10話.襲撃者!?
あれから俺は一人で真剣に新技開発に勤しんでいた。
ほうほう、領主になれば使える魔法だと!?
ふむふむ、風のバリアか、質量的に問題ないのか?
等々、なかなか発想を形にできるイメージは湧かないが発射した矢を分裂させる魔力消費の大きい魔法というのはかっこよさそうでなかなかソソられた。
深淵を覗くとき、深淵もまた、こちらを覗いている。
両親が仕事に出ているこんな時間にインターホンが鳴った。
たまに仕事に行く時間に配達を頼むことがあるので親がなにか頼んだんだろう。
そう思い外に出て深淵とエンカウントした。
マリアとエリナのコンビが鬼の形相でこちらを睨んでいた。
俺はどうしていいかわからなくなって騒がれても面倒なので仕方なく家に上げた。
「どういうこと?」
マリアが口を開いた。
「何の話でしょうか?」
「口調がやましいことしましたって感じね」
「俺が助け出した事に何か不満でも?」
「何を助け出したのかを聞いてますっ」
今度はエリナが口を開く。
「みんなを助けてきたけど?」
「みんなの中に下着も混ざってるわね?」
「あ~助けたな。確かに。忘れてた」
「私達の下着が1枚ずつなくなってるけど知ってるわね?」
マリアの攻撃に白状するしかなくなった。
「すまん、俺の心の平静を保つためにもらいたい。何なら買ってもいいぞ」
「開き直ってんじゃないわよ」
スパコーンと頭をぶたれた。
何でこいつの攻撃が俺に通るんだ?
わからんが、ステータス的に効くはずないのにとんでもなく痛い。
「ハルトさんのやったことはハルトさんの敵とおなじ事です。」
うっ・・・これはダメージがでかい。
「すみませんでした~」
土下座を敢行し、恭しくジッ◯ロックに入れたアーティファクトを取り出した。
頭上に掲げて二人に差し出し許しを請うた。
死にそうな状況での邪神戦でさえしなかった事だ。
ただ、今回は俺が悪い。
こういうことは、事前に了解をもらうべきことだ。
精神的にヤバい状況になったら、その都度二人に頼むことにしようと心に刻んだ。
「おばあちゃんとザガニさんも許してあげなさいって言うけど、恥ずかしいんですっ」
「丁寧に袋に入れてるってどんだけ大事にしてんのよ」
二人はアーティファクトを奪い取るとそれぞれ言いたいことを言ってからマンションに戻っていった。
性犯罪的な内容って本当にやった方も恥ずかしくて外歩けなくなりそうだな。
俺は二度とやらないし、どうしてもの時は必ず事前に頼み込むから、今回だけ許してくれた二人に感謝するのだった。
俺は珍しくご機嫌取りに伺おうとお土産を持ってマンションを訪れた。
土産は地元の有名店のスイーツだ。
男がこれを買うのはなかなか恥ずかしいものがあるけど、今回はもっと恥ずかしい思いをさせたかもしれない彼女たちへのせめてもの罪滅ぼしだ。
彼女さんへのプレゼントですか?と興味有りげな目で若い女性の店員さんに包装しましょうかと尋ねられた時は流石に堪えられなくて断った。
マンションを訪ねた俺は珍しく起きて走り回ってるリュードとシャーライにみんなを呼んでもらうように頼んだ。
「た・たまたま良いものを手に入れることができたからおすそ分けに来ました。」
どもったけど一息で全員に言いきった。
どこか微笑ましそうに見るアマンダさんとヤルンさんに軽く軽蔑してそうなザガニ。
ミャンとリュードは目を輝かせている。
甘い香りが漂ってるからね。
シャーライは食べても良いのか?と思ったけど、モンスターだし問題ないだろう。
今回の当事者の二人は恥ずかしそうにしながらも視線はお土産をロックオンしていた。
俺は箱を開けて色とりどりのケーキをみんなに分けていった。
今日の俺は給仕がメインで一緒に食べるつもりはないので俺の分は買っていない。
ザガニはアマンダさんの給仕をする俺を少し睨んだが、結局何も言わなかった。
全員それぞれが好みそうなものを選んでいる。
アマンダさんには抹茶、ザガニにはモンブラン、リュードにはチョコといった具合だ。
と、思っていたのに、エリナがアマンダやマリアとシェアし始めたのを皮切りにみんなそれぞれ全員と味見をしあっていた。
俺の選定眼は不発に終わった。
皆に選り分けたもの以外のほうが気に入っていた様子だった。
まぁ、ご機嫌は治っていそうだったので良しとしよう。
意外なのはザガニがモンブランをいたく気に入った様子だった事だ。
「これは何という食べ物ですか?」
と真剣な様子で尋ねられたのでモンブランと答えると、早速テレビでネット動画を検索していた。
モンブラン 作り方
既に使いこなしてやがる。
「あっ、なるほど。こうやって見て作り方を覚えたら私達も作れるんだ」
「これは便利だね~」
ザガニ以外にその発想はなかったようでアマンダさんが感心していた事に気づいて
「恐縮です」
と主人に褒められた彼の機嫌もついでに治っていた。
検索結果の表示はうちの回線より明らかに早く、どんな高価な回線を引いたのかと驚いた。
この人達が動画投稿者や配信者になったらバズりそうだ。
リュードとシャーライはおかわりがないことにがっかりしたあと、ミャンを誘って3人で遊び始めた。
みんなそれぞれ仲良くなっていて善き哉善き哉。
そんな仲良しの輪に俺が入っていないことはおもいっきり不満だが、いずれ俺の魅力に気づいて可愛い子たちがいいよって来るのは確実だろうし、今は良しとしよう。
すでにミャンからは会うたびに抱きつかれるレベルだしな。
家に帰るとやはり回線はマンションの方が上等だと再認識していた。
襲撃からの流れで俺は忘れていたことがあった。
俺は今高校4年生。つまり学生だ。
学生には何がある?
