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8話.魔人の国

飛び込んだ魔法陣が発光し、眩さに目を閉じて静かに待つ。

ふわりと浮き上がる感覚の後、転移が完了する。

俺はゆっくりと目を開けると周りを魔人に取り囲まれていた。

おどろおどろしいオーラを放っているが、なぜだか敵意を感じなかった。


「見ろ、魔王様が降臨されたぞ」


「魔王復活の儀式って本当だったのか」


「だが、何という魔力だ。流石は我らの魔王様だ」


「これで、俺たちは助かるのか?」


興奮がこちらに伝わってくる。


「皆、落ち着くのだ。まずは、魔王様に状況の説明が先だろう」


そう言って一歩前に出てくる魔人。

こいつが一番強そうだ。


「そうだった。説明を任せても良いのかダギャン」


「うむ、任されよう」


その強そうな魔人は鷹揚にうなずくとこちらを振り返り話し始めた。


「不甲斐ない我らは魔王様にお力添えをお願いしたい。

現在、魔都ダクシュアまで人間の軍勢が攻め寄せております。

奴らは見たことのない武器で同胞を虐殺し、奴隷に攫い逆らえなくする首輪をはめてとやりたい放題で、我らは身体能力と魔力で上回っているものの、このままでは奴らに根絶やしにされてしまいます。

どうかお力添えをお願いします。」


一気に捲し立てて頭を下げた。

俺は正直疑っていた。

何せ魔人なのだから、また洗脳かと。

ただ、まぁ、人間の一面としてそういう部分は確かにあるのも事実だから、相手を確認してからにしようと思うことにした。

古くはアメリカでも奴隷解放で争いになり、奴隷解放を報酬に奴隷たちの支持を集めたリンカーンによって奴隷が開放された歴史がある。

もっと言えば、過去の戦争は植民地や奴隷を求めた物も多くある。

今では差別撤廃を叫んでいる人達ではあっても、武力で奴隷にした人達の子孫なわけだ。


つまり、逆らえない相手を自分の手足として使える事に魅力を感じる事もまた、人間の一面であって、今でも暴力的で野蛮な国民のいる国というのは枚挙にいとまがない。

この世界はそういう人達が当然のように、自分たちとは違う人種を一方的な搾取の対象にしている可能性があるわけだ。

悩むところだった。

なぜならば、俺もそんな人間の一人で、敵対する魔人に肩入れしても良いものか難しいところだったから。


「言い分はわかったから、とりあえず、敵に会わせてくれないか?」


「はっ、かしこまりました。魔王様」


恭しく頭を垂れる魔人。


「それで、大変申し上げにくいのですが、

そろそろ発情期になります。

2周間以内で女性は保護してあげてもらえませんか?」


やっぱりタイムリミットがあった。

魔人って発情期あるの?

人間の近くにいたら人間相手でもってこと?

ハーフが産まれても良いのかもしれないけど、まずいんだろうな。


とりあえず、ここでは魔王様ってことでいいだろ。

聖女を攫うなんて魔王様っぽい事をしたこともあるわけだし今更だ。

まして、今回女性を助けるというか攫うような事をしないといけないわけだしね。


「ここ、魔都ダクシュアから南に半日の距離で奴らは布陣しております。

近くまで転移でお送りいたします。」


魔人の一人がおそらく空間魔法を発動した。

俺の使うものとは違って見たことのない術式だったが、俺の使う転移魔法の劣化版だった。

消費魔力が2割ほど無駄になっている。

転移した後あたりを見回せば、魔都に続く道以外は荒野といった感じで、ゴツゴツとした岩が無秩序に転がった光景だった。


まとわりつくオーラがこちら側で、正面から漂ってくる魔力が人間側か。

え?人間の魔力ってこんなちっちゃいの?

地球の人間くらいしか魔力を感じないんだが。

まぁいいか、とついてこようとする魔人を手で制して人間側に歩き出した。


テントが張られて陣幕や柵が設置されている。

何も気にせずにずんずん歩く。

柵と柵の間に薄っすらと魔力の糸が張ってあるのがわかる。

なるほど、感知魔法か。

俺はあえてそれに触れた。

いわゆる魔導具ってやつだろう。

この世界での報酬はアーティファクトみたいな魔導具だったら来た甲斐もあるってものだ。

聖剣は持ってるけどそうなると鎧かな?

