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飛び出してきた二人に黒服達が気付いた時は、もう遅かった。
「おらおらぁ! 俺達を忘れてんじゃねえぞ!」
コウがそう叫びながら、両手に構えた銃をひたすらに撃ちまくった。ジャックに完全に気を取られていた黒服達は、満足に応戦できず次々と銃弾に倒れていった。
「下がれ! 下がれ!」
オールバックが叫びながら階段を駆け上がっていく。だがその頭をレイのライフル弾が容赦なく撃ち抜いた。
「よし、指揮者を潰した」
レイとコウは物陰に隠れ、弾を装填する。残りの黒服達は無造作に弾をばらまきながら二階へと避難していった。
「どうするんだ!?」
「落ち着け! 奴らは全員一階だ! ここで構えていれば、奴らは上がっては来れない!」
黒服達が叫ぶ。その叫びを聞きながら弾の装填を終えたレイはライフルを構え、二階の吹き抜けに向ける。
「次の指揮者はお前か」
レイはそう呟き、わずかに覗く男の頭をぶち抜いた。
黒服達の悲鳴が響き渡る。その悲鳴に呼応するように、再びジャックが姿を現した。全速力で走るジャックは前方の棚を踏み台に大きく飛びあがると、二階の吹き抜けの手すりに手をかけ、そのまますっとよじ登った。
一瞬、何が起きたのか理解できず、固まってしまう黒服。その腹をジャックの鉈が貫いた。
飛び散る鮮血に、黒服達は完全にパニックになっていた。
応戦することも放棄し、逃げ惑う黒服達。そんな無防備な彼らをレイとコウは二階に駆け上がりつつ次々と撃ち抜いていく。
「もう完全に戦意喪失って感じだな」
物陰に滑り込みつつ、コウが呟く。その隣にレイ、そしてジャックが同様に滑り込んでくる。
「狭いだろ、よそ行けよ」
「よく喋るな、ハンター」
「戦場ではお喋りな奴から死んでいくものだぞ、コウ」
「うるせえよ。お前らキャラ被ってんだよ」
その時、突然脇の扉が音を立てて開き、マシンガンを構えた黒服が雄たけびを上げながらこちらに銃口を向けた。だが引き金を引く間もなく、コウの銃弾が胸を貫き、ジャックの鉈が首に放り投げられ、レイのライフル弾が頭を貫いた。
「今の俺が一番早かっただろ」
「……命を最初に絶ったのは俺の剣だ」
「くだらん事で競うな」
互いに睨み合うコウとジャックにレイは呆れたように息を吐いた。
「どうやらあらかた片付いたようだな」
レイは静まり返った館内を見まわしつつ、ゆっくりと息を吐く。
「ニックはこの奥か?」
目の前の通路を顎で示しながら、ジャックに尋ねる。ジャックはゆっくりと頷きつつ、その通路に歩を進める。
「ここからは俺の仕事だ」
ジャックは新たな鉈を抜きつつ低い声で言った。レイも頷きつつ、その背中を見送る。
「なあ、ジャック。これが終わったらどうするんだ?」
コウの突然の言葉。
いきなり質問を投げかけられたことでジャックの足が止まる。振り返り、怪訝な顔をコウに向ける。
「どうする、とは?」
「いや、行く当てはあるのかなっと」
「……何を言っている?」
「もし行く当て無いなら、うちに来ないか?」
「……あ?」
コウのいきなりの申し出に、ジャックはぽかんとした表情で口を半開きにした。
「おい、何勝手なこと言っている。お前はいつからうちの人事になった?」
思わずレイが声を上げる。コウは真面目な表情で肩をすくめる。
「俺はマジで言ってるんだぜ? ジャックは腕も立つし、この案件が終われば実質フリーだ。それに人手が増えりゃあ残業地獄も少しは減るだろうしな」
「日本のハンター事務所に所属させるのなら日本国籍が必要だ。こいつが持ってるとも思えんし、帰化取得の条件を満たせるとも思えん。それに――」
レイはジャックのほうにチラリと視線を向け、言い淀む。そして唸る様に息を吐くと、コウの肩を強めに叩き、コウの耳元で囁く。
「とにかく、奴の邪魔をするな」
レイはそれだけ言うと、ジャックに向き直り、言葉を続ける。
「いきなり不躾な提案、悪かったな。ニックのことは任せたぞ」
「……あ、あぁ」
レイの有無を言わさぬ態度に、ジャックは怪訝な顔を浮かべたまま頷いた。そしてこちらに背中を向け、ゆっくりと通路の奥へと歩いていった。
「何でそんなに反対なんだよ」
ジャックの背中を見送りつつ、コウが言った。
「そりゃ手続きは色々面倒だけどさ、おっさんなら色々やりようあるだろ?」
「コウ。お前が誰をどんな理由で推薦しようと、一応話は聞いてやるがな」
ジャックが奥の部屋へと入っていく。レイは再びため息を吐きながら、コウに向き直る。
「まず絶対の前提条件だ」
レイは真剣な顔で言った。
「うちの事務所に死人はいらん」




