VSサウザー
夜、拠点である古家の前に立っているとサウザーが現れた。本当に唐突に、だが確実に俺が目的でここに来たことは明白。にやけ面で寄ってくれば嫌でもわかる。
「よお、夜遅くにこんな所で何してんだ?」
「……先輩、なんすか。昼の事っすか」
「ふん、そうだと言いたい所だが残念ながら違うんだな。いやまあ何、そうだなぁ、とりあえず王女殿下の花婿がこんな夜更けにこんな場所で何してるんだ?」
「まだ婿じゃないっすよ」
「まさか宿無しなんて事はないよなぁ」
「………はあ、来てください」
俺は家のそばから離れて、サウザーにあごを振って付いてくる様に言った。
「なんだ? なぜ俺をどこかに連れて行こうとする? 俺がここにいたらまずいのか? シーダの昔使ってた家には何か見られたくないものがあるのか?」
「場所を移しましょう。その方が話しやすいでしょ、お互いに」
「……ふん、まあいいだろう」
古家から離れ、サウザーを連れて街中を歩く。人気のない裏路地の奥の方まで来た所で立ち止まり、振り返る。
そして単刀直入に聞く。
「悪魔憑き、なんでしょ?」
「はあ? 何の話だ?」
本気で、わからないと言った表情をする。
一瞬本当に違って見当違いな事を聞いてしまっているのかと思ってしまったが、しかし。
「悪魔憑きだと? 違うな———悪魔纏いと言った方が早いかしら」
次の瞬間、瞬きしないうちにサウザーの姿が一変した。
服も何もかも変わり、羊のツノが生えた悪魔の女へと姿を変えた。
唇厚く、二重で紫のアイシャドウをかけた化粧。トロリと蕩けた目つきに怪しく光るワインレッドの瞳。白目の所は真っ黒だ。
胸元を開いた服装で豊満な胸が強調され、谷間が見える。腰回りもパンツだけで“誘惑”の権化と言ってもいい見た目だ。
「いいえ正確には、悪魔と一体化して一つの体を共有していると言ったところね」
艶やかな声色の女。ウェーブがかった長髪を撫でて、俺も誘惑する様に流し目を向けてくる。
サウザーがいた場所に、その悪魔の女がいる事から俺は確信する。
「……先輩を操ってる、ってわけでもないんだよな。今のアンタとサウザーは、まるで違って感じる」
「ふふん、どうかしら? あなたにそれを教える義理があるかしら」
「義理の話すんなら腹括れよ。義理ってのはちゃちな会話のタネじゃない」
「は?」
「俺は今周りで起こってる事の真相が知りたい。もしこのまま真偽定まらないまま黙ったままなら、こっちにはアンタから力づくで聞き出す権利がある。そしてアイツらのために行動すると決めた自分自身への義務がある」
ライオンの剣を鞘から引き抜く。ギラリと刀身の光沢が悪魔の顔を照らす。
「ひゃ〜、こっわ〜い! こんな幼気な女の子に向かって剣を向けるなんて、ルーシェが聞いたらどう思うかな〜」
「悪魔がこんな所にいると人間の王に伝えたら、どうなるかは子供でもわかるんじゃないか?」
「……ふん。どうしてこんな奴なんかを。まあいいわ、今回の件、首謀者は確かに私とサウザーよ」
「どうやって……」
悪魔は自慢ったらしく、しかしどこか寂しげに語り始める。
「自然力を使う魔法、そして信仰心によって神の世界にアクセスできる聖術。その二つを掛け合わせたの。神の世界を通じて別世界にいる“戦いに無縁”、魔法も聖術もない世界にいる非力な女の子と、あなたの仲間達の体を入れ替えたの。そして魔法による自然力の操作でこの世界に馴染ませた」
神の世界。
別世界。
戦いに無縁で、魔法も聖術もない世界。
非力な女の子。
悪魔の語る事は荒唐無稽だったが、しかし実際に起きている。そしてこんなに語れると言う事は、方法に関しては彼女の説明通りなんだろう。
「悪魔が聖術を?」
「もちろん使えないわ。でも私にはサウザーがいる。まあ今回の大掛かりな術は、私の魂の半分、そしてサウザーの魂の半分を持って行かれちゃった」
あっけらかんと言っているが、それを見て俺は一層疑いが深まる。
魂の半分を失ったってことか?
なぜそんなこと?
