戦士タウロス
御用達、と言える行きつけの鍛冶屋に俺とタウロスは向かう。そこで俺らは武器を調達する。その店の特徴は剣や槍の柄の先に、ライオンの絵を彫る。俺の今腰に提げている剣にも、柄に銀色のライオンの紋章がある。
性能は問題ないし、ちょっとオシャレなので知る人ぞ知る通の店だ。
「……なあ、タウロス。なんでそんな間を開けて歩いてんだ?」
途中、気になったので立ち止まって振り返りながら聞く。
タウロスは拠点であるシーダの古家から出たところからずっと、俺の3歩くらい後ろを歩いている。
東方の国では、町から一歩でも出ると命の危険があるから、いつでも剣が抜けるように抜いた時の剣の範囲に女性が入らないように、女性は男性の3歩後ろを歩くと言う風習がある。
しかし剣の範囲なんて戦士のタウロスは把握し切ってるはずだし、何よりここは街中だし、東方の国を習う必要もないのだから3歩後ろを歩くなんてしなくていいはず。
「どうしたんだよ」
「どうしたって……なんか、その」
もじもじして歯切れが悪い。
見た目は可愛らしい女の子なので、その仕草は可愛く見えるが中身はよく知る仲間のおっさんだ。可愛いだとか思うよりも先に、どうしてそんな仕草をするのかがわからず不気味で不安だ。
「腹でも下したのか?」
「あ、便所とかどうしようかって考えてはいたけど……そうじゃなくて、さっき公爵に突っかかられただろ? なら俺が近くにいると……」
「そんなことか? だとしたら逆だ」
「え?」
「公爵様に啖呵切ってああまで言ったんだから、友人として接してくれなきゃ逆に怪しまれる。できる事なら普段通りとはいかなくても、気兼ねなく接してほしい」
「……とは言ってもな」
「なら俺が下がるわ」
「ま、待て!」
俺の方が歩幅を合わせにいけば良いと思ったが、タウロスは逆に一歩下がって俺を手で制止した。
「タウロス? 本当にどうしたんだよ」
「……なあ、レッド。ちょっと落ち着いて話せる場所に移動しないか」
「話?」
切実そうな顔のタウロスに頼まれて、俺たちは喫茶店に入る事にした。
店に入ると顔見知りの店長から茶化された。頭をかいて誤魔化しつつ、2人で話せる場所が欲しいと言うと、喫茶店の奥の部屋に案内してくれた。そこは従業員の使う場所。ここなら他の客も気にせず、また店長さんもコーヒーや菓子を持ってきてくれるとのこと。
「ここなら話せるだろ? それで話ってなんだ?」
「……俺さ、やっぱり足手纏いじゃないか?」
「今の目的はみんなを治す事で、そのためにタウロスの買える武器を見繕うために鍛冶屋に行く途中だが……ここのどこに足引っ張る隙があるんだよ。別に今の目的からすれば足手纏いでもなんでもない」
「そうじゃねぇ、そう言うのじゃねぇ! お前の話だ!」
「俺の?」
「お前は上を目指してるんだろ? そのために冒険者になったって!」
「ああ」
そういえばさっきサウザーにもそう言った。
俺は上を目指すために冒険者になった。ロマンを追い求めるのに、これ以上ない場所だったからな。
「だったらこんな事で燻ってる暇なんてねーはずじゃねぇか!」
「何を気にしてるんだよ、お前ら仲間の事放っておくほうが俺は……」
「……いや、わかってる。お前が本気で俺らを仲間として助けて、これから先の冒険のためにしているってのは理解してる。でもな……」
ギュッ、と小さな手を握りしめてタウロスは吐露する。
「それで納得できてない俺がいる……お前はもっと上に行くべきだ。俺ら以外にも優秀なら仲間は探せばいるはずだ」
「……タウロス」
「悪い、こんなこと言ってるのも、ダメだよな」
店長さんがコーヒーを運んで来てくれたので、そこでタウロスは目元を拭って、コーヒーを口に含む。しかし舌が変わったせいか苦いようで、すぐに飲むのを諦めていた。
じっと、茶髪の女の子が苦味で顔を歪めコーヒーを置くのを待ってから、俺は話を続ける。続けさせる。
「なあタウロス、本当にそう思うか?」
「え?」
「俺が優秀なだけの仲間を集めていると、本当に思うか?」
「………えっと」
「俺がアンタを仲間にした時のこと、忘れたのか?」
「あっ」
タウロスは思い出した———
ー
ーーー
ーーーーー
