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レッドとルーシェの出会い

 目的地である滅びた帝国レオナルドは、500メートル東に行った先にある。山道や谷を越える必要があり、馬がいればおよそ一日半でつくだろう。

 夕方前に出立して、今は夜の森で野営中だ。同行してくれる冒険者の二人と協力してテントを立て、持ってきた食材で作った飯を食う。

 その傍らで冒険者の真面目そうな人が、旅の目的を確認する意味もあり、改めて今回の目的について話していく。



「おそらく明日の夜には着くでしょう。ところでレッドさん、目的地は東の滅びた国、レオナルド。その近くにある太陽の女神の神殿という事でしたね」


「ええ、そこに目的があります。詳しい話はギルド長からされていますか?」


「いいえ、急な依頼としても、あなたを手伝えとしか聞かされてません。恐らくあまり踏み込まない方が良いのでしょう。気を遣って話す必要はありませんから」


「はい。お互いにその方がいいでしょう」



 火を囲んで、作った料理を食べる。暖かいシチューの温もりがこれまでの事と、これから向かう場所の“嫌な思い出”を癒してくれるようだ。

 少し食べてから、また真面目な冒険者は話を続ける。



「帝国レオナルド、いわゆる『科学の国』と呼ばれていた場所です。滅びたのも数年前ですし、記憶に新しいです」


「そうですね」



 もう一人の黒髪の冒険者がそれを聞いて、思い出すように話し始める。



「確か“ひとげのむ”とか言う人間の設計図を見つけたー、なんて世迷言を国内外に吹聴して、狂気じみた科学実験や人体実験をしていたと言う噂でしたよね」


「けれどあの国は確かに発展していました、どの国よりも進んでいた。人間の設計図とやらが本当かどうかは知りませんが、あの国が科学的に発展していたのは間違いありません」


「まあそっから芋虫の研究者や、悪魔の研究者、さらには火山や雲、星の研究者など様々な賢者が俺らの国に流れて来たわけですからね」


「そのおかげでウチの王国も目覚ましい発展を続けています」



 帝国レオナルドは、帝王であるレオナルド王が直々に科学実験に参加していたほどに科学に狂った国だった。研究者の白衣が真っ赤に染まるほどの凄惨な光景。

 魔法でもない、聖術でもない、別の“可能性”であった科学。

 しかし帝国は滅びた。それが科学を推し進めた天罰なのかは定かではないし、それを明確にする必要性もない。



「あそこは傲慢な国だから」


「レッドさん?」


「ああいえ、何でもありません。それより前もって言っておきます。もし万が一危ない事態に陥った時は俺のことを気にせず、逃げてください」


「非情になれと?」


「あなた方が帰ることが俺にとっての救いになる場合もあることを念頭に置いておいていただきたい。それにこの件は個人的なものです、闇の中を歩いているようなもの」



 森の茂みをかき分けて探している。その茂みから何が出てくるのかわからない。



(サウザーが本当に悪魔と出会った場所なのか、そこであの術を知ったのか。そこら辺を判明させるまでは後に引けない。引いたら……今度は俺の番かも知れないしな)



 自分が女の子になる。そんな想像をして、今まで培ってきた戦闘技術がごっそり無くなる事態にはなりたく無いと思った。これからも冒険はしたいんだ。

 冒険……、その単語を思うと脳裏にルーシェの悲しそうな顔が浮かんだ。



「……お二人、ちょっと興味本位で聞いてもいいですか」


「え? ああ、いいですけど」


「うん、俺もいいですよ」


「あなた方はなぜ冒険者になったのですか?」


「そんな事?」


「ええ、聞きたいなと」



 俺の唐突な質問に冒険者の二人は顔を見合わせる。

 そして初めに真面目な冒険者が話してくれた。



「大した理由じゃ無いっすよ。ただ金に困ってただけっす。手に職つけなかった何も無い俺にとっちゃ、惰性で続けられるならって……ただ、偶々この辺りのことを知っていたからこうして仕事をもらえる、そんなラッキーパンチを常日頃から望んでいるような人間だからです」


「……そうですか。お話し、ありがとうございます。そちらの方は……」


「俺は……」



 黒髪の冒険者は夜空を見上げて、頭に浮かんだ言葉をそのまま吐露するように、ぶっきらぼうに話し始める。



「なんだったかな……確かに、夢を見てた気がする。一攫千金も、可愛い女の子にちやほやされるのも、助けた人にお礼を言われるのも……ただ、運が向かなかったのかな」


「運?」


「望むだけではそうはならないと言うべきか、何もしなければ何も始まらないって言うか……あはは、自分でもなんで冒険者になったのか分かりません」


「いえ、謝らなくても。ありがとうございました」



 冒険者を始める理由。

 俺はあの国に流れ着いた人間だ。なんの目的もなくただ生きるために歩いていると、あの国に辿り着いた。そこで色んな人たちと出会い、そこで戦いの腕を見込まれてギルド長に入らないかと誘われた。

