ルーシェの欲しいもの
そして城を出て、昨夜泊まった彼女の屋敷まで着く。部屋まで行き、そして扉が閉まると同時に抱きついてきた。
その身体を優しく抱きしめる。
「ルーシェ様」
「様付けはやめて、さみしい」
「わかった、ルーシェ」
「ごめんね。こんな面倒くさい女で。私はあなたの仲間と飲んだり騒いだりしてるのに……あの女の子達があなたの仲間だって頭ではわかってるのに、それでも……」
「みんなは俺の大事な仲間で……」
「わかってる! わかってるわよ! でも私があなたとあの方達の関係性を羨ましく思わなかったと思う⁉︎」
「え?」
「私も、あんな風に、求めて欲しい……」
「し、しかしルーシェとアイツらとでは……」
「あの人たちが男のままならそれで納得してた! でも、こうなって、不安なのよ。あなたとあの人たちの信頼関係は私とあなたの愛情とは違う、友情……」
「………」
「ごめんっ、ごめんなさいっ……でも、でもっ」
泣きながら身体を震わせるルーシェの体を強く抱きしめる。彼女の不安を取り除きたい。でも方法が思いつかない。だから俺には抱きしめるしか出来ない。
神に祈った事は今までなかったが、もし神がいるのなら彼女の不安を取り除く方法を伝授してほしい。
「……ルーシェ」
「んぅ」
「アイツら俺の大事な仲間です。俺の向ける情が、ルーシェに向けるソレと違うと言っても、俺の心はあなただけです」
「友愛も欲しいと思っちゃダメ?」
「俺はそこまで器用じゃありません」
「あなたの全部が欲しい」
「それは痛いほどわかっています。それでも、ご理解ください」
「………どうしたらその遠く感じてしまう敬い言葉は消える?」
「特に条件は設定しておりません」
「なら……欲しがってもいい? 別のもので、満たして」
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ーーー
ーーーーー
もう昼になってしまった。
シーダの言っていた彼の前の家に向かう。途中、頼りになる街の人に話をして敬意を簡単に説明し、噂を広げない程度に協力して欲しい旨をお願いした。すると快く承諾してくれて、何人か協力してくれる人を募った。
女の子になったんだ。服とか色々、男の時と違うだろう。頼れる人は欲しかった。
「おや、レッド君じゃないかい」
「サウザー先輩」
途中で冒険者の先輩、サウザーさんに声をかけられた。気さくな彼は、笑顔でこちらに手を振る。
「はっは、まだ先輩と呼んでくれるのか。それより何かあったのかい?」
「ちょっと」
「なんだい、国一番の冒険者がそんな事じゃ俺ら同業者もメンツが立たないじゃないか」
国一番。
確かにその自信はあった。しかし今となってはもう名乗れる状況ではないだろう。
「いえ、俺らもまだまだこれからっすよ」
「おやぁ? 前までは自信満々だったはずだが。仲間はどうしたんだい」
「今は別の場所にいるんで。それでは」
そそくさとサウザーの前から立ち去ろうとする。
しかしその肩を掴まれ、悪魔のような形相のまま顔を近づけられる。この人は前から怪しい雰囲気はあったが、時折口角を吊り上げて目を赤くし、悪魔のような形相へと変わる。
「つれないな、俺ら雑魚はもう眼中にないってか?」
「そんな事ありません」
「国一番、国からも表彰されて、おまけに王女が婚約者。恵まれた奴は態度が違う。俺らみたいなクズにはもう用はないって?」
「………」
「ダンマリか。このお高く止まった———」
「随分と好き勝手言ってくれるじゃないですか」
悪魔のような形相のサウザーに、真っ向から睨み返す。サウザーは俺が睨むと一瞬驚いていた。構わず続ける。
「俺がアンタらを見えてないって? 見えてるに決まってんでしょうが。あのギルドにいる全員の実力と性格は把握しようとしている、まだ途中だがそれでもアンタが勝手に買い被る今の俺になった。そうやって油断してると———アンタも呑み込むぞ」
「……お、おまえ」
「アンタが俺をどう思おうが勝手だが、俺は上を目指す事を諦めたわけじゃありません」
なんのために冒険者になったのか。
なんのためにギルドに入ったのか。
なんのためにダンジョンに潜るのか。
そんなの決まってる。もっともっと、上を上を、まだまだ上を目指すためだ。
「天国に行った者らは夢や希望を見ない。なんでも叶う幸せな世界で何かを望むことに飽きて、呆れて、次第に失くしていく。それが人間の最後だと思っている。希望があるウチが人の華だ。希望がある限り俺は歩き続ける、もがき続ける。ずっと」
サウザーの手を振り払って俺は行く。
遠回りして、シーダの家へ着いた。そして建て付けの悪い扉を開けると———
「「「「あ」」」」
着替え中だった。
少女達の柔肌が隠されずに、大っぴらに見えていた。