪む口に思えた。


「(あぁ、これは……死んだ)」


 4メートル、3メートルと近づく鉄塊を前に、八代は思った。思考がフル回転してるのか、時間の流れがゆっくりにかんじられる。

 振り向いた拍子に足がもつれたのか、いつの間にか掌を擦りむいて、地面に尻もちをついていた。

 2メートル、これまで以上に、全身を悪寒が包み込む。

 あぁ、これは死の気配だったのかと、不思議と冷静な思考なままで、八代は悟る。すぐ後ろに、あの死神の存在も感じ取れた。

 1メートル、シャリンっと、鎌が振るわれる音が聞こえた。


 そして0メートル。歩道の防犯カメラは、画面右から来たトラックに呑まれる八代の姿を捉えていた。


 だが、……-(マイナス)1メートル。八代は不思議な光景を目にした。


「(へぇ、トラックの断面って、ピンク色なんだ……肉みてぇ)」


 -2メートル、-3メートル……と、パックリと縦一線に割れ、八代の手前30センチ程から左右に別れたトラック()()()()()は、そのまま彼の左右を通り過ぎていった。

 その内側の断面は八代の呟きの通り、赤みがかって弾力があり、そして、血が吹き出ていた。


プッシャーー………ドシン!


 過ぎ去り際に真っ赤なシャワーを少年に浴びせた()()()()は、慣性の法則のまま後方数メートルまでゆき、やがて力学的にも生物学的にも力尽き、二枚卸の切り身のようにバタリと倒れた。

 

「………ほえ?」


 間抜けな声を出して八代は放心する。

 そんな彼の目の前、ナニカの遺した血溜まりへと、空から誰かが着地する。


『ウワァ……失敗シチャッタ。ヤシロサン、ゴ無事デスカ?』


 と、鎌の柄を支えにしゃがみ込んで、八代を正面から観察するのは、先程の死神。

 やはりその顔は表皮も筋肉も血液もない、真っ白な髑髏で、歯は綺麗に揃っていながらその奥も、鼻腔も、眼窩も、漆黒の伽藍洞となっている。

 真っ暗闇に見つめられ、八代はハッと我に返り、そのまま血溜まりの中を後退る。


「あわわあわわわわああ!?許して!殺さないで!殺すならせめてパソコンのデータ消してからにしてぇ!」


 が、死神は何故か呆れた様子で溜息を吐き、立ち上がるもその場に佇み、八代を見下ろす。


『ハァ……殺シタリナンテ、シマセンヨ。ダイタイ……』


 と、死神は鎌を黒いモヤに変えて宙空に消すと、両手でフードを掴み頭部を顕わにする。

 すると、頭蓋骨が一変、同年代の少女の顔に変わる。

 皮膚も目も鼻も耳も揃い、そばかすまである普通の人間の頭部で、髪は黒く、後頭部から伸びた三つ編みが、肩から前へ垂れ下がっている。

 やや垂れ目気味の、少し疲れた表情のその少女は、えへっ、とこちらの緊張を和らげるように微笑み、告げる。


「八代さんのパソコン、エロゲーとかエロ画像とかは入って無いでしょう。律儀にR18守ってる優等生さんなんだから」


 と声まで普通に成った彼女に驚きながらも、八代はその発言の一点が気になった。


「なぜ、パソコンの中身をしってる?」

「あ、弁解すると、調べたのは私じゃないですよ。倶生神(くしょうしん)さん……八代さんの記録係さんからの情報です」


 と、そこでハタと何か思い出した様子で、少女は佇まいを但し、その場(血溜まりのど真ん中)に躊躇いなく正座すると、尻もちをついたままの八代に目線を合わせ、名乗りを挙げる。


「私、アヤメと申します。伊佐美八代さん、あなたをとある女神の奸計(かんけい)から守るべく、遣わされた死神です」

「女神……守る?死神が?……カンケイって、なに?」


 すると、アヤメはスッと立ち上がり、八代の後ろを指差す。

 振り向くと、そこにはトラック、では無く、何やら巨大な生物の、真っ二つになった死骸があった。


「あれです。幻術でトラックに化けて、人を喰らう魔物。喰らわれた人間は、邪念をいだく女神によって異世界へ転生させられるのです」

「異世界、転生……」

「ですが、私がそれを阻止します。すなわち!」


 先と同じ動きで、鎌を再び取り出したアヤメは、その石づきでだんっ、と地面を叩き、宣言する。


「八代さんは私が……異世界転生、させません!!」

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