なんて想像をしながら歩いていくと


「馬鹿め、囲まれてることにも気づかず暗殺でも企んだか?」


魔力反応からゆっくり包囲していることには気づいていたけど、それは言わない。


「あんたらの目的を聞いてもいいか?」


声をかけてきた相手に問いかけた。


「はんっ、そんなものペットを保護しようとしてるだけだ。

飼い主に従順なペットなら引く手あまたってやつだからな。

高く売れるぜ。顔の良い女ならなおさらだな。

ま、その前に俺等がくっちまう事もあるけどそれでもありがたがって金持ちが買っていくからな。俺のお下がりで良いとか笑えるだろ?」


こういう系統の下衆だったか。

しかし、こんなに馬鹿正直に目的を話すとか馬鹿なんだろうな。


「相手の気持ちは考えないのか?」


「馬鹿かお前。首輪さえつければ逆らえないのに気持ちも何もねぇだろ。

そもそも、魔物なんて、俺等人間の魔力道具なんだよ。

魔力を使わせて生活が豊かになる。

奴らも使っていただいてありがとうございますって泣いて喜んでるぜ~」


取り囲む連中も笑いながら聞いていた。

こいつらは害虫ってことで駆除対象だけど、どこかにレジスタンスでもいないのかな?


「反対派が黙ってないだろ」


「反対派?奴らが反対してんのは戦争であって、奴隷制度じゃねぇだろ。何いってんだ?」


ふーん。なら、武力で奴隷にされるって事がどういうことか教えないといけないだろうな。


「オッケー。とりあえず、俺はお前らの敵みたいだわ。

お前らも武力で奴隷にされたら気持ちがわかるかもな。」


そう言って俺は魔法を使った。

時間停止

ものすごい勢いで流れる滝の水を止め続けるように膨大な魔力が消費される上に、普段以上に少し動くだけでも体力を消耗する。

それでも、俺くらいになればたった一人を捕縛するなんて楽な仕事だ。

停止解除。


ゆったりと時間の流れが元に戻り始める。

そうして元に戻りきったところで


「奴がいない?」


と混乱が広がっていく。


「俺ならここにいるけど?」


周りに見えるように首輪をつけたさっき偉そうに喋ってたやつを引きずっていく。


「これで、お前は俺に逆らえないんだろ?つまり周りを囲んでる奴らの敵ってことだな。

絶対に叶わない相手に圧倒的武力で逆らえなくされた気分はどうだ?

逆らえないから関係ないんだったか?」


小声で話しかけてやった。

唖然とした顔で見てからようやく自分の状況がわかったのか青ざめていく。


「おいおい、お前がやったことを体験できるんだから喜んだらどうだ?

俺はお前を売れば良いんだったか?

男だし、死ぬまで働かさせられるとかかな?

しかも、タダ働き。

良かったな。仕事が一生できるな。

先は短いだろうけど」


どんどん言葉で追い込んでいく。

ガタガタ震えていたが、邪神みたいなことをしてるこいつらを許す気はない。


周りを囲んでるやつらは不意に弓を構えた。

弓?いやボウガンか。トリガーがついている。

しかも、うっすら魔力がこもってるからあれも魔導具ってやつか。

四方八方から矢が放たれた。全部叩き落してもいいけど面倒なので空を飛ぶ。

馬鹿も死なせるわけには行かないのでズボンのベルトを掴んで空へ。


「は?」


呆然として見上げているアホ面を眺めながら俺は魔法を放った。

巨大な火球を空へ向けて。

遥か頭上で爆発して火の粉が降り注ぐ。

火事にならない程度に上空に放って爆発させたが、効果はてきめんだったようだ。

奴らは敵わない相手だと認識したらしい。

膝を折って謝ってくる。


「あれ?強いやつが弱いやつを奴隷にできるんだったよな?

逆らってもいいけど死ぬだけって状況を作ったら良いんだったか?