あいつを最初に見たのは、冒険者ギルドの酒場。お気に入りだった壁際の、1人掛けの椅子で呑んでいた時。一個椅子を空けた隣に座ってきたのが始まりだった。
俺はソイツをチラッと横目で観察した。
(……5、いや10下か? まだガキじゃねーか)
そう言う自分も冒険者になって日は浅い。二年や三年そこらだった。
そして多分、向こうはもっと若いだろうと期待して心の中で軽視していた。
「ウェイトレスさん、前に俺が食ったあれってなんて名前だ? 豆と肉の」
「ポークビーンズですね。今回も頼みますか?」
「そうそう、それが欲しくてここに来たんだ」
「もっと他にもメニューはありますよ?」
「と言っても今日は豆の気分なんだ」
可愛いウェイトレスの女の子と気兼ねなく話している。俺が前から目をつけていた女の子だ。
ちょっとそれが気に食わなくて、酒樽を片手にソイツに絡みに行った。
「よお、あんちゃん。酒はいいのかい? なんなら俺のをやろうか」
「酒?」
驚いた表情で目を丸くして、いきなり酒樽片手に話しかけてきた俺に身が引けていた。しかし俺の差し出した酒をアイツは押し返した。
「気持ちは嬉しいけど、まだ酒の味がわかんねー歳なんだ。悪いね」
「チッ、しけた野郎だ」
悪態をつくが実際は自分の子供っぽさに嫌気がさして、俺は元の席に戻った。アイツは運ばれてきた料理を嬉しそうに食っていた。
俺はそのまま、ソイツのことを頭から消して酒を煽った。
初めの出会いはそんなもんだった。
次に会ったのは依頼を見ていた時。
俺もそろそろ大きな仕事がしたいと考えていた。なぜなら中々仲間になってくれる奴がいない。誘っても断られるし、誘われる事も当然なかった。自分の何がいけないのか答えもない。
だったらデカい仕事して周りに認めさせてやると息巻いていた。そしてはぐれゴーレム討伐という依頼が目に留まった。魔法使いが使役していたゴーレムが捨てられて、人里近くの岩場地帯にそのまま居着いて、通行人などを襲っていると言う。いつ人里に降りて来るかわからない恐怖で、依頼人は切実な想いが依頼書に綴られている。難易度はそこそこ。
依頼書を掲示板から剥がして手に取る。この依頼は、自分の実力と照らし合わせると———
「それ難易度高くないか? 大丈夫か?」
「⁉︎」
ヤツが横から依頼書を覗き込んで来ていた。お節介言葉のおまけ付きで。
「なんだよ、余計なお世話だ。つか誰だお前」
「レッド。それよりソイツ、ゴーレムだろ。ゴーレムって言えば、剣を扱う代わりに魔法の炎を使う魔法使いの盾であり矛だ。体表は切先を通さないほどの硬さだと聞く、振るう拳の威力は岩をも砕く。剣使いのアンタには厳しい相手だろ」
「ほんとーに余計なお世話だ! ケッ!」
なんか気に食わなくて、ソイツをど突いて、依頼書を受付に提出しに向かった。
そして依頼現場に直行し、念入りに研いで来た剣が———ゴーレムの硬い体に弾かれる。
「ぐっ⁉︎ な、なん———」
なんだよこれ。
とにかくデカい。そして硬い。
人の二倍はある巨体がズシンズシンと歩き、丸太のように太い腕を振り回して攻撃してきて避けるので手一杯。剣で切ろうにも効かない上に弾かれる。
「どうなってんだ!」
とにかく作戦を練らなくては。そう考えて距離を取り、ゴーレムを倒す作戦を考える。
「はあ、はあ……、まず動きが鈍いのが真っ先に思いつく弱点だ。だがどこを攻撃しても刃が立たない。あのノロさなら背後に回る事はできるだろうが、剣で切れないんだから何もできやしない……」
それなら帰るか。
そう思ったが、このまま引き下がれば周りから笑われる。余計に仲間になってくれる者がいなくなってしまう。ここを諦めればずっと底辺のまま。
なんで仲間になってくれる人がいないのか。その理由はわかってる。
「俺が、自分勝手なバカだからだ……」
頭が悪くて、攻撃は突っ込む事しか能がない。
今は作戦を考えているが、いつもはなんも考えずに突っ込むし、今も考えているのに何も思いつかない。
こんな俺だから誰も相手にされないんだ。
「変われないのか、俺は……」
岩の影に隠れてうずくまる。このまま帰っても何にもならない。だったらこのまま突っ込んで行って、美しい死に様で最期を飾ろうか。
