表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

1話.プロローグ

「カール!ケルビン!ユーライ!」

最後の一瞬とき俺は確かに彼らを呼んだ。

だけどその声が届いたかわからない。

絶望の色が世界に満ちていく光景を背景に彼らは笑った。

邪神、お前だけは絶対に許さない。

必ずお前に滅びを与えてやるから待ってろ。


今日から俺は高校4年生だ。

2,3年生を神隠しにあっていた俺は異世界に召喚されて戦いに明け暮れた。

来る日も来る日も邪神軍の猛攻に切り込み剣で切り、魔法で燃やした。

だから俺に友人は居ない。

みんな卒業して知らない人ばかりの中で高校生を再開することになった。

この世界に戻った時に親は泣いて喜んでくれたけど、病院に連れて行かれて、警察に説明させられてと大変だった。

この2年間のことを覚えていないで押し通した。

警察は訝しんでいた。

昔、と言っても2年以上前の事だが、プロファイリングという言葉が出回っていて、その時興味本位で読んだ本に利き手側に視線がそれたら記憶、逆なら作り話を考えているとかそういうもの。

それを思い出しながらこの二年間で培った不屈の精神で意識的に相手を見て覚えていないと言い切った。


無詠唱魔法まで習得していた俺はこちらで魔法は発動しなかった。

身体能力はこちらの世界最強を瞬殺できると思う。

だが、こんな世界で遊んでいたら、俺は一生かかってもあの邪神を滅ぼすことは出来ないことだけは確かだ。

ここで遊んで暮らすような愚かな選択はできない。

俺は修行を開始した。


俺のユニークスキルは成長促進<超>

お母さんからビンのフタが開かないと言われて回したらねじ切れた。

それだけで手首の回す速度や力が上がった。

だが、足りない。

こんなものでは全然足りない。

だから仕方がない、

両親を泣かせるかもしれないけど、救いを求める世界に向けて魔法発動の要領でパイオニア計画のように俺を召喚すれば助けてやるぞと思念を飛ばした。


それから数秒後

自室の床に魔法陣が現れた。


「おお、神よ、我らに勇者を遣わしてくださったこと、心より感謝いたしますぞ」


神父様のコスプレ爺さん、いや、本物か?

が恭しく頭を垂れていた。

俺にではなく神像に


「さて、勇者よ。そなたには神聖魔法の使い手として悪魔とゴーストを成仏させる任務を与えるのでサクッとこの世界を救ってくだされ」


展開が早すぎなんですが?


