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「私達はこの人を二十四時間以内に見つけ出せます。見つけることが出来たら、私達はすぐにあなたに連絡をします」
コウの言葉に、ニックは胡散臭げに目を細める。そして煙を一気に吐き出しながら言った。
「本当にすぐに見つけてくれるってんなら、それはいいとして、だ。依頼金の方だが――相場はいくらつってた?」
ニックの言葉に、コウは内心で舌打ちしていた。値切り交渉が始まったのだ。
「ええっと、私達ハンターへの依頼金についてですが、先に申し上げました通り、前金で百万円。成功報酬でさらに百万円の合計二百万円が相場となっております」
コウの言葉に、ニックは肩を揺らして笑い始めた。
「殺しも出来ないアマチュア共のくせに随分取るんだなぁ、おい。桁が二つくらいおかしいんじゃねえのか?」
「いいえ、これが相場なのです。しかし依頼内容によって額は変動します。今回のような捜索の依頼ならば、半分の値段でも大丈夫です。つまり前金と成功報酬の両方が五十万円の百万円」
「それでも高いつってんだよ!」
ニックは声を荒げてテーブルを叩きつけた。コウをまっすぐに睨みつけ、言葉を続ける。
「ただの人探しで百万だぁ? 手前舐めてんのか!? 人の足元見やがって。吹っ掛けりゃ簡単に金払うと思ってんのか!?」
ニックの怒声が響き渡る。今にも血管が切れそうなほどに顔を紅潮させている。
その顔を静かに見つめつつ、コウはこの場をどう収めようかと考えていた。ニックの言う通りに値段を下げるのが一番簡単なやり方だ。だが、言われるままに割引していては、いずれ格安の使い走りにさせられるのは目に見えている。だからといって変に強情さを出すと、この場で撃ち合いが始まりかねない危険もある。
しばしの沈黙が訪れた。やがて沈黙を破ったのはレイだった。
「依頼金に納得できないのなら、他を当たれ」
「ああ?」
ニックは視線をレイに向ける。コウも振り返り、レイの方に顔を向ける。
「俺達は俺達の仕事をこなす。俺達を使いたいのなら提示した金を払え。いくら怒鳴り散らそうと何も変わらん」
「ほう、大した自信だなぁ。それだけの仕事が出来るってのか?」
ニックの言葉に、レイは肩をすくめながら答えた。
「出来るさ。身内の問題を外部の人間に頼る、貴様の手伝い程度ならな」
「手前!」
ニックは激高し、スーツの懐に右手を差し込んだ。コウはその行動に素早く反応し、ホルスターから撃鉄を起こしながら銃を抜き、ニックに向けた。
ニックは自身に向けられた銃口にぐっと唸り、スーツの懐に手を入れた状態のまま固まった。ニックの背後にいる男も同様に固まっている。
「……手前、俺に銃を向けてただで済むと思っているのか?」
ニックはコウを睨みながらそう言った。コウは無言で銃を向けたままだ。
「コウ、銃をおろせ。交渉の場に銃は必要ない」
レイは静かにそう言った。その言葉を受け、コウは言われた通り、撃鉄を戻しながら銃をホルスターにしまった。
「そうだろ?」
レイはニックを見据え、そう言った。懐に手を入れた体勢のままだったニックは、ゆっくりと右手を引き抜き、掌を見せ、何も持っていないことを示した。
「そうだな、お互い冷静に話し合おう」
ニックはそう言って、くわえていた葉巻を灰皿に押し付けた。そして言葉を続けた。
「念の為にもう一度言うが、俺はまだ依頼金に納得していない。手前らの仕事に百万の価値があるのか。納得出来るだけの理由が欲しい」
レイをまっすぐに見据えながらニックは言った。レイは指を二本立てながら、返答する。
「二時間だ。さっきは二十四時間以内と言ったが、早い方がいいだろう? 二時間以内にそいつを見つけてやる。一分でも遅れたら無料でいい」
レイの言葉に、ニックは眉をひそめた。
「本当にそんなことが可能なのか?」
「ああ」
レイは頷いた。ニック静かに唸りながら思考を巡らせる。やがてゆっくりと口を開いた。
「分かった。それで頼む」
ニックは提案を飲んだ。
交渉の成立にコウは安堵の息を吐く。だが、一瞬緩みかけた場の空気をレイの一言が遮った。
「ついでに保険もかけておくか?」
突然のレイの言葉にニックは眉をひそめてレイを見る。コウも不可解な顔でレイを振り返った。