誰も見てないけど、なんにも残せないけど。
「ちくしょう……」
「———おい、おい!」
「あっ? えっ? えっ?」
声をかけられている事に気づいた。顔を上げると、そこにはあの歳下の生意気なガキ……レッドがいた。
「お、お前⁉︎ なんでここに⁉︎」
「話は後だ。それより、もう辞めたのか?」
「う……」
今の自分の姿を客観視すれば、大の大人が縮こまって隠れている情けない姿だ。こんな姿を見られてしまっている。それが恥ずかしくて。
「もう、ほっといてくれ、くそが」
「……なるほど」
レッドはゴーレムの方を見た。
そして再びこちらに振り向いた。
「だが立ってもらうぞ」
「……は?」
「立て。俺と一緒に戦え」
「は、はあ⁉︎ な、何を言ってるんだ……できるわけねぇよ、お前の言う通り、俺じゃアレには敵わない」
「お前1人ならそうかもな。だが俺が来た、2人ならなんとかなるかも知れない」
レッドの腰を見ると剣を携えていた。柄にライオンの顔が彫ってある、見た事ない剣だった。
「お前だって剣士じゃねーか、アイツは硬くて刃が通らない……」
「わかってるよ。だがさっきまでアイツと戦ってたのはお前だ。何か弱点とか、戦い方を分析してわかった事はないか? それが欲しい」
「刃は通らないって」
「弱点を教えてくれ」
レッドの目は真っ直ぐだった。すぐそこに強敵がいて、今から挑むと言うのに怖気ついた感じがしない。まるで英雄のように見えた。ちょっぴりな。
「……アイツは動きがノロい。だから簡単に後ろに回り込めると思う」
「なるほど……後ろにか」
「でも剣が通じないんだ! こんなの知ったところでどうしようもない!」
「なあ、アイツの視線はどうだ?」
「視線?」
「人間と同じく目で相手を認識しているのかどうか、そしてその目で相手の動きをどう追っているかどうか。狙いを済ますにはどうしているか。それが分かればやりようはある」
「し、知らねぇ。真正面からぶつかる事しかしてないんだ。横に飛んだりして攻撃をかわした時もあるが、かわすのに集中して目の動きとか見てねぇよ」
「なら欲しい情報はそれだな。ここで待ってろ」
「なっ? まさか行く気か!」
俺が止める暇もなく、レッドは剣を俺の横に置いて丸腰でゴーレムに向かっていった。
なんで丸腰で⁉︎バカなのか⁉︎
走っていくレッドの背中。ゴーレムはそれを認識して、腕を振り上げる。
振り下ろされる太い腕を横にかわしながら、レッドはゴーレムの目の動き方に注視している。横に飛んだり、背後に回ろうとする。その度にゴーレムの目はレッドを追いかけていた。
後ろに回るとゴーレムは体全体で後ろを向いた。その隙にレッドは素早く回り込んで、こっちに戻ってきた。
「なあアンタ、名前は?」
戻ってきて早々、そんなことを聞いてきた。
「た、タウロス」
「タウロスか。ならタウロス、やっぱアンタの力が必要だ」
「え?」
「俺が視線を誘導して正面から横に向かせる。そして横に走った俺に向かってアイツが腕を伸ばし攻撃した瞬間に、アンタは正面から斬りかかれ。切るのは腕だ、まずは攻撃力を削ぐ」
「ま、待て! だから効かないんだって!」
レッドは置いていた剣を再び腰に下げる。
「効かないだろうな。だが効くかも知れない。切れなくても、ちょっとしたダメージくらいは与えられるだろ」
「そんなのっ……」
「いいかタウロス」
ゴーレムの方を向いたまま、こっちを見ずにレッドは真剣な声で言う。
「この依頼はアンタが受けた。だからアンタがやらなきゃ締まらねぇ。お膳立てはいくらでもしてやる、だからお前が倒すんだ」
「なんで……」
なんでそこまでして、俺を。
どうしても聞くべきだと思った。走り出そうとするレッドの腕を掴んで引き留める。
「なんでそこまでして俺を助けるんだ! 同情か? それとも俺への当てつけか? お前にそこまでしてもらう義理はない!」
「義理か……義理っつーより、借り返しだしな」
「は?」
「酒くれたろ? あれ」
何でもないように言って、俺の腕を振り払いレッドはゴーレムに向かって走っていく。
俺は呆然とその姿を見送った。
「酒くれたろって……初めて会った時のあれか?」
でも、受け取らなかったじゃーねか!