「この世界はあと数日で悪魔による魔法が完成してしまいます。

それが成れば悪霊が蔓延りこの世は死者の楽園になってしまうので頼みましたぞ」


そこまで捲し立てられてようやく制限時間ありの難解ミッションが開始されたことを悟った。

またあの時のような友人を見殺しにしながら笑顔で生き長らえさせるなんて思いはしたくない。

のだが、この世界で3日内に救いたいほど親しい人も居ないのになんて言い草だよ。


「魔法の発動はどこで?あと俺は神聖魔法なんて知らないんだけど?」


「なんと! 神聖魔法が使えない勇者じゃと。

召喚失敗か。この世界終わっちゃった」


あからさまに虚空を見ながらため息を付き絶望を口にした。

ここは勝手に出て行って誰かに詳しく話を聞くとしよう。


「勇者様だ~。召喚に成功したようだぞ~」


扉を出ると大勢に囲まれた。

かなりウザかった。

だが、ステンドグラスから光が差し込む幻想的な教会風の建物にいることを認識したら、ここに神聖魔法を教えてくれる人もいるんじゃないかと思い至った。

せっかくだから同年代っぽい女の子に狙いを定めた。

ワンピースというより白ローブに身を包み、黒髪ロングのどストライクだったので教えてもらうなら彼女しか居ない。

今決めた。

彼女を補足してから教会の屋根に転移するとトラクター魔法で彼女をこちらに転移させた。


「え?きゃーーー」


外はまぁまぁの風が吹いていて彼女はローブの裾を押さえていた。

これはこれで萌えるな。

仕方ないので彼女が落ち着けそうな場所に移動するか。

飛行魔法を発動したが恥ずかしそうにしている彼女に何を言っても埒が明かない気がしたのでお姫様抱っこで抱えると空を飛んで街から飛び出した。


街からだいぶ離れてから空間収納からどこでも家セットを取り出すと地面に設置して家に入った。

元の世界で高校4年生を一日も経験せず神隠しに合うように行動しただけなので懐かしさを感じるはずはないのに、仲間たちの思い出がフラッシュバックした。


俺のどストライク美少女が目を覚ましたので神聖魔法を教えてもらえるように話をしようと近づくと1歩進むと5歩離れられた。

いや、何もしないから。どストライクだけど。


「もう近づかないからそこで聞いて。

俺はハルト・カケイだ。」


「・・・・・」


「勇者として召喚されたけど俺は神聖魔法なんて知らないから教えてくれないか?」


「勇者様なのに神聖魔法も使えないし私を攫っておいて教えてほしいって何なのそれ」


ボソッと呟いた。

これは確実に嘘だと思われてるな。


「証拠を見せるから外に出てくれる?」


庭に出てから空間収納からいつもお馴染みの魔法訓練用の的を出して火炎魔法ヴォルケーノを放った。


「これが勇者の力だと思うんだけど間違ってる?」


「こんな恐ろしい魔法見たことありません!」


「恐ろしいって言うけどこれで別の世界を救おうとしてたんだよ。

だから、この世界を救うために神聖魔法を使わないといけないなら教えてくれ」


「ええと、まぁわかりました。」


そして超絶美少女による神聖魔法講座が開幕した。

見本として神聖魔法発動の時に風が渦巻いてスカートがはためくところを、その神々しい姿を目に焼き付けつつ、幼子のような可愛い声で説明してくれる内容を記憶していく。


「神聖魔法は死者を慈しみ、次の生命への新たな旅立ちを応援する魔法です。」


宗教かな?


「まずは初級のヒールから行きましょう」


ヒールは傷ついた体の治す初級魔法。


「あなたの傷を癒やす力を私の愛からおすそ分け

 ヒール」


え?今の詠唱するの?俺が?


「こんな感じです。」


じゃあ試してみるか。絶対詠唱したくないけど魔力の動きは細かく確認したので大丈夫だろう。」

どこまで効果があるのかわからないので空間収納からナイフを取り出すとピッと指に傷をつけて血が出たことを確認すると超回復で回復するより先に


「ヒール」


そこだけ口に出すと一瞬で傷が回復した。

しかも、その一瞬の動きを確認していると、血が固まって、瘡蓋ができてそれが落ちるところまでがまさに一瞬のうちに起きていた。

魔力で何とかすると言うよりも魔法で超回復させる感じだろう。

そうなると骨折などには効かないな。

検証をしながら教えてくれる絶対に彼氏持ちだろう超絶美少女を振り返ると絶句していた。


「どうして?詠唱もしてないのにヒールが発動してる」


ヒール習得は2分で無詠唱まで習得した。


「魔法ってものはさ、魔力の動きとイメージで発動できるもんだよ。

詠唱はには3ステップあって、詠唱、詠唱短縮、無詠唱ってね。

詠唱で習得しても使い込んで魔力の動きを把握すれば詠唱破棄できるから。」


詠唱短縮についてはやったことないからわからん。


「信じられない。詠唱は神様への祈りの力がこもってるって言われてるのに」


それは宗教としての体裁を守るためだろ。

この美少女は上手いこと操られて、利用されてるってわけか。


「リフレッシュ」


俺は彼女の混乱を抑える魔法を使ってから


「あんた、名前は?」


まずは名前だろう。流石に本人に超絶美少女なんて呼べない。

勇気ステータスが高くても何でも口にして良いわけではないからな。


「私はマリア、聖女と呼ばれているわ」


聖女様だった。

物語にありがちの美少女が高位の地位につくパターンだな。

まぁ、お飾りだろうけど。


「で、マリア、ヒール以外も教えてくれ」


「貴方って遠慮がないのね。まぁ、いいわ」


そこから3時間かけてリザレクションまで習得した。

神聖魔法は浄化、成仏の魔法。

そのはずなのに、命を冒涜する蘇生魔法まで神聖魔法にラインナップされている。

命を生かすも殺すも全て教会のお気持ち次第か。

だから蘇生や回復してくれなかった教会への怨念が渦巻いていて、生まれたゴーストを世界を手にしたい悪魔が利用しているってところなんだろうな。


「信じられない。リザレクションまで使えるようになるなんて。

教会でも私を含めて3人しか使えないのよ?」


「マリアは使える。俺も使える。使えないやつは魔力操作が苦手なんだろうさ。

それを信心にからめて利用する教会はさぞ死者から恨まれていることだろうな。

その怨念を悪魔に利用されてるからこの世界は危機に瀕しているってとこだと俺は思うぞ。」


「なんて事言うの!教会は神様の願いを民に届ける場所なのよ?」


「なら、教会のトップへの蘇生は認められてるんだろうな?」


「それは・・・どうしてだかわからないけど認められていないわ」


「つまり、どれほどの信心を持っている経験な信者であってもトップを蘇生させないって事だな。何故か分かるか?トップに立てる機会を減らせば下が詰まって次のトップが地位欲で暴走するからだ。」


