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「何だ、保険って?」
ニックが尋ねる。レイは淡々とした口調で答えた。
「そちらの殺し屋がしくじった場合の話だ」
レイの言葉に不穏な空気が場に漂う。だが、そんなものは意に介せず、レイは言葉を続ける。
「ハンターの本職は賞金首の生け捕りだ。殺しの仕事は受け付けていないが、捕獲の依頼ならば請け負うことは可能だ」
ニックは無言のまま、レイの言葉を聞く。レイは指を五本立てて言った。
「ただし、生け捕りが依頼ならば報酬は相場の五倍払え。前金は五十万でいい。そしてこいつを生け捕りにして来たときの報酬は九百五十万。合計一千万円だ」
レイの言葉に、ニックの顔が再び紅潮し始める。何かを言おうと口を開きかけるが、それを遮るようにレイはさらに言葉を続ける。
「この値段には口止め料も入っている。依頼成功の暁には、俺達は依頼を受けなかったことにしてやる。そちらが自分達の手で裏切り者を捕えたという筋書きになるようにな」
ニックは拳を握り締め、レイを睨みつけた。コウはいつでも銃を抜けるようにニックの行動を注視する。だが、しばらくしてニックは大きく息を吐くと、低い声で唸るようにして言った。
「ウチの連中が仕留めたのなら、お前達には捜索分の金だけでいいんだよな?」
「ああ、勿論だ」
レイは頷く。ニックは肩を揺らしながら、口元をニヤリと歪ませる。
「分かった。万が一にもウチの連中がしくじるようなことがあれば――さっきの話、考えといてやる」
ニックはゆっくりと立ち上がり、壁にかけられた時計に目をやりながら言った。
「十時十分前だ」
レイに再び向き直り、言葉を続ける。
「日付が変わる前に連絡してこい。いいな」
ニックはそれだけ言うと、部屋から出ていった。残された黒スーツの男は、懐からゆっくりと分厚い封筒を取り出し、中から万札の束を抜き出した。素早い手つきで札を数え、それをテーブルの上に静かに置く。
「前金の五十万円だ。確認してくれ」
コウはそれを受け取り、自分でも数える。その万札の束はきっちり五十枚あった。
「オッケイ。私は確認しました」
コウはそう言って札束を懐にしまった。それを確認した黒スーツの男は、部屋の扉まで歩くと、扉を開きながらこちらに視線を送る。出ていけということなのだろう。
コウとレイは催促されるまま部屋から出た。吹き抜けの天井にぶら下がった、真鍮と木材で作られた大きなシャンデリアを横目に見つつ、手すり付きの階段を下りていく。一階の広間中央には木彫りの大きな女神像が置かれており、物憂げな表情でこちらを見下ろしている。壁にかかった油絵といい、まるで映画に出てくる古い洋館のようだ。周囲に人影はなく、それが館の広さを余計に引き立たせていた。
「あの男、見かけによらず、よほどアンティークが好きみたいだな」
がらんとした館内を見渡しつつ、コウはそう言った。
「いや、これはおそらく先代の趣味だろう」
玄関を抜け、駐車スペースまで脚を進めつつ、レイは言葉を続ける。
「あの男は見かけ通りの遊び人だ。アンティークなどカビの生えた骨董品としか思ってないだろうよ」
そう言いながら、レイは愛車である大型ミニバンの元まで近付くと、鍵をポケットから取り出した。