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18/21

仲間達の気持ち

 レッドが出立したその夜、安全のため私の屋敷にまだ四人はいる。そしてここで泊まることになっている。

 今頃レッドは野宿中かしらね。



「みんな、そろそろ寝支度しましょう」



 客間でずっと資料を()()()()()四人は、ゆっくりとこちらを向く。どこか物憂げな様子。



「その手に持ってる資料、ずっと動かなかったわね。ページを捲ることもなく、新しい資料を手に取ることもなく、ただ紙の一面だけを見ていた。いいえ、眺めていたと言うのが正しいかしら」


「「「「…………」」」」


「ずいぶん堪えるようね。同行する仲間だった立場から、帰りを待つ立場になった気分は」


「……ええ、まあ」



 タウロスがぶっきらぼうに顔を背けながら答える。彼がずっと持っていた紙には、汗が滲んでシミが出来ていた。

 他の3人も同じ。



「みんな私と同じ立ち位置に来たってだけじゃない」


「そのだけが、だけどころではなかった。思い知ったよ、まさかこれが、姫様の気持ちを知る機会になるとはな」



 シーダは自虐気味に笑う。

 ナゲットもマーリンも心ここに在らず。



「とにかくお風呂に入ってきなさい。私の屋敷にいる間は不潔は許しません」


「……そんな気分にはなれません」


「あら、王族の指示を気分一つで断ると言うの? なら身をもって味わうといいわ。王族の指示とはただの指示じゃない、言うこと聞かなきゃ実力行使するだけだと言う、最後の警告だと言う事をね」



 指を鳴らして親衛隊を召喚し、四人を浴場まで連行させた。四人とも軽いため簡単に抱き抱えられて、連れて行かれた。

 残った隊長と話す。



「さてあの人たちは任せたわ」


「はっ。それよりルーシェ様も入られるおつもりなのですか?」


「家族とあなたとお医者様以外で、私の裸を見ていいのはこの世で一人だけよ」


「ふふっ、そうですか」



 しばらくして四人が出てきた。頰が赤く、湯気が立っている。各々胸やお腹のあたりに手を当てながら、顔を俯かせたりそっぽ向いてたりしている。お風呂で自分の身体を見たんだろう。

 それと同時に他の仲間達の裸体も見たことだろう。

 私は四人をお客様が泊まる用の寝室に案内した。



「ここがあなた達が寝泊まりする部屋。周りでは護衛のために親衛隊達が歩き回ってうるさいかもしれないけど、我慢して」


「あの……ベッドが一つしかないんですが」



 お客様用であるため、必要最低限のベッドの数しか置いていない。すなわち王女の屋敷に遊びに来て泊まりに来るような人は、貴族の女友達くらい。しかし彼女らは私の部屋で寝る。

 つまりここを使う予定のある人物というのは。



「もうここはレッド専用の部屋って感じね、あの人しか男性のお客様いないから」


「レッドの?」


「そう。時折ここを使ってるわ」



 まあ文字通り“時折”だけど。いつもは私の部屋で寝るし、気が向いたら使ってる程度。後で寂しくなって私がこっちに来るけど。

 四人は各々思うところがある様子。その様子を見て、聞こう聞こうとしていた事をこの機会に聞くことにする。



「好きなんでしょ? レッドのこと」



 ハッキリ言い過ぎたかしら。

 タウロスはギョッとした表情になり、マーリンは何を言われたのかわからないと言った風にキョトンとしている。

 そんな二人とは対照的にナゲットは顔を背けつつも否定する感じは一切なく体をもじもじ揺らし、シーダは余裕そうに腰に手を当ててため息を吐いた。



「それ聞いてどうするんですか、姫様」


「どうするかどうかはあなた達の答えを聞いてからね」


「……ナゲット」



 シーダはナゲットに振った。

 するとナゲットは苦しそうに胸を抑えた。あの仕草は知っている、私と同じだ。



「……好き、ボクはレッドが、好き」



 言われた。

 一瞬自分でも驚くほど嫉妬の念に駆られ、視界が揺らいだが、なんとか気を取り直す。聞いたのは私だ。



「そう。そんなハッキリと言えるほどとはね」


「ボクもおかしいとは思ってるよ、男のボクがってさ……でも男だった頃は全然違った、男の子の友達が欲しいと思った事はあるけどそれ以上はなかった……ただ、女の子になって、ギリギリ踏ん張ってた一線を越えた気分で……」


「そう」



 危惧していた事ではあった。

 彼らの仲間としての友愛や友情が、いつか恋愛に変わる日が来ると。



「……他の3人は?」


「はあ⁉︎ し、知らねーよ」


「……………」


「チッ」



 3人ともちゃんと答えなかった。



「そう。なら恋敵はナゲットだけって事になるのかしら」


「こ、恋敵……そ、そこまでの自覚はなかった、けど」


「でもこれだけは言わせて。私はあの人の婚約者であり、それ以上に、遥かに、そして膨大なほどの愛情を向けているという事に。もし彼がいなくなったら私は死んでしまう、そう思うほどに。だから……」


「わかってます。この心は押し留めます。ボクも姫様とレッドが楽しくお酒を呑みながら話しているの見るの、好きですから」


「ごめんなさい」


「王族が簡単に謝ってはいけませんよ」



 ナゲットは笑っていたが、どこか切なげだった。叶わぬ恋に身が焦がれそうな想いだろう。私も同じだったから。



「……ちょっと待って」



 そこへマーリンが静かに割り込んできた。



「今まで落ち込んだ時に“元気”をくれたナゲットのそんな姿を見て、僕も決心した。僕はレッドと一緒にいたい。それが恋なのか、なんなのか、わからないけど、とにかく悲しそうなナゲットを見て自分のレッドを求める心に気づいた」