「そんなことあるわけないじゃない。

私だって小さい頃からみんな優しくしてもらったのに」


「飾りの聖女としてな。

見目麗しく身寄りのない女の子を集めて神聖魔法を覚えさせ、より難度の高い魔法を使えるようになった子を聖女として教会の広告塔にするためだろう。

聖女人気で教会にヘイトは向かない。

生かすも殺すもお布施や教会都合で決められる。

マリアも利用されてるんだろう。

どうせ、大事なところ以外では籠の鳥なんだろ?」


「・・・・・」


反論も出来ないらしくうつむいて方が震えている。

泣いているのだろうが、実際に直面しないと気づけないこともあるな。


「マリア、泣いてるだけで世界を救えるのか?」


「ひっく、すく、救えない」


「なら残り2日で魔法の根源を絶ち、悪魔を滅してゴーストを浄化するから方角を教えてくれ。」


「街の西、今どこかわからないから方角もわからないけど」


「なら、ちょうどいいなここは街から西だ、つまり街を背に飛べばいいってことだな」


「そう、なら私は教会に帰してくれるの?」


「マリアはこのまま連れて行く。心配するな絶対に守ってやる。

それよりも、何が原因でどうなっているのか自分の目で確かめろ。」


「わかったわ。教会がそんなところではないと確認できるならついていきます。」


信じたい気持ちと反論できなかったことで生まれた不信感に揺れてるってとこか。


問答無用で俺はマリアをお姫様抱っこで抱えると西に飛んだ。

考えておけばよかった。

長い黒髪が風に煽られてパサパサ叩いてくる。

空を飛ぶのが怖いのか首に腕を回してしがみついてきた。

今度は耳を髪が叩く。

正直言って邪魔だが、当たってくる胸の感触は・・・悪くない。


瘴気が溜まっている場所が黒く濁って見えてきた。

こういう時ってだいたい森の中だろ?

見渡す限りの草原で瘴気が立ち上っている。

サングラスを通して見たような色が不気味に揺らめいていた。

怨念。

呪詛の類だろうか。

ま、関係ないな。

俺は広範囲に神聖魔法ホーリーを放つと光の奔流が広がっていく。

ゴーストを浄化させながら光の奔流は光る壁のように巨大になっていき、空も陸もまとめて浄化していった。


「うそ、何これ。こんな大きさのホーリーなんて」


邪悪な魔素にしか影響しないと言われているホーリーが体を通り抜けても俺達には影響がなかった。

残っていたのは悪魔が8体と大ダメージを受けても生き残ったひときわ強力なゴーストだけだった。


悪魔はそれぞれ猛々に猛り狂い口角を上げた。


「神聖魔法の使い手が悪魔に通用すると思っているとはめでたいことだな」

「力も我らに及ばない人族風情がよく頑張ったな。」

「うむ。だが、ゴーストも狩りきれてないとはお粗末だ」


等と次々と笑い出した。

そこにゴーストまで声を上げた。


「わしに神聖魔法が効くとは思わんかったが、許さんぞ。

教会のために尽くして教皇にまでなった者を害することなど神に対する不敬である。

わしを見殺しにした教会も、回復や蘇生を求めて利用する民衆も神の御心を無碍にしおって」


怨念は憎悪を滾らせて指をこちらに向けると炎魔法を放った。


「面白い前哨戦になりそうだな」

「どちらが勝つのだろうか」


高みの見物に洒落込む悪魔共が笑い始めた。

不愉快だ。


ゴーストの炎魔法は指先からレーザーのように放たれた。

邪神の使った魔法とは比べ物にならないほど弱いそれを俺は軽く叩いた。

神聖属性も混じっていたのか全く痛みも感じない。

あいつ何がしたいんだ?

よくわからんが俺は指先ではなく手の平からゴーストの炎魔法を軽く数十倍の魔力を込めて放つと魔力障壁も張らず簡単に消滅した。


え?マジで消滅したんだけど?