それにアレは本当にあげるつもりはなくて、揶揄うつもりで……!
それなのにアイツは……。
バカだろ。本当にバカだろ。
「貰ったわけでもねぇ、けどそのくれた行為そのものに返すために……ここまで」
アイツは今、馬鹿正直にゴーレム相手に大立ち回りをしている。そして何度も何度も隙を作った。さっきの作戦通りの、俺が斬るための隙を。
けれど俺が行かないから、何もしないから何度も同じことをする羽目になっている。
「あとは俺が行くだけ……」
行く、行かなきゃ。
俺の道は今完全にアイツに向いた。アイツが必要だ。
だったらアイツを死なせるわけには行かない。どうしても、戦わなきゃいけない場面はここだ。
「おお……おおお………うおおおおおおおおおお!!!」
叫んで自分を昂らせる。
そしてゴーレムに向かって走り出す。体が軽い。
剣を握る力が、今まで感じたことのないくらい漲る。
「え、お、おい⁉︎ 叫んだらゴーレムの意識がそっちに……それに狙いは腕だぞ! そのままだと胴体を狙うぞ⁉︎」
アイツが何か言ってるが聞こえない。
俺はただ無我夢中で斬るべき相手を見て、向かって、そして斬るだけだ。
「———ッ!」
何も考えていなかった。
何も感じていなかった。
何も無いまま、ただ剣を横に振った。
それだけでゴーレムの胴体は真っ二つに横一閃、切り落ちた。
「なあ!」
ゴーレムを倒し、近隣の住民に報告して感謝してもらい、そしてギルドに報告して依頼達成となった。そのあとすぐに俺はレッドを探して彼の元へ駆け寄った。
「ん? なに?」
レッドは前に食べていたポークビーンズとは違う料理を食べていた。呑気そうにこちらを向く。
「俺を仲間にしてくれねーか! 俺をお前の仲間に!」
「仲間?」
「そうだ! もう俺はお前しか考えられねー!」
「あー、確かにゴーレムを豆腐のように斬ったアンタの腕は凄いと思った。仲間になれば百人力だな」
「そ、そこまで評価されんのは背中がむず痒くなるが……それなら悪い話じゃねーはずだ!」
「確かにな、アンタが仲間なら心強いだろう」
「だろ! だろ!」
「だが断る」
あっけらかんとして言われたその言葉に、俺は頭ん中が真っ白になった。
「こ、こ、断んなよ! 何でだよ!」
「俺はまだゴーレムとか相手にする依頼とか受けるつもりはないし、アンタの戦闘力は今んとこ必要ない。俺にとってアンタが必要になった時に、俺から誘う」
「な、なんで……今から仲間にしたっていいだろ」
「一個ずつ段階踏みたいんだよ。ま、そん時になったら俺から誘うから待っててくれ。それまでは他のパーティで活動すれば良い、今回の件でアンタは評価されるようになったはずだしな」
まあその頃にはアンタも仲間を見つけてるかも知れないけどな、とレッドはからからと笑って、飯を食い終わり席を立った。その時はあっさりの仲間入りを断られた。
そして次の日、アイツはベテラン冒険者のシーダと仲間になっていた。
「なんでだよッ!!」
次の年にはマーリンを。
「なんでッッ!!」
次の年にはナゲットを仲間にし、そして次の年。
「ようやく俺も酒飲める年になった、だから仲間になってくれるか」
「そう言う理由⁉︎」
レッドが俺を仲間にする理由は戦闘力ではなかった。
ーーーーー
ーーー
ー
「なんか今考えると腹立ってきたな」
「必要だと思った時に仲間に誘ってただけだ」
むすっとした顔の美少女に睨まれて、俺はそれを軽く受け流す。
「俺がどれだけ仲間にしてくれるのを待ったか……ぐむむ」
「そういやアンタ、あの後も他の奴と連んでる所見たことねーな」
「お前の誘いを待ってたんだよ」
「へー、嬉しいこと言ってくれるじゃん」
「こっちはずっと悶々としてたよ! なんで俺が最後なんだって思ったし!」
「ま、そこまで言うなら俺のためにまだ仲間でいてくれるよな。俺はタウロスが必要だと思ったから誘ったんだ」
「酒のためだろ」
「ああ、戦闘力は二の次だった」
「そーかい! あーあ、悩んで損した気分だ。こんな奴相手に気を遣うとかアホらし。さっさと鍛冶屋行って済ませるぞ」