「マーリン……」



 マーリンはナゲットの手を握る。



「ただ退くのはやめよう、ナゲット」


「いやっ、姫様の前で……そんな事は」


「諦めないからレッドは仲間にしてくれたんだろう?」


「ッ!」



 ナゲットはハッとした顔になる。

 やっぱりだ。やっぱりこの四人とレッドの間には、私にはない関係性がある。そしてそれが恋に芽吹いた時、計り知れない相手となる。



(ああ、くそっ、くそっ……もう……)



 今すぐ髪を掻きむしりたい気分。

 嫌だ、嫌だ。

 レッドを取られたくない。

 

 胸の内を支配する、レッドを独り占めしたいという欲求を理性が押し留める。

 なんのために?

 目の前にいるレッドの仲間のためだ。


 でも嫌だ。

 レッドは、レッドは……!



「うああああああ!!!!」



 邪な心に蝕まれていた時、タウロスが大きな声を上げた。



「俺は! 何に! 気を遣ってんだ⁉︎ 一体何に⁉︎」



 タウロスは悶えて、頭を掻きむしる。



「いや待て気を違うってなんでだ⁉︎ なんでそんな必要がある⁉︎ 俺は! 俺は! 男だああああああ!!!」



 そのまま扉の前にいる私の方に向かってくる。わけも変わらず、部屋から出ようとしている。このままだとタウロスがぶつかってしまう!



「ヒッ!」


「待てタウロス」



 しかしぶつかる直前で、シーダがタウロスの足を引っ掛けてバランスを崩し、そのまま後ろ首を掴んで仰向けに倒れさせた。



「落ち着け」


「うあ、ああ! わからねぇ! 何が! 何だ! なんなんだ!」


「仕方ねぇ、最終手段だ」



 そう言って何をするのかと思いきや、おもむろにシーダはタウロスの顔の方に跨ると、お尻を彼の顔面に乗っけて押しつけた。

 突然の痴態に呆気に取られる私と、マーリンとナゲット。

 お尻を押し付けられて、バタバタと暴れるタウロスだったけど、徐々に抵抗する力が薄れていって最後には力無く大の字になって動かなくなった。

 息が止まったの?と恐れたが、シーダがお尻を抱かせると真っ赤な顔で固まっている顔が出てきた。顔に押し付けられたお尻に、何もできずにただ脳がショートしてしまったようね。



「落ち着いたか?」


「いや……別物の興奮が……」


「まあでも大人しくなっただろ」



 ふう、とシーダはため息を吐くと私の方を一瞥した後に、頭をガシガシを掻いた。



「戻りたいってのが大前提として……俺はな、アイツがアンタに惚れてた期間を知っている。アイツがどれだけアンタが好きか知っている。だからアイツを裏切るような事はできない。その上で言うぞ」


「……ええ」


「俺はアイツのこと、その、好ましいとは思ってるはずだ。滝壺で沈むだけだった俺に、手を差し伸べてくれたのはアイツだ。だからこそ好意があるのも自覚してる。でもアイツは、アンタが好きなんだ。俺らがいくらほのめかしても絶対にアイツは揺るがない、揺らぐような男に付いてきたつもりもない」


「でもそれじゃあ、シーダはどうするの?」


「好きだからこそ、見守るさ」



 その言葉に負けた気持ちになった。

 シーダは大人だ。苦しそうに顔を歪めても、それでも真摯に向き合おうとして、覚悟しているんだ。


 私はどうだろう。

 完全に子供だ。

 取られたくないと、わがままばかり。

 自己嫌悪に陥りそうな頭を振り払い、なんとか平静を保つ。



「……あなた達の気持ちはわかったわ」


「待て!!」


「タウロス」


「俺は! 俺は!!」



 タウロスの目元から涙が溢れていた。



「アイツしかいないんだよ!! これが男女のそういうのとか、わっかんねぇよ! どっちにしろ! もう、俺にはアイツしか……!」

 

「ふっ、恋は盲目ってやつか?」


「うるせぇ、くそ……」



 シーダの茶々に力無く泣くしかできなくなっている。

 恋は盲目、か。



「……俺はアイツに迷惑はかけたくない、だが諦めることも求めてはいないはずだ。なによりアイツは戻す事を諦めてない……だったら戻った時のことも考える必要がある」


「それじゃあ、どうするの?」


「ナゲットのように想い堪えるか、マーリンのように挑む姿勢を取るか、シーダのように達観するか……俺は、俺の答えは」



 タウロスはゆっくりと立ち上がりながら、まだ目元に残っていた涙を落とし、火照った頰と揺らめきながらも煌めく瞳を向けてきた。



「そうだ、目標はアンタだ。姫様」



 生唾を飲む。



「どう言うことかしら」


「アンタを越える。婚約者で、王族って立場に胡座かいてるアンタに勝つ事」


「あ、胡座をかいてなんかっ!」


「そうかな、けど付け入る隙はあるはずだ」


「ッ!」



 一瞬だけタウロスの可愛い女の子の顔に、レッドの面影を見た。レッドと同じ高みを目指し挑む顔つき。

 私は何も言えずに、部屋から飛び出した。勢いよく扉を閉めて出て、自室のベッドに飛び込む。

 怖い、怖い、身体がバラバラになりそうな気分。どうしようもできない気持ちと焦燥。



「レッドぉ……」



 救いを求めるも、彼はいない。

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