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包囲網

 俺は事の次第を起きたばかりの仲間達に説明した。

 夜のうちにサウザーを探すための人の手配をルーシェ主導で行ってもらった。

 流石に悪魔に変身したまま街中で歩くほどバカではないはず。ならばサウザーは国の中で袋の鼠。



「冒険者ギルドにも言ってサウザー捜索のための人員を割いてもらった、アイツの行きそうな所は同僚の方が知ってるから全部抑えられる。裏路地なんかの暗がりには傭兵雇って動いてもらった。ぎゅうぎゅうに締め付けてアイツの行動を制限した。街の中に居られないようにな」


「……ならサウザーの次の行動は」



 マーリンが顎に手を当て、思案顔になる。そして俺の考えを読み取り答えを出す。



「闇雲に俺らパーティに強襲してくるか、国から出ていくか」


「襲って来たのなら次はもうない。俺も準備して来た」



 俺は腰に付けた何個かの煙玉を見せる。他にも色々手段を用意してある。



「しかしそれだけの人を動かせたのか? レッドの一存で?」


「もちろんルーシェ様だ。けど……」


「けど?」


「向こうもちょっとばかし厄介な事になりかけてるらしい。なんでもあの公爵様が、ルーシェ様に“恋文”を送ったらしい」


「あの公爵って……」


「ドベルマ公爵だ」


「ええ……レッドがいるのに、恋文?」


「今すぐにでも殴り込みに行きたいが、流石に公爵家には手ぇ出せねぇよな」


「そ、そりゃそうだよ! 公爵って言えば爵位第一位! 貴族の中でナンバーワンだよ!」



 ナゲットが青ざめた顔になって俺の腕を取って抑えて来る。俺が行かない様に。

 俺は首を振る。



「いや流石に行かないって。でもルーシェ様はあの公爵様に思うところがあるらしい」


「思うところ?」


「あの人はルーシェ様と幼馴染、割と若い方の貴族だ。それなのにあの若さで公爵の地位にいるのは、王族王家を鑑みない強引な街の店々への裏取引によって支持を集めたとのこと。その事をわかっていながら王様は、ドベルマ公爵の父への恩もあって強く拒否できないまま、国民から支持を受けた彼を公爵の地位にした」


「ドベルマ公爵の父と言うと確か魔法使いだったな。ゴーレムを使う。王妃殿下、ルーシェ姫の母親が王様と出会うより前にモンスターから襲われていたところを助けたって事から、王様から後々厚遇を受けたとか」


「聞いたことあるな」



 ベテランのシーダは王様の結婚する前からこの国にいたので話を聞いたことがあった。しかしすぐに難しい顔になる。



「だが、その王妃殿下が王様と婚姻を結び王家へ嫁いだ頃……街ではこんな噂があった」


「噂?」


「ドベルマの父親は、王様に好きだった女を取られた、と……」


「………」



 思わず黙ってしまう。



「だからなのかは知らないが、ドベルマの父親は王から爵位が贈呈されるって話があったみたいだが、彼はそれを断ったらしい」


「ルーシェ様が懸念してたのはその辺か?」



 俺がそう言うと、タウロスが苦言を呈す。



「そこから先は邪推にしかならねーと思うぞ、レッド」


「……ああ、だな」



 公爵の父はルーシェの母をモンスターに襲われているところを救った。その時に彼女の事を好きになったかも知れない。好きだったけれど、王様との結婚が決まったから身を退いたのかも。