教皇とかあんま関係ないみたいだな。

なら、と魔族8体に目を向ける。

ビクッとしたように見えた。


「す、少しはできるようじゃないか。面白いな」

「そそそうだな。まぁよく頑張ったと言ったところか」


そんな声の後、結界が展開された。

お粗末としか言いようがない魔封結界だった。

ゴーレムの1文字消すだけで無力化みたいに魔力が荒すぎて簡単に壊せるような結界だ。


「魔法の実力には驚いたが、魔法を封じられたらどうかな?」

「まずは格闘戦で小手調べと以降じゃないか」


さっきと違って殺気が立ち上った。

こんな結界で威勢を取り戻すとかアホなのか?

何事もなかったように空間収納から2年愛用の聖剣アルバーンを取り出した。


「い・今どこから?」


悪魔はちょっと腰が引けた。


「こんなだだっ広い場所だからな。マリアに向けなければ問題ないだろう」


そういうと人差し指をちょいちょいとやって挑発すると8本腕の悪魔と3階建ての家ほどある悪魔が襲いかかってきた。

だから俺は攻撃を剣で受けると巨人の剣が何の抵抗もなくあっさり切れて、勢い余った巨人は頭から剣に突っ込んできてスパッと頭部が半分になり事切れた。

ナンジャコレ。

スプラッタな状況に返り血が酷く生臭い匂いと鉄の匂いに気持ち悪くなって結界の中だと忘れてウォッシャーを発動した。

一瞬で血溜まりも返り血も消え去った。

少し魔力消費は多かったけどこの程度なら誤差だな。

8本腕は固まっていたがハッとして怒涛の連撃(笑)を繰り出してきた、

片手で相手ができる程度だったけど、スプラッタを受けるのは嫌なので大事な剣は空間収納に収めてバリアを張った両手で相手をしていたのだが、いつまでもしつこいので一発腹を殴ったら腹に大穴が空いてそこから消滅した。

傷口から神聖魔法が体内に入ったのか、意味は分からないが穴は広がって消滅した。

まぁ、どうせ悪魔だからいいだろ。


残り6体の悪魔を見た。

どうせ似たりよったりだろうからこれが繰り返されるなら面倒だ。

邪魔くさい結界に魔力を流して消滅させると広範囲殲滅級炎魔法インフェルノを使うと一瞬で周囲が燃え上がり悪魔は全て灰になった。

あっけなかったな。

あのレベルなら邪神軍の最下級にも及ばないだろう。

自分のレベルアップが出来ない事にがっかりした。


「さ、お送りしますよ、聖女様。」


きちんと守りきったのに、へたり込んで震えていた。

悪魔が怖かったのか?あの程度の悪魔が。


「マリア? マリア!」


とっとと意識を引き戻す。


「教会がそんなところだったなんて」


人を救済している高尚な組織とでも思っていたか。

人の欲望は果てしない。善意の回復や蘇生なんて続かない。

組織は善意だけでは維持できない。

金をお布施として受け取り、回復の優先順位を決めて見捨てたものも多いだろう。

お布施とはすなわち生命保険という認識だからな。

地位と名誉を求めて教皇を目指すものも多いだろう。

教会はそんな歪な組織だ。

どこの世界でもな。


お姫様抱っこで空を飛びながら現実的な話をした。

似たような世界を救おうとして教会に邪魔されたことまで話した。

マリアは留められずに涙をこぼし続けた。

肩口から濡れていき空を飛ぶのが寒かったので休憩したくなり家を出すと泣きつかれたマリアをベッドに寝かせて俺は風呂に入った。


こんなしょうもない世界でも人の救済を本気で願って生きている少女には辛い現実だろうな。

ぼんやりと考えながら頭も体も洗わず延々浸かってのぼせかけて急いで頭も体も洗うと風呂を出た。

世界を救う時間制限より早めに終わってしまったな。

まぁ、神聖魔法を覚えられたので良しとするか。


「聖女をさたった偽物勇者だ!」


街に入ると大歓声で迎えられた。


「偽物勇者を殺せ!」


そんな声にかき消されて聖女の声は民衆に押しつぶされた。

武装した聖騎士が俺を囲む。

いい度胸だな。

ちょっとムカついた俺は木刀を取り出した。

群衆は俺を笑う。

偽物勇者にお似合いの聖剣だと。


囲んできた聖騎士が振りかぶり一斉に襲ってきたので全員の手首を木刀で折っていった。

静寂と悲鳴、うずくまる聖騎士達。

俺は幸いとばかりに魔法で音を増幅して話し始めた。


「召喚されて何も伝えず神聖魔法を教える気もなかった教会に世界を救ってきたら偽物勇者と石を投げる愚民ども。

これがこの世界の常識か?

