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魔法も聖術もない世界の“可能性”

 街中での一戦の後、俺たちは王様への報告と提案のため応接室に来ていた。

 提案の内容としては三つ。

 引き続き悪魔サウザーの捜索依頼。

 悪魔サウザーと協力した事からドベルマ公爵には多大な罰金と私兵団の解体によって、力を削ぐ事で幕を引く。

 そして最後は、ドベルマ公爵が支配下に置いていた街の店々の開放。

 それらを王に直談判した。王はひとまず俺たちの戦いの勝利を讃えてくださった。その上で王はこう言った。



「ドベルマ公爵の件、全て理解した。これでルーシェへの厚かましい求婚をやめてくださればいいのだがな」


「多分やめないと思います」


「そうなんだろうな。いやしかし、今回の件で締め付けられる口実はできた。街中での騒ぎ、悪魔との密約、それらを問い詰めればドベルマ公爵を抑え切れるだろう。お疲れ様でした、レッド殿。そしてルーシェに、仲間の方々」



 王からのねぎらいの言葉に、俺たちは頭を下げる。



「して、これからどうするかね」


「当面の目的はやはり、仲間達を治す事ですね」


「しかしサウザーは逃がしてしまったのだろう」


「そちらはそちらとして、しかし解決策の究明は続けるつもりです。サウザー以外の解決策が見つかれば御の字」


「なるほどな」


「でも一つ、調べたいことがあります。それは王様と国の力を借りなければいけない事柄でして」


「もちろん聞こう、言ってごらん」


「サウザーの中にいる悪魔の出所を探します。アイツがなんなのか、どこでサウザーと出会ったのか、そしてあの悪魔のルーツを辿れば今回の件の原因となった術の解明もできるのではと」


「そのために我々も動く必要があるとな。確かに悪魔に関しては専門家もいる、分かった協力しよう」


「ありがとうございます」



 これで王様への要件は済んだ。

 しかしまだ懸念点が解消されたわけじゃない。もう一つの疑問、タウロスのゴーレム斬り、マーリンの魔法、ナゲットの聖術。これらが今の体で使えた理由はなんなのだろう。それを知るためにはもう一度街を回る必要があるかも知れない。

 まずは魔法組合と教会に行く。王様に礼をして、応接室を後にする。



「ルーシェ様、お願いがあるのですが」


「なぁに?」



 応接室を出たところで一緒に来ていたルーシェに頼み事をする。



「俺が街を回る間、タウロス達を屋敷で預かっておいて欲しいのです。シーダの古家はサウザーに知られているので」


「それは構わないけど、でもサウザーがまだ街にいるという現状は解消されたわけじゃないわ。あなた1人で出歩くつもり?」


「対策してないわけではありませんが……」



 俺は腰にさげたライオン柄の剣に手をかける。



「でも確かに危険ではありますね」


「そこで考えたわ、必殺の方法を」


「必殺の方法?」


「隊長!」



 ルーシェが呼びかけると、王様と話していた間も応接室の前で待っていた親衛隊の隊長が彼女のそばに跪く。同時に彼女の部下である親衛隊の隊員達も数名跪いた。



「彼女達を連れて行くといいわ。これだけの数相手に手を出そうなんて思わないでしょ」


「いいのですか?」


「屋敷の警護の事を不安に思ってる? そこはお父様から何人か兵士を送ってもらうから平気。さ、もう行くんでしょ?」


「ええ。それじゃあ……」



 俺は仲間達の方を見る。みんなずっと浮かない顔だ。

 どこか思うところがあるのだろう、あの戦いからずっと心ここにあらずと言った感じ。

 マーリンの肩に手を置いて気づかせると、彼はハッとして顔を上げる。



「マーリン、行こう。まずは組合だ」


「あ、ああ、わかってる。うん」



 歯切れの悪い返事が気になったが、親衛隊の隊長と数人の隊員達を連れて俺はマーリンと魔法組合へと向かった。


△▼△▼△▼△▼△▼△

 歩いている途中で俺はマーリンに尋ねる。



「なあ、お前的には魔法が使えた事どう考えてるんだ?」


「え? ああ、あの事か。んー、イメージとしては自然力を使うのが魔法なら、この体が人間で周りにも自然エネルギーがある場所なら、出来るだろうって思い込んだ」


「それでやってみたら出来たと?」


「ああ」



 俺も少し魔法を齧ってるからある程度はわかる。

 それでも気になる所があった。



「そういう思い込みで出来るほど魔法は簡単じゃないと思ってたんだが」


「確かにコツはいる。けどそこはほら、僕ってプロだし。身体は素人でも中身は一流なら、なんとかなるって感じだろう」


「でも確か、組合の局員さんに聞いた時はトカゲほどの魔力もないって……」


「……あれ、そうだったな。じゃあなんで僕は魔法が使えたんだ? それも高等魔法を」


「わからない」



 ゴーレムに放ったあの雷龍の魔法は、魔法の中でもトップレベルの威力を持つものだ。いつもマーリンが戦闘時に使ってはいたものの、魔力がないと言われた体で出来たのは不可解だ。