そんな考えのやつなんて邪神だけで十分だからやっぱ殺すかな?」


そんな事を言ってみる。

怯えた目で大勢から見られる不快感に耐えられなくなって土魔法で土壁を作り奴らを閉じ込めた。

奴隷の首輪をつけた最初のやつだけ土壁の外になる。


「なぁ、お前から奴隷を買ってるのはどこのどいつだ」


すると命令に反応したようにビシッと真っすぐ立って


「奴隷商のアクライという者です。」


「売った先は?」


「存じません」


奴隷の首輪の効果なのか、口調まで変わっていた。

涙がこぼれてるけど。


現状は把握したので、奴隷の首輪の構造を見た。

機械的な部分は全くわからんが、魔力の流れと動きはわかった。

つまりはこの前の洗脳魔法みたいなものだろう。

命令されるとそれが自分のするべきことと認識させる。

どうやって脳に信号を送るのかはさっぱり理解できなかったけど魔力の構造はわかった。

だから、俺はこの世界に広がるように、俺の指示を奴隷の首輪経由で伝わるように魔力を放った。

俺の膨大な魔力は星を包むように広がっていく。

すると各所で魔力の柱が見えた。

俺の洗脳魔法は無理のない程度に魔力を放出して魔力の柱を立てろ、だ。

これで、奴隷を見つけやすくなった。

すぐさま行動を開始した。

近場から順番に奴隷にされている魔人を救出し、その周りの奴隷にしていた奴らに洗脳魔法を施していった。

奴隷の首輪なんてものがなくても、俺の指示に従うようになってしまう。

恐ろしい魔法だと想ったのでこの世界から出たら絶対に使わないようにしようと心に決めた。

俺は自分の洗脳魔法で自分自身に洗脳魔法を使えないが、レジストは可能とする魔法を使うつもりだ。


そんな中、一際強い魔力を放っている魔人がいた。

女の奴隷が多い中でこの人は男なのに屋敷で生活していた。

男の奴隷はたいてい小屋のような場所で生活させられていたのに、この人だけどうにもおかしい。


話を聞くと奴隷商に売られた後、奴隷商に恨みを持つ野盗に襲われ奴隷商が死んだ。

野盗は売るつもりでこの人を街に入れて牢屋のような場所に監禁していたらしいが、この屋敷の主が領主で、殺人容疑で野盗を捕らえた際に保護されたらしい。

それから、奴隷の首輪を奴隷の証としてつけたままではあるが命令もされることなく生活させてもらっていたそうだ。

領主は手始めに戦争をなくし、奴隷を捕らえるという行為そのものを無くすべく動き出したそうだ。

そのサポートに魔導具作成を手伝ったりしていたらしい。


やっぱ人間の中には良いやつもいるんだなと想った。

領主の館内を自由に動き回れるらしいこの男は名をザガニといった。

領主に興味が湧いた俺はザガニに頼んで領主に会わせるよう頼んでみたらあっさり了承されて執務室まで案内された。


「ご主人さま、ザガニです。ご主人さまにお会いしたいというお客様をお連れしました。」


「どうぞ、入って」


そう言われて室内に足を踏み入れたザガニに続き俺も中にはいった。

そこには上品なおばあちゃんと同世代くらいの女の子がいた。


「私に何か御用かしら?」


おばあちゃんが口を開く。


「俺はハルトと言います。貴方がザガニを保護したと聞いてお会いしたくなりました。

いくつか質問をよろしいでしょうか?」


「あら、若いのに丁寧でしっかりしてるのね。

私に答えられることでしたら良いのだけど」


「ザガニは奴隷の首輪をつけられているのに命令をしたことがないそうですね。

俺は奴隷を開放して回ってますが、そこが気になってどうしてもお聞きしたかったんです。」


「そうね~。孫のためかしら。

この国では貴族の入婿が認められていないから、孫は私が死んだら市井に降りることになるでしょう?

