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11話.異世界には行ってないのに

頼んでいた調理道具が届いていたので俺はマンションを訪れた。

インターホンを押すとヤルンさんが出てきた。

家に上がって調理道具をザガニに渡してから早速調理を始めるザガニの嬉しそうな顔が印象的だった。

鼻歌まで歌ってるし、ご機嫌だな。


「出来ました!」


早速少し味見をするザガニ。


「やはり、あの味には及びませんか」


悔しそうにするザガニ。

どう見ても100面相だ。


「ところで」


そう言ってこちらを向く。


「何の御用でしょうか?」


ずっと黙ってみていた俺のこともしっかり認識はしていたらしい。


「いや~楽しそうな姿を見てると人って嬉しくなるよね。」


「悪趣味ですよ」


「そうかな?幸せな姿を見せておすそ分けする風習もこの世界にはあるんだけど」


「そうですか。変わってますね」


そう言って納得したのか、ザガニはモンブランを丁寧に器に乗せるとスプーンと一緒にお盆に乗せて嬉しそうにキッチンから出ていった。

絶対アマンダさんのところだな。

エリナには持っていかないのか?

ザガニはなぜかアマンダさんには忠誠心を持っていそうなのに、エリナは主人の娘って扱いでそこまで尽くしている感じがないのが不思議だった。

しかし、モンブランを作るところも含めて、気に入ったら浮気をせずとことん一点集中型なんだな。

それでも、アマンダさんが望めばモンブラン以外も喜んで作るんだろうけど。

エリナが頼んでもダメそうなのがすごいよな。


俺はキッチンでザガニに触発されて何か作ろうと思い、お好み焼きでも焼こうと思ったが材料がなかったのでパンケーキの材料があったからパンケーキを焼いてみた。

焼いてから気づいた。

バターがない。

蜂蜜があったので蜂蜜を垂らしているとミャンがやってきて背中に飛びついてきた。


「お兄ちゃん。何やってるの?料理?」


「そうだよ。」


背中で飛び跳ねるのは止めてもらえないかな?

変な所に圧力がかかって地味に痛い。


「食べていいの?」


「いいよ」


「やったー。じゃあ、リュードたちも呼んでくるね~」


背中から飛び降りると走って行ってしまった。

ミャンのはしゃいだ声で気になったのかヤルンさんがやってきて、パンケーキを見て絶望した表情で肩を落とした。


「どうしました?」


「ええ、いえ、私の蜂蜜が」


「すみません。パンケーキにバターがなかったので代用したんですけどまずかったですか?」


「蜂蜜は、蜂蜜は私のこちらに来てからの大好物なんです。」


「蜂蜜なら今度瓶で持ってきますよ。」


そう言うと後光が指したように晴れやかな表情で


「本当ですか? ぜひお願いします」


それはもうすごい勢いで手を握られた。


みんなが集まってきてパンケーキを分け合って食べた。

家に戻ってからネットで瓶詰めの蜂蜜を購入しておいた。

また届いたら持っていかないとな。


ところで、家の中なのに視線を感じるのはなぜだ?