 そしてその息子は、ルーシェを好いている。

 その事を気にして王様は俺が浮気しないよう気を配ってたのか?ルーシェがドベルマに取られない様に。



「けどこんな事いくら考えても仕方ない。今はサウザーだ。アイツを捕まえないと俺らに安全な場所はない」


「いつ襲って来るかわからないんだよね」


「だが必ず再び現れる。必ずな」



 ———そう言った瞬間だった。

 勢いよく古家の扉が開かれて、服屋の店員が血相を変えて入って来た。



「た、大変だレッドさん! ウチの店が!」



△▼△▼△▼△▼△▼

 タウロス達はルーシェの屋敷に一旦預かってもらった。

 そして店員さんの案内のまま服屋に向かうと、中は酷い有様だった。売り物の服は破かれ、壁にもあちこち何かで叩いた様な凹みができていた。

 そして何より店長さんが、顔にアザを作って他の店員さんに看病されていた。弱々しい顔だ。

 そんな店長さんに第一声、単刀直入に聞いた。



「アンタ、俺を裏切ったか?」



 瞬間、店長さんは目を見開いて固まったが、すぐに首を振って顔を背け、震えた声を出す。



「な、何を言ってるの……私は」


「俺はアンタを信頼して今回の件を話した。だが拠点にしてる場所を店員に話してるとは思わなかった」



 俺らを呼びに来た店員の方を見ると、ここに来るまで疑われていると思っていなかったのか俺の方を見て呆然としている。



「…………あ、あなたが仲間を信頼しているように、私も、同じ店の人間のことを信頼しているのよ」


「……そうか。まあ、そうだよな。アンタに話したのは俺、だったら責任は俺にあるか。すみません、変な疑いをかけてしまって。何分昨夜一悶着あったばかりでして」


「わ、わかっているわ」



 ずっと震えている声だ。

 店長さんを看病していた店員さんからすごい剣幕で睨まれる。仲間のこともある。これ以上疑うのはやめておこう。



「それで何があったんですか?」


「……襲われたのよ、サウザーにね。今朝私が店に入るとすでにアイツは中にいて、そして店を荒らし私も殴られて」


「……」



 俺は店の外に目を移す。衛兵が街中を歩いている現状、ボロボロになった服屋にも衛兵が何人か現場を見に来ている。

 サウザーの捜索は昨夜から行われている。それなのに街の真ん中にある服屋の惨劇に気づかなかった?

 ……おかしい点は多々ある。しかし店長さんの事を疑うだけの証拠もない。それに俺はこの人を疑いたくはない。



「すみません、俺達の騒動に巻き込んでしまって」


「……いいのよ。こんなの」


「いえ、では俺らはこれで」



 早々に立ち去る事にした。

 そして店を出ると鍛冶屋の弟子さんが俺の方に駆け寄って来て、息を切らしたまま……。



「レッドの旦那! 大変だ! ウチの鍛冶屋が……!」


「何で俺がここにいるってわかった?」


「へっ? あ、い、いやその……、とっ、とにかく来てください!」



 ……まさか鍛冶屋まで。

 あの店の剣はお気に入り。今も装備しているライオンの柄を握る。

 何かが起きている、その気配を感じざるを得ない。しかし疑い続けるわけにも行かない。俺は鍛冶屋へ向かった。

 そして服屋と同じく、襲われた形跡のある鍛冶屋についた。寂れた路地裏の店の前には、血飛沫の跡が店から外に向かって飛び出していた。中に入ると鍛冶屋の店主さんが溶鉱炉の前で血を流しうずくまっていた。

 店主さんは俺が来たのに気づくと顔を上げて、一瞬悲痛な顔になるも、すぐに痛がるそぶりを見せて腕を押さえる。



「れ、レッドさん……すみません、こんな情けない所見せてしまって」


「いいえ、しかし何があったんですか? こんな酷い事……」


「サウザーって冒険者だ。何度か店に来た事あるが、何も買わないでただ剣を眺めるだけで帰ってたあの客……レッドさんと何かあるんでしょ? 昨日の夜から衛兵がひっきりなしに動いてる」


「ええ。すみません、こうなったのは俺のせいです」


「アイツは突然店に入って来たかと思うと俺を殴り飛ばして、店も壊して……」


「そうですか……」



 どうしようかと考える。

 サウザーが服屋や鍛冶屋を襲った理由はなんだ?俺への当てつけか?

 だとしたら回りくどすぎる。街中で兵士たちに捜索されてるアイツがそんな安易に街中で騒ぎを起こすとは考えにくい。



「……あの、サウザーを見たんですよね。どんな様子でした?」


「ああ、ちょっと待ってくれ……水が欲しい。ちょっと待っててもらえるかな」


「はい」



 水を取りに店主さんが立ち上がり、前には弟子さん達が集まってきた。そうすると弟子さん達が壁になって店主の様子が見えない。そして弟子達の垣根が開けた瞬間に———店主がハンマーを持ってこちらに突進してきていた。必死の形相で。



「なっ⁉︎」



 一瞬驚いた俺だったが、咄嗟に振り下ろされた鍛冶用のハンマーを躱す。



「店主さん! なんで!」


「アンタには返しきれない恩がある………でも、それでも……」



 鍛冶屋の弟子がその辺に立てかけていた剣を振り下ろして来る。

 咄嗟に躱し、また別の弟子が振り下ろして来た斧も床を転がって躱す。



「すみません、レッドさん」



 思い詰めた表情で店の壁の方にあった巨大な剣を持ち上げ、こちらに向けて来る店主。



「アンタが死なないとこの店が潰されてしまう……!」


「どう言うことだよ! まさか、公爵か! この辺りの店々はみんな、公爵が金を渡してるって。それで……!」


「ごめんなさいレッドさん、死んでください!」



 店主と、周りの弟子達が武器を構えて囲んだ。

 全員切羽詰まった表情で、店主に至っては戦いたくない、殺したくないと顔に描いてある。

 それでもやらなきゃいけないほど追い詰められている。

 だったら、俺は。



「この剣使うのは俺の気が済まない」



 腰にさげていたライオン柄の剣を放り捨てる。

 そして拳を構える。



「アンタらは殺さない! だが、死んだ方がマシと思えるパンチは喰らってもらうぞ……!」


「……もうイテェよぉッッ!!」



 左胸を強く握りしめて、悲痛な声で叫び、大剣を振りかざす。

 それを合図に一斉に弟子達が襲いかかって来る。姿勢を低くし、振り下ろされる武器の中を潜り抜けて1人ずつ殴りつけて、倒していく。

 バッタバッタと倒していき、弟子が最後の1人となった所で弟子の背後から店主が不意打ちを喰らわせて来た。それを横っ飛びで躱し、床に手をつけあびせげりを大剣にくわらせ、その反動で浮き上がった足をそのまま店主の横っ面に落とす。