 騎士にも衛兵にもなれない身分だった俺には渡りに船だった。

 ギルドに入るとすぐに、派手な依頼が舞い込んだ。最初の依頼だったが王族からの護衛任務で報酬もたんまり貰えると聞いて勇み足で請け負った。


 そして俺はルーシェの涙を見た。

 しくじった。



ーーー


ーーーーー


 あれはまだ酒の味を知らない歳の頃。

 早朝に俺や、依頼を受けた冒険者数名は高台の上にある屋敷の庭に集められた。

 ルーシェ王女の護衛任務。そう聞かされて集められたが、数十分ほど立ったまま待たされた。

 そうしてようやっと依頼人本人が現れたかと思いきや、それは王女の親衛隊の隊長。背の高いスラッとした男で、綺麗な顔つきをしていた。

 そして彼は開口一番こう言った。



「クソッたれのろくでなし共こんにちは」



 初手喧嘩売ってきたソイツに、俺は腹が立って殴ってやろうかと思った。今では言われても何とも思わないだろうが、その時は若かった。

 そう若かった。

 男隊長は面倒臭そうに、今回の依頼の件について話始める。



「今回キサマ共に頼みたいのは姫様の護衛である。ほんの数年前に隣国が滅びたばかりだ、クソみたいな俗物どもが流れてきている事だろう。当然族もいる。そこで森へ行く姫様の護衛をキサマ共に頼む次第だ。そう言う事だ」



 言うだけ言って男隊長は俺らの目の前から立ち去って行った。



「なんなんだアイツ!」


「まあまあ」



 悪態ついた所を、すぐ隣にいた同僚に慰められた。

 その人にムカつかないのかと尋ねると、いつもの事だと笑っていた。

 それに納得できずにムカっ腹を誤魔化さないで地団駄を踏む。それに隣国が滅びたのは十一年前だ、適当すぎる。

 頭に血が登っていた。けれどこの任務が終われば大金が手に入るって考えると、その怒りは収めるしかないとなんとか我慢した。

 そうしていると程なくして、またあの男隊長が戻ってきた。そして仰々しい仕草で自分が来た方向に手を差し伸べる。



「ルーシェ王女殿下のおなーりー」



 彼が手を伸ばした先を見た。

 どうやら王女様が来るようだ。やっと依頼人の登場かと辟易しながらそちらを見て———目を奪われた。



「隊長、ちょっと恥ずかしいって」



 兵士を引き連れ、その真ん中を歩いているドレス姿の同い年くらいの女の子が、この国の王女様。

 見目麗しく、まるで周囲にキラキラとした星が舞うかの如く、その存在感は煌めいていた。まさに王族と言った風貌と、近寄りがたい厳かな雰囲気。



(へー、可愛いな)



 素直にそう思った。

 しかし次に王女殿下が、こちらを向いて口を開いた時に出てきた言葉で、その評価を変える事になる。



「あなた達が隊長の話してた、騎士になる努力をしてこなかった暴れるしか能のない怠け者達ね。あまり私の目の前に立たないように、私はそう言う人間が大嫌いなのよ」


(コイツもかよ!)



 どいつもこいつも口が悪かった。

 周りの同僚達の中から、辞めたくなった、と言う声が聞こえた。同感しかなかった。

 男隊長は話を進める。



「と言うわけで、護衛のための実力テストを行う。面倒だから全員で戦って実力を見せろ」



 唐突に何を言い出したかと思えば。

 訳がわからないと言う気持ちが顔に出ていたのだろう。男隊長は俺の顔を見て、鼻で笑った。



「金に目が眩んだだけの戦えない無能に用はないって話だ、育ちの悪いキサマ共には分かりにくかったかな」


「……ああ?」



 いよいよ堪忍袋の緒が切れ始めた。

 さっき俺を止めてくれた同僚の姿がない。アホらしくなっていつの間にか帰ったらしい。つまり俺を止める者はいないと言う訳。

 俺は誰よりも前に出て、男隊長に向かって言う。



「そうかよ、ならもっと手早い方法で試そうか?」


「なんだクズめ」


「アンタと一対一で戦えばその実力が分かるんじゃないか?」



 周囲がざわめく。

 王女も首を傾げている。

 そして男隊長は、やれやれと肩をすくめる。



「はあ〜……キサマ、毎日ラグナロクという言葉を知っているかな」


「は?」


「最後の戦いになってやっと剣を取ったところで、それまで怠けて戦ってこなかった者には成果も何もない、人知れず死ぬだけだ。毎日が常にラグナロクだと言う気概と気持ちがなければ大成もない」