タウロスは立ち上がると、そそくさと喫茶店を出て行った。今度は俺がタウロスの後をついていく立ち位置になっていた。
まあ普段通り動いてくれるようになって助かった。
そうして俺らは行きつけの鍛冶屋についた。裏路地にあるひっそりと暗い店だ。
「おやっさん、ちょっと良いかい」
「おやレッド君」
顔中煤まみれの笑顔で店主は出迎えてくれた。中では何人かの弟子さん達が頭に手拭いを巻いて、一生懸命家事仕事をしていた。
そして店主は俺の隣にいる茶髪の女の子に気がつく。
「おや? そちらは……」
「最近知り合った友達だ。名前は……ローズ。ローズって言うんだ」
「へー、こんな可愛い子がまだこの街に居たんですねぇ」
タウロスに腰を肘で突かれる。そして小声で聞いてくる。
「ローズ?」
「女の子になったってこと、あんま口外しない方がいいと思ってな。店主さんだけなら教えることも考えたが、ここは弟子さんも多いし、誤魔化すために咄嗟に思いついたやつ」
「……ふーん」
すぐにタウロスは離れて行った。
俺は鍛冶屋の店主さんに、タウロスもといローズに使えそうな武器がないかと尋ねた。すると店主さんはローズの体格や筋肉量を確かめると、悩むそぶりを見せた。
「確かに女性客もいますが、ここはひっそりとした店でして、自分でも言うのも何ですが知る人ぞ知る……と言った店で、来る女性客は戦士として名の通ったレベルの、屈強な方々なんです。なのでこの様な線の細い方のお客さんに見合った武器は……」
「そこを何とかお願いします」
「……最初は誰も来なかったこの店が立ちゆく様になったのも、レッド君が最初にこの店を見つけて、気に入ってくれたのが始まりです。その恩返しと言っては何ですが……わかりました、尽力いたします。しかし作るためにしばらく時間を頂けませんか」
「ええ、ありがとうございます店主さん」
「それで……えーと、そのローズさん」
「はい?」
店主さんは聞きにくそうに、タウロスに申し出た。
「ご自身の体の寸法などを教えてもらうことは出来るでしょうか。剣の大きさとかも、あなたの体のサイズに合ったものでないと……」
「か、体の、寸法……⁉︎」
「例えば背の高さ、腕の長さ、足の長さ……場合によっては、その、胸部の大きさなども」
「きょっ、胸部……れ、レッド!」
「なんで俺だ」
「頼む! どうにかしてくれ!」
「どうにかって、ここで測ってもらうしかないだろ」
俺がそう言うと、店主さんと、その後ろにいるお弟子さん達が気まずそうにした。
「その、ここには男しかおらず、測るにもローズさんの気障りになるかと……体に触れてしまいますし」
「だからローズに知ってるかどうか聞いたわけですか。どーする?」
「どーするって……」
タウロスは悩みに悩んだ後、意を決した。
「よし! お前が測れ! レッド!」
「ダメ」
「な、なん……」
「……はあ、仕方ない。服屋の店長さんに協力してもらうか」
「あ、ああ、その手があったか」
俺らは一度服屋に行って、店長さんにタウロスの体の寸法を測ってもらった。その情報を持って再び鍛冶屋の店主に頼んで、作ってもらえることになった。今のタウロスに見合う剣を。
「よかったじゃねーか、タウロス」
「……なんか、変な感じだ」
「何が?」
「俺の胸、85って……知ってどうすんだって」
85?
思わず俺は、隣を歩く美少女の胸の方を見てしまった。タウロスは慌てた様子で胸を隠す。
「やめろ!」
「あ、悪い」
「ったく、今のはルーシェ姫に言っとくからな」
「ごめんなさい、それだけは勘弁して下さい」
「ふん。それより今帰ってる途中だよな、これからどーするんだ?」
「次は魔法組合の方に行く、マーリンを連れてな」
「ほー、そうかい」
出発した時の落ち込んだ様子は消え、タウロスは家に帰るとそそくさと入って行った。そしてマーリンを呼んできてくれた。
そして今度は出てきたマーリンと一緒に魔法組合へ行く。魔法使い達が作った、魔法使いのための組合局だ。