「ぐっはッッ……〜〜……ぐああああああ!!!」



 もうヤケになっている。ぶんぶん振り回される大剣を躱しながら店の壁まで退がる。そして壁際で躱し、大剣が店の壁をぶち抜いてそのまま抜けなくなった。

 剣を失った店主に飛びついてマウントを取り、上から思いっきり拳を振り下ろす。



「が、ああ………」



 その一撃でノックダウン。

 俺は店主の体から降り、店の外に向かって走る。



「まってくれ!」



 だが呼び止められ、足を止める。振り返ると店主は俺の捨てた剣を指差していた。

 何を意味しているのかわかる。だがもう振り返らず、俺は背を向ける。



「いい、もう使わない」



 力いっぱいにドアを閉めて出た。

 扉が閉まる寸前、微かに店主の後悔している呻き声が聞こえた。


▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 外に出ると道は二つに分かれている。表通りに出る方か、裏路地に向かう方か。

 そして裏路地の方から剣を持った兵士が数人俺の方に走ってきていた。



「あの兵士達、公爵の私兵!」



 やはりあの人が企んでいるのか。

 今の俺は剣がない、一旦逃げて体勢を立て直す必要がある。

 裏の方には逃げ込めない。なので逃げるために表に出るとそこには大勢の人がひしめき合い、そして真ん前には人の三倍ほどある巨大な“ゴーレム”がいた。



「これは……」



 周りにいる人たちは街の人々。そしてドベルマ公爵の私兵達。

 表通りの道端でこんな堂々とゴーレムがいる。普通に騒ぎになってもいいはずだが、しかし街の人々は不安そうな顔をこちらに向けるだけで何も言わない。



「ふはははは!!」



 そして、笑い声と共にゴーレムの肩の上に乗って現れたのはドベルマ公爵。



「どうだ! 信頼してる仲間だと思っていた街の住民に裏切られた気分は! レッド!!」


「……アンタ」


「服屋の店長に協力してもらって君を誘き出し、さらに裏路地にある鍛冶屋に向かわせてそこで鍛冶屋の者らに襲わせる。そして出てきた所を包囲する! 作戦大成功だな! なあ!」


「……何のためにこんな事を」


「君の不貞を暴き、ルーシェ姫をお前の手から救い出すためだ!」


「婚約者いる相手に恋文送るのが誠実だとでも? なんならその内容みんなのいるここで発表して差し上げましょうか?」


「それもまた趣の良い余興であるが、そんな暇はない! 私は君を捕まえて、姫様の前に突き出す! 仕事は早ければ早いほど素晴らしい功績として褒めてくれる。忙しいのだよ!」


「……なんの罪で捕まえるんですか」


「いやいやいやいや、まったく騙された。まさか昨日の4人が君の冒険者仲間だったとはな!」



 公爵は大袈裟に頭を抱える。



「……なんの事でしょう」


「しらばっくれても無駄だ! 君の仲間達が昨日からとんと姿を消している事は調べがついている!」


「万が一の可能性で、だとして何か問題でも?」


「ここで昨日言い放った“友達”という言葉が嘘だったんだ! だったら付け入る隙があるってもんだ! 何より“証言者”がいるのでな!」


「———レェェェェェェェッド!!!!」



 公爵の近くの、建物の屋根に飛び乗って現れたのはサウザーだった。



「サウザー!」


「ふははは! 昨晩屋敷にやってきた彼の話を聞かされて、本当かどうか疑っていたが、いやしかし真偽なんて関係なく、君を追い詰める方法として私は採用———否! 君の所業を暴く必要な証拠として協力したんだ!」


「そういう事だレッド!! 俺はお前に倣って、仲間を作ったのさ!」



 サウザーは包帯を巻いた足を叩き、そして指を差して来る。

 目の前にはゴーレムを使役するドベルマと、悪魔憑きサウザー、周囲にはドベルマの私兵。後ろを見ると出て来た裏路地の奥から、さらに私兵達が歩いて来て逃げ道が完全に塞がれた。



「ルーシェ姫を誑かし、あろうことか冒険者の仲間を女の子にして愉しんでいるという所業を明かしてやる! そんな騒ぎが起きれば王はもう君を君を庇うことはしないだろう、そうなれば後はルーシェ姫との結婚式が待っている! ルーシェ姫は私のものだ!」


「さあ遂に年貢の納め時だ!! レッド!!」



 周りの兵士たちみんな剣を抜き、ゴーレムも動き出す。



「なめられたもんだ」




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