どこだ?俺の感知を誤魔化せるって相当だと思うけど、殺気は感じない。

どういうことだろう。

そんなに広い部屋でもないのにどうやって隠れてるのかわからんな。


「誰だ?視線を向けてきてるのはわかるよ。出てきてくれないか?」


一人の空間で話しかけるなんて中二病も良いところだけど、視線を感じるのは間違いない。


「相変わらずね。安心したわ」


空間が歪んでユーライが現れた。


「ユーライ!?ボロボロじゃねーか。生きてたんだな」


彼女はユーライ。

邪神討伐の仲間で俺が復讐を誓った邪神との戦いの際に俺を送還した3人のうちの一人だ。

駄目だ、涙が止められない。


「ひぐっ、い、生きててよかった。みんな邪神に殺されたって、思って」


そこから嗚咽しか出てこなくなった。


「良かった。本当にハルトなんだね」


泣きじゃくる俺にユーライは頭を撫で続けた。

落ち着いてきたらようやくユーライは語り始めた。


「私はね。死んだら触媒を起点に復活するように自分に魔法をかけてたの。

触媒は貴方に渡したアルバーンよ」


青天の霹靂とはこの事だろう。

ユーライは語った。

アルバーンは特殊魔法を受け入れる触媒としての聖属性保持機能を有していたらしい。

炎との親和性が高く炎属性をエンチャントして使うことが多かったけど、聖属性を受け入れられないほど保持していたからだったのか。


「それでもね。私の魔法は発動しなかったの。

それはこの世界では魔法が妨害されてるみたいで、アルバーンの魔法発動を妨害されてしまったの。

私は中途半端な蘇生魔法で一旦魂だけでハルトを見ていたの。」


ふと感じることのあった視線はそういうことだったのかな?


「ゆっくりと、徐々に、魔法が発動していって、ハルトの魔力も吸わせてもらってやっと今蘇生できたってことみたい」


「それじゃあ、カールとケルビンは」


「残念だけど」


「そうか。絶対に敵は討ってやるから、待ってろよ」


「そうね。もちろん私も協力するからね」


あの冒険の日々を思い起こしてまた涙がこぼれた。

感傷に浸っている所にユーライは爆弾を落とした。


「私もね、邪神は許せないしカールとケルビンの敵も討ちたいんだけどさ。

それよりもショッキングなんだよね~。可愛い女の子たちの下着を収集してるの見ちゃったからさ」


「え?」


涙は一瞬で引っ込んだ。


「冒険の時にも時々お尻に視線を感じたことあったんだけどさ。

あれも、ハルトだったのね」


「いや、ちょっと何言ってるのかわからない」


俺の目は泳ぎまくった。

実はユーライはとんでもない美尻なんだ。

ローブ越しのお尻が歩く時に持ち上がるその美しい体のラインに何度か目を奪われあことがある。

ケルビンは魔法使いなのに筋肉質で、似たようなローブを着ていても全くの別物だったので目で追ってしまっても仕方がない。


「はぁ~。戦闘に入ると頼れる万能戦士なのに、頭の中は年相応に桃色なのね」


ため息をつくと、ボロボロのローブは再生されていった。

ようやく最後の記憶から蘇生魔法使用時の状況まで戻ったらしい。

蘇生魔法は実は状況再生魔法とも呼ばれる。

時間を遡り当時の状況まで戻していく魔法となる。

聖属性魔法で回復魔法と同様の動きも見せる魔力だけど俺にとっても全く理解が及ばない魔法だった。

蘇生魔法自体は使えるけどな。


「それで、ユーライはこれからどうするんだ?」


「どうするって言われてもね。私もハルトのハーレムに入れてもらうしかないのかな?」


「いや、男もいるんだけど?」


「この世界って魔法の妨害があるでしょ?私も魔法発動が難しいのでお世話になりますね。」


まぁ、そうなるよね。

マンションから戻ったばかりなのにまたユーライを連れてマンションに向かった。

仕方ないけどさ。明日でもいいじゃん。

しょうがないことに愚痴をこぼしながらマンションでインターホンを鳴らすとヤルンさんが応対したのにマリアが出てきた。

獣人だから自重してるんだな。

ユーライもいるし。

玄関から入るとマリアから


「またですか」


と言われたが、誤解だ。どこの世界も救ったわけではない。

自己紹介をしてもらってさっさと退散した。

マンションを背に歩きながら俺はこの後の展開をハッキリ想像できた。

今までの話をユーライがする。

感動に打ち震えてみんなが俺を尊敬の目で見てくる。

そして、みんなが助けられた話をするだろう。

しかも、それが3人の敵を討つためという事でユーライも感動に打ち震えることだろう。

これで、真に俺は尊敬を集めてベッドに潜り込まれたりするだろう。

いいな。それマジでいいぞ。

これで数日後に届く瓶詰めの蜂蜜を持っていったりしたら好感度爆発だろう。


家に帰ると楽しみな想像を膨らませながら錘付きの器具をこれでもかとつけて素振りをするのだった。


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