13話.魔法VS科学
あっ!
気がついた時にはすでに遅かった。
部屋に入ると魔法陣を踏んでしまった。
退屈してたからいいんだけどさ。
でも、正直ここの所自分の実力が上がるような戦闘経験は積めてない。
邪神に勝てる装備か、邪神を倒せそうな魔法を頼む。
そう願いながら魔法陣が光るのを待った。
どうせ光ったら転移するんだろう?
何度目だと思ってるんだ。早くしろよ。
なかなか光らない魔法陣だったが、仕方ないので魔力を流すとようやく光った。
どういう仕組か知らないけど魔力不足で召喚しようとしたんだろうな。
しっかりしろよ。
頭の中で愚痴りながら目を閉じた。
「おおっ!本当に召喚できたぞ!」
「やりましたね。我々の魔法理論が実証されましたよ。」
賑やかな空間に出たので目を開けた。
「貴方は別の世界から来たのですね?
自分のことがわかりますか?
その世界は何というのでしょうか?」
質問攻めだった。
正直に言おう。ウザい。
「俺はハルトだ。
地球から来た。」
「地球なんて聞いたことがない。
完全に成功したな。」
そこからバンザイと叫びだした。
こいつら、魔法理論の研究の為なら他人に迷惑をかけることも厭わないってとこか?
迷惑だからこいつらを退治することがこの世界を救うんじゃね~のか?
そんな気持ちが膨れ上がっていた。
「何かわからんけど、とりあえず外出ていいか?」
「それはまずい!
今外は自動人形が徘徊しておる。
我ら魔法使いを殲滅しようとな」
「はぁ?何、お前ら狩られる状況なの?
よくそんな騒いでられるな」
あれ程はしゃいでいたのに、実際は見つかれば殺されるような状況だという。
アホだろ。
「仕方ないだろう?俺等の仲間はもう殆ど残ってない。
科学陣営に作られた自動人形は人を見つけたら襲ってくるのだからな。」
「そんな時に召喚魔法が成功したら希望に湧くのも仕方なかろう」
口々にテンションが高かった言い訳を聞かせてくる。
「でもさ、人を見つけたら襲ってくるのなら、科学陣営とかいう奴らも死んでるんじゃないのか?」
「それはわからん。儂等は科学陣営と袂を分かって随分経っておるのでな」
まぁ、いい。とりあえず、魔力の少ない魔法陣営のなけなしの魔法で呼ばれたことだけはわかった。
これなら俺のレベルアップも期待できそうだな。
では、早速自動人形とかいうのと戦ってみますかね。
面倒な静止を振り切り俺は外に出た。
魔法陣営は自然の洞窟をただの山に偽装する魔法で隠れ住んでいた。
自動人形というのもエネルギー源は必要だろうし、メンテも必要だろう。
もし俺が勝てなくても狙える隙はいくらでもありそうだな。
そう思って歩いているとすぐに3体の自動人形が現れた。
自動人形は人形の3m位の大きさで武装は少なめに見える。
ミサイルなんて装備した日には嵩張るだろうからな。
携行用のブレードとサブマシンガンにマグナムか。
合理的な武装だと思った。
それにしても感知距離が広い気がするな。
出てからすぐに俺を認識していたのだろう。
加速しながら自動人形は先頭の一体がマグナムを撃ち、避ける先を予測したようにサブマシンガンの弾が周囲にばらまかれ、ブレード装備の一体が確実にとどめを刺すために駆け寄ってきた。
これはすごいな。
銃弾を避け続けるスペースが見当たらないほど周囲に発射される銃弾か。
エアウォールで分厚い空気の層を作っても銃弾というのは貫通力を高めるために回転してるからな。
科学陣営と言ってたからまだまだ大量生産されてそうだし、魔力も温存したい。
瞬時にそう考えて時間停止はしない。
ここはシンプルに盾でいいか。
俺はアルバーンを持ってから盾を使っていない。
アルバーンが両手武器で片手で戦うのは難しいからだ。
それでも、持っていないわけではないので、昔愛用していたラージシールドを取り出して念のため自身に硬化魔法をかけた。
この盾にはラバー素材での衝撃吸収と盾自体もオリハルコン製で一度も傷ついたことがない。
流石にマグナムの銃撃だけは避けた。
銃は銃口の向きから射線がわかりやすいから俺の身体能力なら簡単に避けられる。
マシンガンは問題なく盾が弾いてくれている。
盾が邪魔で見えないけど、あのスピード感から3秒後かな?
