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「ラングファミリーは構成員も少ない弱小組織だ。だがドイツからの薬の密輸ルートを持ち、麻薬ビジネスで安定した収入を得ている」
「今時、薬なんて半グレどころか、その辺のガキですら小遣い稼ぎにばら撒いているだろ? 商売になるのか?」
「ラングが扱うのはとびきりの上物のみだ。顧客も基本は富裕層しか相手にしないし、ビジネス範囲も広くはない。四大マフィアが台頭する中、ラングファミリーが他組織に取り込まれずにいられるのは、先代の巧みな政治手腕によるものだ。そしてもう一人、組織の独立を支えていた男がこいつだ」
レイはコウが持つ写真を軽く指で弾く。
「小さい組織だ。麻薬ルートを狙うハイエナはゴロゴロいる。だが、ちょっかいをかけた連中は軒並みこいつの餌食になった。ラングファミリーの始末屋、通称『首狩り』」
コウは改めて写真を見る。確かに威圧感の感じる見た目だが、生気の感じられない顔からはとてもそこまでの凄腕には見えなかった。
「獲物は大振りの刃物を愛用し、基本銃器は使わないそうだ。それでいて、これまで仕事でしくじったことは一度も無い。間違いなく一流だ」
「しかし、それほどの男が、組織を裏切るのか? 先代を殺したって言ってたけど」
「そこがどうにも解せん」
レイは軽く息を吐きながら言葉を続けた。
「先代はジャックを重宝していたと聞く。待遇も悪くなかったはずだ。長年仕えていた組織を何故急に裏切ったのか、全く分からん」
「まあ、長く付き合ってると色々あるからな。ニックの言葉じゃねえが、身内でごたごたがあったんだろ。俺だっておっさんに殺意わくことなんてよくあるし」
「そういう単純な話ならいいんだがな」
コウは写真をポケットに仕舞いながら大きく欠伸をする。目の前の信号が赤になり、車がゆっくりと停止する。
「ところで、おっさん。さっきのあれ何だったんだ? 口止め料とかいう」
コウはおもむろに尋ねた。レイは、あぁ、と前置きをして話し出した。
「さっきも言った通り、あの組織は麻薬ルートを常に狙われている。先代とジャックのおかげでそれらを食い止めていたわけだが、今回その二つを失った訳だ。これが知れ渡ってしまえば、もうラングファミリーに未来はない。ハイエナ共に食い散らかされることになる。あの二代目もそれくらいは分かっているんだろう。徹底的な情報統制を敷いているはずだ。先代が死んでいた話は、俺でも初耳だったくらいだしな」
「なるほど。それでジャックを始末し、武力の面では健在アピールをしたいが、放った殺し屋はことごとく返り討ち。仕方なく外部の手を借りるしかなくなって俺達のところに依頼が来たんだな」
「あの組織もそこそこ腕の立つ奴は何人かいるが、ジャック以上の人材はいない。今回用意すると言っていた連中も、間違いなく返り討ちになるだろうよ。その為の保険だ」
「しかし、百万程度でガタガタ言う奴が、大人しく一千万払うかな?」
「払わせるさ」
レイは口元をニヤリと歪ませ、言った。
「どんな手を使ってもな」
レイの言葉に、コウは呆れたように首を振った。
「おっさんがハイエナ第一号って訳ね」
レイは鼻を鳴らしながら、小さく笑う。信号が青に変わり、再び車が動き始めた。