一人で生きられるか心配でね~」


「おばあちゃん、死ぬだなんて言わないでよ」


女の子が口をはさむがおばあちゃんは優しく微笑んで


「それに、ザガニさんに対して命令なんてできないわよ。

孫の自慢のおばあちゃんのままでお迎えを待ちたいからかしら。

この年にもなると孫の成長くらいしか楽しみもありませんから」


ほほほと笑う。

領主としてやってきたにしては酸いも甘いも経験してるって感じがまるで無い。

清廉潔白な貴族様なのだろう。


「貴方はどうして奴隷を開放してらっしゃるの?」


「武力で奴隷にして尊厳を踏みにじることを良しとしないからです。」


「そうね。自分が逆の立場ならと考えるとできないわね

立派で優しいのね

貴方みたいな子がこの子とくっついてくれたら安心なんだけど」


「おばあちゃん!? 何言ってるの?」


「ほほほ、見ての通り恥ずかしがり屋で結婚なんて考えられないみたいなのよ。

可愛いでしょう」


「おばあちゃん!」


「これ以上からかうと可愛いけれど怒ってしまうわね。

他にご質問はあるかしら?」


「えっと、俺はザガニを魔人の国に連れて行こうと思ってます。

開放した奴隷に一般的な生活をさせてあげたくて。

ですが、ザガニの気持ちや領主様の気持ち、お孫さんの気持ちもあるでしょうからお聞きしたかったのです。」


「ザガニさんのなさりたいようになさって」


「ザガニ!? 出ていくの?」


「ご主人さま、私はご主人さまに返しきれない大恩がございます。

私はこちらでこのままお使えさせていただきたく思います。」


「人間関係も良好ですか、これでは連れていけませんね。

しかし、そうなると俺のやったことによってご迷惑をおかけしそうです。」


「どんな事が起こると思ってらっしゃるの?」


俺は奴隷を開放して魔人の国に転移して送り届けていることを話した。

奴隷にしている連中を潰して回っていることも含めて話す。


「だから、ここにだけ、魔人が残っているとバレると奴隷解放をしている者の仲間に思われるかもしれなくて」


まして、貴族でなくなる力を持たない家のことだ。

代わりに孫を奴隷としてよこせなんていう奴が現れるかもしれない。


「それは困ってしまうわね。

でも、問題ないわね。

貴方が孫とザガニさんを連れて行ってくださらない?」


「は? え? どういうことでしょう?」


「だって、貴方がやった事で孫が害されるなんて許せないもの。

だから、貴方が貴方の責任で娘を守る義務があると思いません?」


少し領主としての迫力が感じられた。

こう見えてもやっぱりこの人は立派に領主なんだ。


「それは構いませんが、条件があります。

領主様も一緒に来てもらいます。

領主様の代で家がなくなるなら早いか遅いかの違いでしょう?」


「あら、貴方、私まで守る必要はありませんよ。」


「フフ、これはお孫さんのためですよ。」


「あら?これは断れないわね。策士ですこと」


そう言って楽しそうに笑った。


「おばあちゃんがこんな風に笑うなんて」


孫は驚いていたけど、おそらくやり返されて楽しくなったんだろう。

ザガニは混乱の局地なのか、どう判断して良いのかわからない表情で口を挟まなかった。


「とりあえず、ザガニは自分の意志でお二人と共に有りたいなら、その証明として首輪は壊すけどいいな?」


「わかりました。私の意志でご主人さまと有りたいというのはこんな首輪で従えられてるせいではないのでお願いします。私のご主人さまへの想いの照明のためにも」


言われて洗脳の首輪を破壊した。


「私は改めて、自分の意志でご主人さまのそばに有りたいと思います」


けじめなのだろう。首輪がなくなってからもう一度はっきりとそう宣言した。


「ところでこれからどこに向かうのかしら?」


「え?今から? 引き継ぎとか必要ではないのですか?」


「そんなものいらないわ。私は方針を決めてるだけ。

実務は人に任せてあるもの。

その子も貴族なので、私の後をついでこの地の領主になることが内定してるのよ。

絶対に引き留めるはずだから、早くいきましょう」


領主様は決断、即、行動の人だった。

死後のことまで考える割に人生楽しんでる感じがする人間的魅力に溢れた人だった。

リュードやシャーライ、ミャン辺りが秒で懐きそうだ。


その後数か所の奴隷を開放してから魔人の国に戻った。

そこで初めて魔人達に魔王様と呼ばれていることを知って領主様と孫は驚いていたけど、気にしないでくれとだけ伝えておいた。


俺は人間の中にもいい人はいるし、ザガニが保護されていた事も伝えた。

魔人の中には複雑な表情の人もいたけど、領主様と孫は好意的に受け入れられ、人間との融和を模索すると言っていたので納得した俺は帰ることにした。


しかし、ここで問題が発生。


「あら?責任放棄はダメですよ」


領主様の言葉で渋々領主様、孫、ザガニを連れて地球に戻ることになった。

領主様はアマンダ、孫はエリナというそうだ。

連れて変えることになったので変な話だがそこで初めて自己紹介をしていた。


「魔王様、さすがに自己紹介もせずに連れ回すのはどうかと」


と常識的な事を魔人から言われて

そうだけど、お前らに言われると傷つく

と思いつつ、俺たちは地球の中古マンションに転移した。


魔人の年齢がわからないけど、ザガニという男を連れて。

女の園で良いじゃない。

男は不要だろ。

リュードがいても子供だから良しとしていたのに好青年が来たら俺への好感度が塗り替えられて寝取られてしまうかも。

そんな危機感を持ちながら。




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