 ナゲットも同じだけど。

 これは局員さんに再び聞いてみるしかなさそうだ。組合についてすぐに尋ねた。あの騒ぎの時に来ていた彼は、俺らの話を聞いて快く説明してくれた。



「あの現場にいて実際に見た上で言うが、あり得ない、が率直な感想だ」


「あり得ない、でも出来た」


「ああ、そうだ」



 局員さんも難しい顔をしている。

 曰く、今のマーリンを見てもその身体には魔力なんてものは存在していない。微かながらあるにはあるが、魔力とは自然力の意味であり、誰しもが少なからず持っているものだ。



「話によるとサウザーは魔法と聖術を掛け合わせた術を使い、異界にいる人間と体を交換し、魔法によってこの世界にその体を順応させたって言ってた」


「確かに理屈には通っている。ふむ……マーリン、君はどんな調子かな。何かその身体を使っていて不思議な事や、違和感を覚える事はないか?」



 局員さんからの質問にマーリンは思案顔になる。



「いや、現状の問題点は最初から同じように魔法が使える気がしないのと、力が衰えたって事だ」


「つまりその体が本当に異界の人間のものだとして、この世界にいても問題なく生活できているってわけだな」


「はい、ここで飲んだ紅茶も特に違和感は……あ、でも味覚はちょっと違う気がしましたね」



 体が違うのだから舌で感じる感覚も違うのは当たり前だろう。しかしそれが今の魔法がなぜ使えたのかという疑問の回答にはならない気がする。

 だが、しかし局員さんは何かに気づいた様子だ。



「あ……もしかして」


「何か気づいたんですか?」


「話の根本から違うのでは?」


「というと?」


「その体が魔力を持っていないから魔法が使えたのがおかしい、と考えるのではなく、その体が魔力がなくても魔法が使える体なのだとしたら?」



 異界の人間の体。

 そう考えたら確かにあらゆる可能性は無限にある。俺らの常識が通用しない事態にだって発展してもおかしくない。しかしマーリン本人は合点がいってないようだ。



「自分のことですけど、周りと比べて見た目に若干の違いがあるものの、普通に暮らせてますし違う人間とは思い難いというか」


「ならこう考えてみよう」



 局員さんは一つの解答を提示する。



「魔法も聖術もない世界にあったその身体には、全く別の力を持っている。例えるなら———理想を叶える力、なんて」


「「理想を叶える力?」」



 俺とマーリンは納得できそうで出来ないその理論に首を傾げる。

 局員さんはマーリンを見つめながら説明を続ける。



「だってあの時、君は魔法を使えると思い込んで使っていた。それは理想を実現させた証拠じゃないか」


「そ、それはそうですけど……でも」


「それだけじゃない、あの時君は戦う意志を持っていた。レッド君がやられて憤っていた君は、感情と強い意志のままに魔法を使おうと決意していた。そうだろう?」


「……はい」


「だったらそれができる身体なんだよ、その女の子の身体は」


「そう、なんでしょうか」



 マーリンは俺を見つめていた。俺はその視線の意味を完璧に読み解くことができず、内心わからずに見つめ返していた。しばらくして向こうから目を逸らされたが。

 そこで魔法の観点から見た考察は一旦止めにして、次は屋敷に戻ってナゲットを連れて来てから、教会の方へと向かった。


▼△▼△▼△▼△▼△

 教会のシスターさんに話を聞いてみた。聞いてみた内容は、今回の件でなぜナゲットが聖術を使えたのかという事と、もう一つ。



「聖術とは神の国へのアクセスができるものなんですか? サウザーと悪魔の術で、聖術によって神の国へアクセスして別世界と繋げたと言っていましたが」



 俺の質問にシスターさんは難しい顔で腕を組み、唸る。



「うーーん……私もあの場にいて、神父さんもいたのよ。そして神父さんと意見を交わした上で言うけど、あり得ない、と言うのが結論ね」


「またあり得ないか」



 魔法組合でも出た結論だ。

 ナゲットと顔を見合わせる。しかしナゲットはすぐに顔を背けた。

 それに疑問を思っていると、シスターさんが指を鳴らした。



「あっ、でもさ、こうは考えられないかな」


「ん?」


「その悪魔が取り憑いているサウザーって冒険者が、悪魔と共に魂を半分失って入れ替わりの術を使用した。そう説明されたおかげで()()()()()()()()()()と思い込まされているとしたら」