「………」


「キサマ共冒険者はそう言う集まりだろう、ロマンだけ追い求めて常日頃から何の努力もしてないくせに、気持ちだけで土壇場で勝てるだと? 人生舐めてるな」


「……ふん、じゃあこうしようか」



 俺はライオン柄の剣を引き抜いて、左手をズボンのポケットに入れる。



「アンタなんか左手使わなくても勝てるってのは」


「……は?」


「ほら、来いよ」


「実力で勝てないからと、この私にハンデのある相手を討たせ名声に泥を塗る腹積りなんだろうが……関係ないぞ。キサマなぞ誰も気に留めんわ」



 ゆっくりと剣を引き抜いて、こちらに歩いて近づきながら剣先を向けてくる。

 向こうもだんだん腹の虫が暴れ出したようだ。



「王女殿下に穢らわしい血を見せる事になるのが一番気がかりだ。チェアッ!!」



 俺の眼前まで迫ってきた男隊長は、話してる途中に剣を横に振って切りつけて来た。

 それを剣で弾き返して、体を回転させ右腕で相手の剣を持っている腕を叩いて、完全に剣を俺から逸らさせる。そして数瞬またずに切るため前に踏み出していた相手を足に、自分の足を引っ掛けてバランスを崩させる。

 相手が膝をついたところで、剣を真上に放り投げる。ジャンプして男隊長の頭頂部に右手を置き、体を翻して相手の背中側に回る。回転力そのままに両膝で背中をど突き押し倒す。

 そして空から落ちてくる剣をキャッチし、うつ伏せに転がる男隊長の顔の横に突き立てた。



「はい、終わり」

 


 シーンと周囲が静まり返った。



「ば、ばかな……」


「人生舐めてる人間に組み敷かれる気持ちはどうだい、隊長さん」



 男隊長から降りて剣を鞘に収める。



「へへっ、不合格はありえないよな。当然」


「な、なんだキサマは……この私が、冒険者風情に負けるなど……」


「そうだった、依頼人は姫様だったな」



 悔しがって話せる状態じゃない男隊長の代わりに、俺はルーシェ王女の方を見た。彼女は自分の親衛隊の隊長がやられた事に酷くショックを受けている様子だった。



「うそ……お城の近衛騎士の中でもトップレベルの実力者である隊長が……」


「決定権はアンタにあるんじゃないのか? 姫様」


「っ! な、何かの間違いよ、でもそうね護衛にはしてあげる。そうするしかないでしょうし」


「姫様!」



 男隊長が立ち上がり、俺を突き飛ばして姫様の方へ詰め寄ろうとした。しかしその突き飛ばそうとした腕を掴んで押し返す。

 たたらを踏んで後ろに下がる男隊長は俺を憎ましげに睨むが、諦めずに姫様に向かって大きな声で意見する。



「勝手にそんな事決めないでください! 今回の護衛任務は私が計画したものです!」


「……例えまぐれだったとしても、今の勝敗の証人は私です。認めるしかないでしょう」


「ふ、ふざけるな! まぐれと認めるのだとすれば、もう一度だ!」


「隊長! 見苦しいのも大概にしてください! ここは人の目があるのですよ! あなたの部下である兵士たちも、今の結果を目撃しています!」


「う……くっ、くそ!」



 兵士たちは男隊長の負けに、一様に驚愕していた。男隊長は彼らから顔を背ける。

 そして男隊長が諦めたと判断したルーシェ王女は俺の方に歩み寄ってきた。



「気に食わないけど、護衛を任せるわ」


「なら報酬はあの隊長の席とかでも」


「……あなたって周りから嫌われてない?」


「確かに少なくとも目の前にいる王女殿下からは嫌われてますね。さすが王族は人を見る目がある」


「悪どい口もそこまでよ、不躾なケダモノが」



 本当、今思い返すとあんな出会い方でよくもまあ今みたいな関係になれたと思う。口元を歪ませて臭いものを見るような不機嫌な彼女の顔、今では結構レアかもな。

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