12話.ユーライの堕落
数日後、待望の蜂蜜が届いたので俺はマンションに向かった。
噂の英雄が来ましたよ~ってなもんだな。
マンションに入るとリビングのソファーでユーライがすでにくつろぎまくっていた。
「あっ、ハルト。ここいいわね。木の堅い椅子しかないあそことは大違いよ。
こんなのもう、貴族の生活じゃない!
貴族でもこんな生活できてるのかな?
ハルトは貧乏学生?とか言ってたけどこんな生活してて何で謙遜してたの?」
ユーライは日本の生活が合ったようで何よりだ。
こんな驚き方は結構新鮮だな。
「私は貴族ですけれど、こんな便利に生活してなかったわよ」
「え?貴族?」
アマンダさんは正真正銘の貴族で領主だったので貴族としてお屋敷に住んでいたけど、家具は普通だったな。そういえば。
調度品は高そうだったけど、芸術にそこまで興味のない俺には全くわからなかった。
「貴族といっても私の代で終わることが決まってましたから、貴族扱いしないでくださいね。」
しっかりと釘を差していた。
生まれも育ちも世界さえバラバラな共同生活で貴族だなんだと関係ないからな。
「お貴族様でも色々あるのですね。
そういえばハルトは貴族嫌いで、奴隷を買ってボロボロにいたぶる嗜虐趣味の貴族家を根絶やしにしてたこともあったわね。
私には考えられない行動で驚いたけど」
ムカつく貴族とそのバカ息子のために兵を挙げたクズ親共々滅ぼしたことがあるけど、決して今言うべきことではない。
「貴方、よく無事に生きているわね」
アマンダさんは呆れたようにそういった。
実際の所アマンダさんも似たようなことを平和的にやっていたわけだし、方法論の違いでしかない。
俺の場合は無駄な時間をかけてるほど暇ではなかっただけだ。
仲間の協力もなしに勝手に一人で乗り込んで潰して来ただけだからな。
「ハルトって優しいんだけど怒ると過激になって結構怖いんだよね。」
ユーライはアマンダさんにもなれた口調で話していた。
俺はダラけたユーライをアマンダさんに任せてヤルンさんの部屋を訪ねた。
ノックをするとヤルンさんとミャンが一緒に出てきたので蜂蜜の瓶を渡すと早速開けて味見をした後号泣しだした。
「美味しすぎます~」
「ちょっと頂戴」
ヤルンさんが感動で泣いて興味が湧いたミャンが少しねだるもヤルンさんはものすごく残念そうにしながら少しだけスプーンに乗せて差し出した。
どんだけ好きなんだよ。
まぁ、とりあえず喜んでもらえてよかったってことで。
少し舐めて満足したミャンを肩車しながら部屋を出た。
蜂蜜を大事そうに抱えたヤルンさんが見えたが気にしたら負けだ。
リビングに戻ると何故かユーライがアマンダさんに甘えて膝枕されていた。
ソファの横には羨ましそうに見るザガニとジト目のエリナがいた。
う~ん・・・なかなかハードな空間だ。
俺には敷居が高すぎる。
サクッと素通りして玄関に向かい、ハーレム展開もモテ期到来も無かったことに残念な気持ちで、靴に履き替えた。
しかも、エロハプニングも何もないんだぜ?
そんな事あるか?
ヤルンさんとは味の違う涙がこぼれた。
膝枕してもらっているユーライの太ももが眩しかったくらいで、スカートが捲れていたわけでも聖域が見えたわけでもない。
ガッカリしたね。
もっとセクシー力を磨いてくれよ。
と思った時に肩車したままのミャンを思い出して、そっと下ろすとまたねと玄関を出た。
戦闘経験も積めない上にエロハプニングも起きない人生なんて何が楽しいんだよ。
というか、あんなダラけたユーライを見たのはそういえば初めてだな。
邪神討伐の手伝いをするとか言ってたが、俺が異世界に召喚される時に一緒にいないと一緒に連れていけないわけで、さて、どうしようかと悩むのだった。
もしかして、変な機能とかないよな?
アルバーンがある所に転移できるとか。
考えすぎか。
家に戻ってラノベを読み漁った。
俺もこんな事してると堕落してしまいそうだ。
日本人は過酷な労働で寿命を縮めているかもしれないけど、すぐそこにある死と戦い続けてきた俺にとっては頭脳労働の疲労より肉体の疲労のキツさを嫌ほど知っている。
仕事で頭を使ってるわけでも学校で勉強してるわけでもない俺にとって、ここでの生活は自分の成長を実感できる機会がなさすぎる。
どこの世界でもいいからさっさと呼んでくれよ。
ラノベを読み、イメージを膨らませ、素振りをしてから寝る。
そんな生活が何日も続くのだった。