ざまぁ及び婚約破棄回避のためギリ自分が許容可能なやや変態を育てる勇気
「ざまぁ」とは何かという問いに対し、「ざまあみろ」とか「ざまあ味噌汁」とか「めざまあしてぃびぃちぃ」とか「らぁふぅてぇい」とか、答えは沖縄の島の数だけ存在するとかしないとか。
主役が誰であるか?は答えがいずれであっても重要な問題であり、悪役令嬢主役でヒロインがざまぁされるのか、ヒロイン主役で悪役令嬢がざまぁされるのか、豆腐が主役で味噌がざまぁされ溶かされるのか、味噌主役で混ぜ過ぎで豆腐か消えてなくなるのか、主役はグーを出してテレビはチョキなのか、頭がパーでお腹がグーで空腹なのか。
「本日のディナーのスープはわたくしが作りましたの。だし入りかつ愛情入り味噌をたっぷり溶かしましたわ。是非ご賞味くださいませ」
「……味噌が濃い」
「恋!? まぁ、きっとわたくしの心の内が本日着用のシュミーズのようにスケスケですのね!? いやん、お恥ずかしい」
「愛をさらけ出し恋を忍ぶことは……無意味だ」
絶対氷点下零度の君との二つ名を持つ侯爵令息は、ピクリとだけ眉を動かし、表情を変えぬまま婚約者の令嬢のシュミーズ着用位置を目測した。
「具のお豆腐はイリュージョンのようでしたわ。ぐるぐるとお玉でかき混ぜておりましたら、忽然と姿を消してしまいましたの。まるでわたくしのパンティーのように」
令嬢の最後の言葉は尻すぼまりだったので、おそらくは独り言なのだろう。
絶対氷点下零度の君との二つ名を持つ侯爵令息は、ピクリとだけ眉を動かし、表情を変えぬまま令嬢の様子を窺う。心もとないのか膝を擦り合わせ、おへそからやや下の位置でドレスの布を両手で強く握り締めている。位置はそう……パンティーの辺り。そこに「着用していたとすれば」という枕詞が必要なことを、侯爵令息だけが知っている。
ここ最近、月に二度のお茶会の日には社交会デビューに備え、6時55分、6時55分という早朝から晩までのみっちりコースでダンスやマナー、貴族年鑑神経衰弱の特訓を行っている。
すると、なんということでしょう。午前中のダンス練習疲れからか、令嬢はランチを済ませると、令息と一緒にいるというのにウトウトし始め、やがて本格的な昼寝に入ってしまうではありませんか。
令息は、匠の技で令嬢をソファーにそっと寝かせ、ブランケットを掛けながら匠の技でブランケットの下のドレスの中の腰の位置にある左右の細い紐をしゅるりとほどいて匠の技でしゅるりとパンティーを抜き取ってしまうのです。まさにイリュージョン。ビフォーとアフターの違い、それは令嬢のドレスの中のパンティーの有無と、令息のトラウザーズのポケットの中のパンティーの有無。
絶対氷点下零度の君との二つ名を持つ侯爵令息は、変態に片足を突っ込んだむっつりスケベだった。
対して、令嬢の頭は石頭でもパッパラパーでもなかった。天然うっかりおちゃめ乙女に擬態した、超頭脳派したたか令嬢だった。
婚前での男女的な触れ合いは高位貴族である程はしたないとされ認められないため、婚約関係にあっても二人のキスは頬止まりだった。令嬢はそれが欲求的に不満であり、また令息が満足できているかどうかという点で不安でもあった。
婚姻まではあと二年と先が長い。
桃色の髪の男爵家庶子の編入生ヒロインにざまぁされて婚約者を盗られるつもりなど毛頭無いため、令嬢は令息のむっつりスケベ心と胃袋とをがっつり掴んで離さないと心に固く決めていた。
令嬢はサービス精神でもって一部手作りの夕食を振る舞うと共に、適度にラッキースケベ的な隙を見せ、ヒロインがドン引きしてくれて自分がギリ許せる程度に令息をやや変態に育てている。