「え? ど、どう言う事です?」


「発動はサウザーと悪魔がやった。でも実際に入れ替えを実現させたのは全く別の存在と仮定したらどうかしら」


「……つまりサウザーと悪魔の術はキッカケに過ぎず、実際に実行して入れ替わりを叶えて見せたのは別の人物って事?」



 ナゲットが思案しながら述べた説明に俺も納得しかけた。

 だがそれだと、あの2人の言動が不可解だ。あの2人は実際に魂を半分ずつ賭けて術を成功させた。狙い通りだったはずだ。



「そう考え出すと誰がやったのか、と考えにキリがないように思えますが」


「でも悪魔にそんな事できるわけないんだよね。そして同時に重要な点が一つ、サウザーと悪魔はあなた達パーティの弱体化を狙っていた。そんな人らがさっきの戦闘みたいに、ナゲット達が元からの力を使えるようにすると思う?」


「確かに思えませんね」



 悪魔は魔法も聖術もない世界に住む非力な女の子とタウロス達を入れ替えたと言っていた。つまり弱点化が目的で、魂を賭けるほどの術だ、絶対に失敗したくないはずだ。入念な計画と準備があったはず。

 だからタウロス達が元の力を使えるのはサウザーと悪魔にとって不都合。その不都合を許すかどうかと聞かれれば、許すはずがないと言うのが結論。



「つまりシスターさんは、入れ替わりを行った存在がタウロス達に力が使えるようにしたと考えていらっしゃるのですか?」


「いいえ、私はサウザー達ほどの意思の強さを持っていなかったために、術をかけた存在が失敗したと考えているわ」


「でも、納得しきれないです」


「わかってるわ、ナゲット。でも私も当事者じゃないし深くて細かい所までは分かりづらい。そこはアナタ達が頑張るしかないでしょう? どう? 聖術を使えた気分は?」


「えっと……」



 ナゲットはチラッとこちらを見てから、答える。



「とにかく必死で、夢中で力を使おうと考えてました。そしたらいつも通り力が使えて、義憤の光ネメシスをゴーレムに当てることができました」


「想いの力って感じなのかな?」


「か、かも知れません」



 想いの力。

 先程魔法組合の局員が言った『理想を叶える力』。

 それと照らし合わせると、なんだか正解のように思えて来た。

 魔法も聖術もない世界には、俺らの知らない全く別の可能性を秘めた力があるかも知れないと。



「それからもう一つ気になる点」



 シスターさんが指を立てる。



「彼らの言う異界とはどこにあるの?」


「神の国にアクセスして、そこを経由し別世界に干渉した……と」


「まあ話からすればそう解釈するしかないわ。でも神の国に侵略して別世界に手を出すなんて、まるで神の所業。悪魔と一介の冒険者ができるの? 神職者の立場から言わせてもらうけど、確かに悪魔的なタブーではあるけど、そのタブーを神が許すはずがないのが前提」


「なら悪魔や人間以外でそんなこと出来るのは?」


「神」


「……今回の件、神が関わってると言う事ですか?」


「だとしたら難儀だけれど、できるかできないかで言えばできると言う他ないわね」



 シスターさんやナゲットには悪いけど、あまり好きな考え方ではないかな。

 神がなんでもできるなら、全ての前提が覆る。今回の件も神の仕業で、その上神の所業だから解決不可能なんて納得できない。できるわけがない。

 なんでもできる、なんでも可能で、とにかく幸せな世界。天国。



「俺は上を目指していても天国を目指してるわけじゃない。この目で見えて、この手で掴める実態がなければそれを得たとは思い切れない。死が幸福なんてとんでもない、天国が幸せな世界なんてとんでもない。そこに救いを求められない……そんな人間だからこそ、目の前の道をとにかく走るしかできない」



 俺は立ち上がり、部屋の出口を向く。



「ナゲットはここでシスターさんや神父さんと、神について調べて欲しい。今回の件神が関わってる可能性があるのなら、調べて対策だ。サウザーと悪魔が辿り着いたんだ、出来ない理由はない」


「う、うん。ボクはここに残ればいいんだね」


「よろしく頼む。さて次は冒険者ギルドだ」



 出来ることをやるしかない。

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