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「Hello?」
数回のコール音の後、男の声が返ってきた。この声はニックの隣にいた黒スーツの男の声だ。
「もしもしぃ、ニック君いますかぁ? 一緒に野球やる約束してたんですけどぉ」
コウはあえて日本語でそう言った。背後からレイの呆れたようなため息が聞こえる。
「wha,…Say what?」
電話の相手は明らかに戸惑った様子だった。コウは吹き出しそうになるのを堪えながら、言葉を英語に切り替える。
「おお、すみません。私は先程のハンターです。目標の居場所が判明しましたので、私はこちらに電話しました」
「ああ、ハンターか。了解した。ボスと変わろう」
男は淡々とした様子でそう答えた。リアクションの薄さにやや不満を覚えつつも、コウはニックが電話に出るのを待った。
「ニックだ」
しばらくして、ニックが応答した。
「ハロー、ニック。対象の居場所が分かりました」
コウはジャックの潜伏先が廃学校であることを告げた。コウの言葉を受け、ニックは唸るようにして言った。
「……分かった。成功報酬は振込でいいか?」
「いえ、出来れば現金手渡しでお願いします。私達も廃学校に向かいますので、あなたの刺客に五十万円を持たせてください」
ニックが沈黙する。コウは構わず、言葉を続ける。
「ついでに保険ですが、あなたの刺客が全滅しましたら、私達はその場ですぐに生け捕りの仕事を開始します。その為、そちらの報酬の九百万円も用意しておいてくださいね」
無言の電話からニックの怒気がひしひしと伝わってくる。コウはさらに喋り続ける。
「こちらも勿論現金で。対象をそちらにお連れしますので、その際に支払いをお願いします。それでは、また」
コウはそれだけ言うと、相手の返事も待たずに電話を切った。
「やりすぎたかな?」
コウは振り返り、レイに尋ねた。レイは中央脇右手にある、地下室の階段から上がってきているところだった。その右手にはライフル型の麻酔銃が握られている。
「上出来だ。ヤクザ者に主導権を握らせる必要はない。さぁ、仕事の仕上げだ」
レイはそう言って、事務所の扉を開いた。コウもその後に続く。
「今日も日付が変わるまで残業楽しいな~」
コウは自虐的な言葉を、レイの背中に投げつける。
「またその話か? そんなに楽しいならもっと増やしてやろうか?」
「厚労省にブラック野郎として首に賞金かけられればいいのに」
「スポンサーになってくれる企業がいればいいな」
そんな事を話しつつ、二人は車に乗り込み、発進させた。時計が十一時過ぎを示しているのを見て、コウは大きなため息を吐いた。