と考えて自動人形のブレードをうまく避けることが出来た。
とりあえず土でいいか。
土魔法を考える時、みんな岩を想像するけど、魔力制御の練習と称して俺は砂というか粒子レベルで制御していたので自動人形が機械なら関節部等に差し込めれば妨害できると思ったわけだ。
充電か何かわからないけど、外部から内部につながる何かしらはあるわけだから、俺は3体を砂の洪水で埋めてみた。
これで動こうとするたびに砂が干渉して故障するだろう。
それにしても、反応がわからないのは結構脅威だな。
どこから襲われるかわかったものではない。
どの程度の時間で動けなくなるか分からなかったので余裕を見て30分程時間をかけようと、空間収納から椅子とテーブルを設置してコーヒーを飲みながらゲームをしていた。
気づいたら1時間以上経っていたので、砂を風で吹き飛ばすと、そこには動くことが出来ないながらも、ギギギと動こうとしている不快な音を立てる自動人形がいた。
構造に興味はないので分解しようとは思わなかった。
修理されても面倒だからウォーターカッターでバラバラにしてからその場を後にした。
コアと言うか人工知能とかあったのなら、基盤なり何なりを破壊すれば簡単に終わりそうだけど、大量生産品なら場所は変えられないのに、普通に切れたから弱点を探す気にもならず切り刻んだ。
こうなると長距離からのスナイパー警戒が必要になるか。
魔力感知も出来ないとなれば本当に厄介だな。
ごちゃごちゃ考えるのが面倒くさくなる。
しかも、敵の本拠地などの情報が一切わからないわけだ。
今回は時間制限も何もないのだからのんびり行くか。
そこから襲撃もないまま時間が経過する。
無駄に時間を使わされていることに辟易する。
寝る時はマイスペースでゆっくり休んだ。
何日も何日も人もいない大地を見て回る。
街があっても人がいない。
これってもう、この世界詰んでる状況じゃないのか?
そうして3年の月日が流れた。
魔力感知で反応があるのは、あの召喚された場所だけだった。
徒労感で毎日繰り返される飛んでは寝てで元の世界に戻ろうか考えながらも、生き残った魔法陣営は生きているのだから何とかできると信じて自動人形を全滅させるべく探索を続けている。
ここに高性能な装備があるとは思えない。
魔法もあのショボさを考えれば期待するだけ無駄だ。
だけど、この絶望感が、邪神を思い起こさせて奮起した。
魔力で電力感知とかできるならすぐに片付くのにどうやればいいのか分からなかった。
3年の間に2度だけ自動人形を壊した。
そう、たったの2回だ。
俺は考えていた。
仮に科学陣営が自動人形に殺された場合は大量生産前にプロトタイプだけで実際の製造はされなかった可能性。
次にマザーコンピューターが氾濫を起こしたが、人間の手作業で作っていた部品の製造ができなくて大量生産が出来なかった可能性。
最後に資源の枯渇。
いや、待てよ。
自動人形が元々は人類存続のために作られていた場合、資源の枯渇や延命のために人類を減らす結論に至った。
それなら、科学陣営が生き残ってる可能性は高いか。
仕方がない。もう少し探そう。
自動人形はどうやって人を探しているのだろう。
ふと最初の3体を思い浮かべて科学で人を探す方法を考える。
人工衛星か?
そう思い視力強化して空を睨むが、眩しいだけで何も見つけられない。
どうしたものか。
普通こういうときって相手から接触してくるもんじゃないの?
そこからまた数ヶ月の月日が流れたが、全く進展はなかった。
自体は突然動き出す。
一体の自動人形が声を発しながら近づいてきた。
合成された音声と言うよりも通話してるような声だった。
確実に人間が生きている事に心底安心した。
「待ってください。こちらに戦闘の意志はありません。
魔法陣営の者とお見受けしますがお話をさせてください」
女性の声だった。
「こちらも戦闘の意志はないから安心してくれ」
伝えると少しのタイムラグの後
「では、こちらにお越しいただけますか?
行き先はこの自動人形で先導しますので」
そう言われて了承した。
そこからも大変だった。
行き先まで数日かかると言われて面倒になった俺は自動人形を抱えて空を飛び、タイムラグが有るためにもう少し右に向かってください。もっと右です。行き過ぎです。と面倒だった。
3時間程紆余曲折の末に地面に降り立つと地下への階段に続く扉が自動で開いていった。
それでも、魔力は全く感知できなかったので罠を警戒した。
地下に降りると電気がついていて、数百人規模の人が生きていた。
田畑が広がり、自動人形が世話をしていた。
「はじめまして。
私はマールといいます。
ここは、人類最後の砦、ハラスの街です」
「人類最後?」
「ええ、昔この世界は魔法を使える人が使えない人を奴隷のように扱い、魔法で世界を支配していました。
私達は地上で生きることを諦め、地下で科学によって人類存続と魔法陣営の排除を願い生きてきたのです。」
「隠れていれば魔法陣営に見つからないんだろう?
