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「とりあえずジャックが映りこんでいないか、過去一週間全部洗うか」
レイはそう言って、エンターキーを叩いた。黒い画面のウインドウが開き、文字の羅列が流れていく。レイが言うには、先程取り込んだジャックの画像を元に、映像に同様の人物が映っていないかの照合を行っているとのことだ。
「どれくらいかかりそう?」
「さあな。少なくとも二時間以内には見つかるとは思うが」
「あんな大見得を切っといて時間切れとかダサいオチやめてくれよ?」
「そうならないことを願おう。全く、全人類にチップでも埋め込んで管理してくれれば楽なのだが」
「さらっと恐ろしいこと言うなよ、おっさん」
「お、いたぞ」
レイがモニターを指差す。コウがそちらに目を向けると、モニターに表示されている監視カメラの映像に、目的の人物が映りこんでいた。場所は商店街だろうか。人で溢れた通りの中にジャックの姿があった。映像の撮影日付は三日前だった。
「この場所を中心に洗い出すか」
レイは照合作業をジャックの映っていた場所中心に切り替える。先程とは打って変わり、ジャック本人の映像が次々とモニターに映し出されていく。
「……妙だな」
レイはそう呟きながら、モニターを指差す。そこに映し出されているジャックの映像はつい昨日の物だった。場所は最初に発見した場所と同じ、商店街の物だった。
「こいついつも同じところうろついてんな」
呑気に呟くコウに、レイは体ごと向き直り、真剣な表情を向けた。
「その通りだ、コウ。この男、毎日同じ時間に、同じ場所をうろついている。監視カメラの設置された、人通りの多い場所をなぞる様にな」
レイはモニターを一瞥し、目を細めながら言葉を続ける。
「最初は何か目的があって、この付近に潜伏していると思っていた。だが、こいつの行動経路を調べる限り、何かを探していたり、誰かに会っているような形跡が無い。完全に見つかるための行動をしている」
レイの言葉に、コウは眉をひそめる。
「誘ってるってこと?」
「明らかにな。そしてこいつがうろついてる場所で潜伏できそうな所はここだけだ」
レイの指がエンターキーを叩く。モニターに地図画像が表示され、中央に赤い矢印が指し示される。
「通りから少し離れた廃施設。元は学校だったが、業者の買い手が付かず、長らく放置されている場所だ。一部では心霊スポットとして有名だな」
「待ち伏せするには絶好の場所って訳だ」
「そういうことだ。コウ、ラングのところに電話をしろ。保険の準備もな」
レイがそう言って立ち上がる。コウは頷き、パソコンルームから出て階下へ向かう。そして一階のソファに座りながらラングの元へ電話をかけた。