俺らは国一番の冒険者パーティ
俺の名前はレッド。冒険者ギルドで、パーティのリーダーを務めている。国一番の実績と実力があると自負している。
パーティメンバーも実力者揃いだ。
戦士タウロスは、筋骨隆々の大きな体をしている30のオッサン。
硬い体のゴーレムを剣の一振りで胴体を切断できる。力持ちで難関ダンジョンでもその力を発揮し、頼りになる兄貴分だ。
しかし女好きなのが玉にキズ、それでいてすぐに傷つくため言葉遣いには注意しなくてはならない。
魔法使いマーリンは、ガリガリで高身長のおじさん。
あらゆる魔法を自在に操る最強の魔法使いだ。全属性の最高クラスの魔法を使える他、回復魔法にも精通しておりマルチに対応できる。
しかし時たま卑屈になってしまう所があるため、いつも俺が慰めて落ち着かせている。
僧侶ナゲットは、小柄で小動物のような感じの歳下。
光と治癒を得意とする聖術を巧みに操り、時には光の力で弱い敵を一瞬で消し去ったり、聖術治癒でどんな傷も直せてしまう。
しかし心配性で気負いすぎるため、俺がある程度支えないとすぐに壊れてしまう。
盗賊シーダは、熟練の冒険者でボサボサの頭をしているが頼りになる男である。
派手に目立つことはないが、敵の攻撃を躱し熟達したナイフ捌きであらゆるピンチを立て直して、さらにはモンスターから道具を奪って回復アイテムや資金の調達をする、パーティ存続に無くてはならない人物。
しかしイタズラ癖があり俺も何度か被害にあっている。大事には至っていないが、それは彼が頭が良く、上手く怪我しないようにしているから。悪知恵の働く要注意人物だ。
この4人に、俺を入れて5人パーティで活動している。
みんな男だ。
タウロスからはそろそろ可愛い女の子を入れてもいいだろうと何度も何度も言われて来ているが、この5人で十分強いし冒険も問題なく出来ている。新しいメンバーを入れる必要性がないのと、あともう一つ女の子を入れられない理由があって……。
「おーい! レッド!」
「ルーシェ様。あの、ここは冒険者ギルドで……」
「いいじゃない! 愛しのダーリンに会うためなら例え火の中酒の中、無頼達の喧騒の中……はあ、今日も素敵よレッド」
「ありがとうございます」
「もうっ! もっと親しみがあっても良いのでは無くって?」
ふわふわのセミロングヘアーの、可愛くて綺麗なこの子の名前はルーシェ。この国の王女様で、俺の婚約者。
初めて会った時は『冒険者風情が私の前に立つな』、なんて言われてたものだが、時を重ねてちゃんと恋愛して、互いに自分の想いを伝えて両想いで婚約した。
愛するルーシェと2人で、月夜の泉で誓った約束は決して忘れられない。
「しかし王女様に無礼な言葉は……」
「あなたと私の愛に王女と庶民の垣根は存在しませんわ。月と泉が神秘に絡み合うあの夜の事、はぁん、今日日忘れたことは一瞬たりともありませんわ。レッドを肌で、心で感じたあの日を……」
「あ、あの、仲間の前でそれはちょっと恥ずかしいと言うか……」
冒険者ギルドの酒場で、仲間達と共に飲んでいた所に王女様はやって来た。護衛の騎士がいるから大丈夫だとは思うが、しかしあまりにもフットワークが軽すぎる。もっと自分の身のことを案じて欲しい。
戦士のタウロスがつまらなそうな顔になり、一気に酒を煽り、派手にゲップした。
「げぇ〜ぷっ。ったく、レッドはいいよな。可愛い婚約者がいてさ。パーティには女は入れないって言ってる癖に」
ぶつくさ文句を言われる。
パーティに女の子を入れられないのは、俺が王女様の婚約者で、周りに女性が居るのは浮気の心配があるため国王陛下直々に辞めて欲しいと言われたから。別に強制ではないが、これ以上仲間は必要ないという理由と相まって、タウロス以外の仲間の承諾もあり女の子は入れていない。
「リーダーに言っても仕方ないでしょう。パーティに女性が居たとしても、結果は同じように思えます。パーティなんて関係なく、真摯に女性と付き合えば———」
「そう言う説教臭いマーリンは出逢いとかあんの?」
「ちょっ! シーダさん!」
「……そうだよ、ボクだって、ボクだってさあ!」
説教していたマーリンだったが、シーダにグサリと刺さる事を言われてしまい、ナゲットが心配する中で落ち込んで卑屈になってしまった。
ナゲットと共に背中や肩に手を置いて慰める。
その傍でルーシェが腕に絡みついて、抱きついて来た。
それを見たタウロスはまたやけ酒を飲み始め、シーダはカラカラと笑っていた。
いつもの光景、いつもの俺たち。冒険でも特に危ない場面はないし、来週には王様から功績を讃えて褒賞される事になっている。王女様の婚約者がいて贔屓だと周りから思われると想像していたが、俺たちの功績は周りも認めてくれていて、安心して表彰台に立てる。
ずっとこのまま変わらず冒険者稼業を続けられると思っていた———
「「「「な、なんじゃこりゃああああああ!!」」」」
飲み明かした翌日。ルーシェがどうしてもと言うので彼女の住む屋敷で寝泊まりし、仲間達と共に泊まっている宿屋の方に朝方戻ってくると、仲間達の悲鳴が聞こえた。急いで向かう。
そして仲間達がいる寝床に飛び込むと———知らない女性が4人、股を広げたり、胸を揉んだりしていた。泣きそうな顔でこっちを見て来ている。
「あっ、失礼しました。俺はこれで」
「待て! レッド! 俺だ! タウロスだ!」
「タウロス?」
知らない人の部屋に入ってしまったと思い、謝りながら部屋を出ようとするとタウロスと名乗る女の子が腕を掴んで止めて来た。
引き止めてきた茶髪の彼女の見た目は、ボタンがたくさん付いた騎士が着るような無難で地味、量産しやすそうな服を着ていて、ひらひらのスカートが超短く、眩しい脚がこれでもかと出ている。
顔つきは可愛らしいが鼻が低く、眉間や目の辺りなども平べったい印象を受ける。
「ど、どう言う事だ……なぜ、僕がこんな」
離れたところで絶望している女性は、長い長い黒髪をかき乱して錯乱していた。野暮ったい白いTシャツと、ズボンとは思えないほど丈が短い物を履いていて、太ももが全部出ていた。裸足でどことなく肌荒れしている。
「ボク……女の子になっちゃった」
恥ずかしそうにしながらも、どこか面白く感じてそうな顔で自身の体を撫で回しているのは、黒髪メガネで三つ編みの小柄な女の子。体は細くて小さいが出る所は出ていると言う印象。
「……まさか、こんな事に。俺の鍛えた体が……」
鏡を見て何度も顔を触って確かめている女の子は、黒髪かと思いきや内側がピンク色で、ピンクのリボンを付けている。まつ毛も長く爪も真っ黒だ。
目の方には赤いアイシャドウ。ピンクのフリルシャツに、黒のスカート。とにかく黒とピンクだらけ。
「えーと……」
この人達はもしかして、俺のパーティ仲間なのではないか。
そう思うとすぐに俺は決断を下す。
「とりあえず活動休暇申し出ようか」
男ばかりだった俺のパーティが一気に女の子だらけになってしまった。