恩を仇で返し、神を語ってお布施を受けて命の価値を金の価値に置き換えた結果、生まれたのがいつの教皇か知らないが成仏できずに恨みをつのらせたゴーストが居たな。

納得したわ!」


叫んでやった。


「ちなみに悪魔はもちろん神聖魔法属性を持ってたゴーストはホーリーにも耐えていたぞ。

教会はあんなゴーストを生み出して怪我を治しては金を集めてるのかね~

立派で高尚な組織だわ~」


「嘘ばっかついてんじゃね~」


耐えかねたのか民衆が口々にそう言ってきた。


「じゃあ、何か? お布施をしても額が少ないから多い人から優先しないとでも思ってるのか?

大量の金貨を積む人が瀕死なのに、死にかけのあんたらが優先されるとでも?

そういうので恨みを募らせてゴーストがはびこるんだろうが!

少しは考えて話せよバカどもが。」


そういうと文句を言っていた民衆は口を閉じた。


「それ以上教会を侮辱するな」


そう言うと震えながら若い聖騎士が剣を振りかぶって襲いかかってくるが難なくかわすと


「かかってくるなら治してやるから全員で来いよ。

エリアハイヒール」


手首を掴んで地に伏していた聖騎士たちは立ち上がっても襲いかかっては来なかった。

静寂に包まれる。


「私は! 私は聖女と呼ばれています。

その私が証言いたします。

彼の言葉は本当です。

私を守りながらゴーストも悪魔も一層してしまいました。

以前の教皇様のお言葉もはっきり耳にしています。

それどころか、彼は広大な範囲に及ぶホーリーの後、何かすごい魔法で7体の悪魔幹部と魔王を一瞬で灰にしてしまいました。

そんな彼を罵るならあなた方が御自身で魔王と悪魔幹部に挑めばよかったのです。

神聖魔法の耐性が高い元教皇のゴーストに神聖魔法で挑めばよかったのです。」


声を上げた聖女マリアに唖然としていた。


「いや、それはそうだけど、あのな、こいつらはお前を心配してたのにそんなこと言って良いのかよ。俺はどうせあと一日で消えるからどれだけ嫌われてもいいけど、お前は違うだろ?」


小声でマリアに囁いたのに民衆はハッとした顔をしたことで声の増幅を忘れていたため魔力を霧散させた。


「良いのですよ。こんな恥知らずで恩知らずな事を平然と言われて黙っていられませんでしたから」


これから大変だと思うぞ。教会の信用が地に落ちれば人間同士の戦争が起こる。

聖女が一転正敵ととされる可能性すらある。


「それに私は、もしできるのなら貴方についていきたいとも思っていますよ。

信じていた教会がそんなところだったなんて信じたくない気持ちもあるけど、もっと色々知らないといけないなって思うの。

だから、帰る時に、余裕があったら

私も連れて行ってください!」


翌日。

結局送還は失敗した。

だが、俺はこんな世界でくすぶってる場合ではない。

だから、落ち込んだマリアに告げた。


「送還できなくても別にいいよ。

自前で帰れるし。」


「え?どうやって」


「いや、俺転移魔法使えるし」


「それならどうして空を飛んで戻ったの?」


お姫様抱っこしたかったからだけど?

なんて言えない。

たおやかですべすべの肌に抱き心地の良い体。

抱きつく時に首に腕を回して甘い香りが包む感じ。

男ならってやつだな。


「沈黙は口より多くを語りますね。どうしてそんなにニヤけてるのかしら」


慌てて顔を引き締めた。


「もう遅すぎるわね」


「そういうわけだから、俺は帰るな?

これから頑張れよ。」


そういうとマリアは俺に抱きついてきた。


「こうすれば帰れませんよね?」


「いや、帰れるけど?」


「私はどうなるのです?」


「転移に巻き込まれて俺の世界についてくることになるな」


「ならそれでお願いします。」


「いいんだな?これからこの世界は教会への不信感と人間同士の争いが起きると思うけど、それでもいいんだな?」


「この世界を救ってくれた方に石を投げてる人がいる。でもこの世界の人間として救ってくれた恩を倍にして返さないと気がすまないわ」


そういって笑ったような気がした。

マリアの顔は俺の背中側だ。

ふいにキュッと首に回した腕に力がこもった。


じゃ、短い時間だったけど神聖魔法と聖女様はもらっていくな。

心のなかでつぶやくと転移した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