テストだ。
担任だという先生が夜に訪問してきた。
最低限テストは受けてもらわないと出席日数も考えないといけませんしと母さんと話をしていた。
母さんは、別にいいわよ。あの子が決めることですから。
それにあの子が神隠しにあった事や、記憶をなくしていることを考えたら、とても知らない人ばかりの学校に行きなさいとは言えないでしょ?
等と担任を説得していた。
飲み物を取りに行こうと思って話し声で来客を察した俺は聞き耳を立てていたからその言葉が嬉しかった。
先生も校長とかから色々言われてるんだろうから大変なんだろうけど、がっこう言ってる暇なんて正直ないんだよな。
しかも、いつどこに呼ばれるかわからないわけだし。
テストを受けるくらい別にいいんだけど、その最中に神隠し(異世界からの召喚)が起きれば言い訳できない。
母さんが妥協案を提案した。
テストを持ってきなさい。先生が時間を測って不正がないように私が監視します。
それで納得してください。
話が平行線だったせいか、母さんが少しキレ気味だったので俺は母さんの前で神隠しにあったとしたら全てを話そうと決断した。
わかりましたと帰った担任の先生に心のなかで謝りながら退学になってもいいし、
万が一の場合は母さんにすべてを話し、資産が600億を越えてることも打ち明けようと思う。
流石に先生の目の前で神隠しにアウト一発アウトだから引きこもりである状態を維持するために俺は母さんにテストの話をされた際に
何が起きても驚かないでと先にそれだけ伝えておいた。
定期考査の時期に先生が家に来てテストを受ける日々が始まった。
しかし、勉強が高校1年から全くしてない俺には全くわからない。
感じと英単語以外は公式すらわからん数学はお手上げだし、高校までの知識で何とか覚えていた歴史等わかるところだけ書いて母さんから先生に提出してもらった。
結局テスト期間で異世界召喚は起きなかった。
テスト期間が終わり、俺は晴れて自由の身になったのでマンションを訪れた。
「またどこかの世界を助けてきたの?」
マリアに聞かれたが、俺はどこにも行けなかったことを話した。
「また誰か拾ってきたんじゃなければいいわ」
人さらいみたいに言うなよ。
「好きで拾ってるわけじゃねーよ」
「知ってるわ。でもね、一番最初は自分自身を救わないといけないのよ」
ちょっと言ってる意味がわからない。
「貴方は自分で思ってるほど強くないわ。
だから、本当に恥ずかしいけど、これを持ってなさい」
それは俺のアーティファクト【楽園の花】だった。
残念ながら花束ではなくなったが鎮静効果はあるだろう。
「え?いいの?」
「いいからさっさと隠しなさいよ。それで、辛くなったら誰にも見られないように見るとかして立ち直ってよ。いいわね」
閉め方が分からなかったのか少しだけ口が開いていたところから柔軟剤の落ち着くいい香りがした。
「わかった」
俺はそう答えて空間収納にしまった。
テンションが上った俺は抱きつかれたままミャンを抱き上げてリュードとシャーライと追いかけっ子をしてから必要なものがないか聞いて回るとザガニからケーキの調理に使う調理器具を頼まれた。
食材は純粋な人であるマリア達に頼めば買ってきてくれるが調理器具がどこで買えるのか分からなかったらしい。
スマホのメモ帳に買い物と入れるとマンションを後にする。
外に出てすぐに妙な視線を感じた。
気配が舞っていて上手くつかめない。
気にはなるが、何か用事があるなら向こうから接触してくるだろう。
早々に考えを放棄して俺は家路についた。
帰り道でも家でも接触はなく、視線はいつの間にか消えていた。
帰ってすぐにネット通販で置き配設定をして調理器具を必要分全て購入しておいた。
あの視線は何だったのか。
少し気持ち悪い感覚のままベッドに潜り込んだ。