他にも生きている人がいるんじゃないのか?」
「いません。魔法陣営は機械を嫌い、脅威になる前にと人を殺し始めました。
私達は自動人形を作り、少ない生き残りを保護して魔法陣営を倒してきました。
貴方も、世界を回ってみてきたのではないですか?」
「そうだな。確かに」
「しかし、そうすると魔法陣営は徐々に数を減らしていき、今もどこかに潜伏しているのでしょうけど、私達はそれを見つけることは出来ませんでした。
それ以前に助けようとも思っていなかったし、水も食料も貴重な世界で余裕もありませんでした。」
地下で生きるために地下水を組み上げても限界はあるからな。
地上で川から引いてきても地上に出ない限り限界はあるだろう。
そう思って頷いた。
「川から水を引き込もうにも、地上へのトラウマのあるここの住民は地上に上がることを拒否、資源もない状況で自動人形も増やせない。
そんな中、自動人形が魔法陣営を見つけたと3体が向かい、貴方一人に壊されてしまいました。
最後まで通信を送ってきていた3体は破壊を繰り返す魔法陣営を倒す目的だったので武装しておりましたが、その後の2体は地上の生き残りを探す目的の自動人形でしたが、あっけなく貴方に壊されました。
自動人形がないとここでの生活ができなくなります。」
その後も話は続いた。マールの話を要約すると、魔法陣営を攻撃しないから見逃してほしいということだった。
逆に俺は魔法陣営の状況と召喚された経緯を話した。
「何を勝手なことを」
周りは怒りで騒ぎ出したが、マールが口を開く。
「つまりそれは、私達のやっていることが、かつての魔法陣営の横暴と同じだと?」
静かな怒りを感じる声に周囲は押し黙った。
俺は異世界の人間だから第三者としての意見を述べる。
どっちもどっちだと。
魔法陣営が先に手を出したのはそうなんだろう。
魔法が使えるという優位性に溺れた結果だろう。
それは科学陣営が先に自動人形を使って魔法陣営を従えていたらどうなるか考えろという内容を遠回しで話すと、今度はマールも黙った。
魔法が先で科学が後だった。
それだけの話だ。
「ところで、貴方は科学知識もそれなりに持っているようですが、なぜですか?」
俺は科学の発展した世界で産まれ、魔法のある異世界に召喚されたことを話していく。
「そんな事が」
邪神の話になると全員表情を曇らせた。
俺へのあたりの強さや怯えがなくなってきた頃に一人の中年が
魔法と科学の融合を証明して見せろ。
俺は妻も子も魔法陣営に殺された。
奴らを根絶やしにしようと今も思っている。
あいつらも人だというお前の言葉を証明しない限りお前は向こうのスパイだ。
そんな主張だった。
俺はマイスペースへの扉を魔法で作って、罠だと言い張る中年を面倒だったから無理やり押し込んだ。
俺も中に入ると後ろからマールが興味津々でついてきた。
「これが、魔法か」
中年はそう呟くと家を見て振り向いた。
「中に入ってみてください。俺の家です。」
中にはネット回線の工事で退避した時のみんなの荷物や、科学知識に基づいたものも多くおいてある。
「これは鉄か?こんなにあれば自動人形を後どれほど作れるだろう」
色々なものを触り、感心してから向き直った。
「もういい。ここは魔法で作れるのだろう?
科学もしっかり根付いている。奴らと仲良くできればこういう事も可能なんだな。
たしかに魅力的だが、俺はやっぱり奴らを許せない。」
「まぁ、そうですよね。
俺も邪神は許せないから、それを否定する権利は持ってませんよ。」
ところがマールは目を奪われていた。
生きることに必死で、娯楽を考えたことさえなかった20代に見える女性は誰が持ち込んだのかわからないぬいぐるみに焦点を当てて動かなかった。
「貴方はいつ元の世界に帰るの?」
口調まで変わってる気がした。
「いつでも帰れるし、今すぐ帰ることもできるけど?」
「そうですか。」
それだけ答えて黙り込んだ。
家を出て、マイスペースから出てもマールは黙ったままだった。
とりあえず、ここにずっといても不健康だから地上に住める場所を少しずつ進めていきましょう。
魔法陣営はこちらで説得しておきますので。
それだけ伝えて俺はその場から魔法陣営の元へ転移した。
「おお、戻られたか」
「自動人形はどうなった?」
と口々に質問されて、増長しないように自動人形がどの程度残っているかはわかりません。
何せ魔力も持たないし、こちらのサーチには反応しないので。
そこから科学陣営と接触したことと彼らの言い分を伝えた。
「因果応報というやつだったのか」
ショックを受けたように一人の老人が崩れた。
全員が魔法陣営がやったことと同じことをされてるだけだと認識したようだった。
そこからどうするかは自分たちで考えてください。
そう伝えるとまた転移で科学陣営に戻って報告をする。
ここでできることは住んだので挨拶をしてから自分の家に戻ろうとした時に腕を掴まれた。
マールだった。
え?と思ったが転移してしまった。
「思ったとおりでしたね。服や身につけているものが移動できるなら、あなたに触れておけば一緒に移動できると」
いたずらっ子のような目を向けてきた。
さっきの世界への転移は地球からでは不可能だ。
ユーライが言う所の魔法が妨害されるって状況だからな。
仕方がないと、重い腰を上げてマンションに向かうのだった。