「なんでこんなことする必要があった」
「そりゃあ———お前を超えるためだ、レッド」
言葉の途中でサウザーに戻った。
そして徐に剣を引き抜いた。
「こうでもしないとお前を超えられない」
「…………」
「魂でもかけなきゃ、お前の仲間を弱体化させなきゃ、こうやってお前と対等に戦う機会は来なかった」
チャキ、とサウザーが剣を構える。両手で握り、顔の横まで剣を持ち上げる、狭い裏路地での戦いに向いた突きの構えをする。
対して俺は黙って剣を構える。サウザーと同じ突きの構え。
「へっ……行くゾォ!」
掛け声と共に真っ直ぐ突いて来た。それを真っ向から、真正面から突っ込んで行く。一切怯まずにサウザーの顔に向かって剣を突き立てる。
こっちにもサウザーの剣が迫って来ている。
突きの速さ、地面を蹴る力の強さは俺の方が上で、到達するのは俺の方が早い。サウザーは俺と同じ様に堪えていたが、鼻に刃が当たる所で顔を横に動かし、躱した。
同じ様に、俺も顔を横に動かし———迫る剣を頭で弾いた。刃のない刀身にこめかみ辺りを当てて、無理やり剣の軌道をずらした。そして腰をバネにしてサウザーの顔があった場所を通り過ぎる剣を一度上げてから、そのまま振り下ろす。狙うは袈裟斬り。
「———ッ!」
それにビビったサウザーが後ろに飛び退こうとしたので、頭で弾いたサウザーの剣を手で鷲掴んで引っ張り込む。そしてこっちに引き寄せられて、躱す余地もないサウザーの体に上から斬り下ろす。
「ぐ、あああッ!!」
剣を真上に放り投げる。
そして斬ったサウザーの胴体に、鋭い回し蹴りをくらわせた。
痛みと共に、サウザーは苦しそうな顔をして吹っ飛ぶ。
それにキャッチした剣を取り逆手に持って、駆け寄ってから上から斬り下ろす。すんでの所で剣で受け止められた。
「く、ううっ、ぐっ……や、やっぱ、強えぇ……」
「そりゃあ格違いのお前からしたらそうだろうな」
「な、なんだと……」
「俺が悪魔を頼ったか? 俺がお前の周囲の人間を利用しようと考えたか? ———俺がお前と同じだと本当に思うか、サウザー」
「て、テメェ……———侮辱しないで欲しいわ———」
このタイミングを狙っていた。
サウザーが悪魔に変わるこの瞬間を。
またも言葉の途中でサウザーと入れ替わった悪魔に、上着の内ポケットに隠していたナイフを投げつける。それを見た悪魔は驚愕し、腕を振ってナイフを撃ち落とす。
そのタイミングで下から上に回し斬りをして、悪魔の体も切り裂く。
「ぐううっ⁉︎ う、うそ、私を狙ってたのか、最初から……!」
「どうやら入れ替わると体の傷もなくなるみたいだな」
縦斬りで千切れた服から、裸体が露出する。悪魔の人を誘惑するための体。それを悪魔は手で隠して、俺から飛び退きそこでサウザーに戻った。
サウザーの傷はそのままで、その場で膝をつき血を路地に流す。
「どうしてそこまで、強いんだよ、お前は……!」
「弱い強いじゃなく、勝つ方法を考えるべきだったかもな。本当に勝てる方法を」
もう一本のナイフをサウザーの膝に投げて足止めし、逃がさない様にする。跪くサウザーを、見下ろす。
見上げるサウザーの目は揺らぎつつも、俺を確かに見ていた。
「ふっ。けど、魂賭けた覚悟だけは認めよう」
「ふ、ふざ、けんな……何で俺は、お前に……どうしても……」
「アイツらを元に戻せ! サウザー! 俺とアンタの勝負にアイツらは関係ないはずだ!」
「……仲間、か。そうか……———そうね、サウザー!」
瞬間、入れ替わった悪魔はそのまま飛び上がって建物の屋根の上に逃げた。
それを冷静に見上げる。
服を押さえている悪魔は、汗をかいている。しばらく俺を見下ろしていたが、そのまま夜の中に消えて行った。
「さて、後はルーシェ様に任せようか」
さっき剣を掴んで切れた手をジャケットを雑に巻いて、血を抑える。
そしてルーシェのいる屋敷の方へと走った。この国の王は彼女らなのだ。




