22
レイとジャックは、互いに獲物を握り締めると、コウの傍へと歩を進める。扉は未だに休むことなく弾丸が撃ち込まれている。
「出口はここしかないのか?」
レイは部屋をぐるりと見渡しながら、ジャックに尋ねる。今彼らがいる部屋は窓も無く、目につく出口は目の前の扉しかなかった。
「ああ。元々物置として使っていた部屋だ」
「どうすんだよ、おっさん。奴ら全く隙見せる気ねえぞ」
「人数は分かるか?」
「正面に五人。二階の吹き抜けからも何人か撃ってきてるな」
「この弾幕ではスモークを使っても危険だな」
レイは顎に手をやり考え込む。
「出口をもう一つ作ればいいだろ、ハンター」
突拍子もないジャックの言葉に、レイとコウは同時にジャックの顔を見る。ジャックはコウの傍らにある棚に視線を向けていた。
「どっかに隠し扉でもあるのか?」
「いや、無い」
ジャックは短くそう言うと、数歩後ろに下がる。
「だが、この部屋の壁は湿気で脆くなっている」
ジャックはそれだけ言うと、棚に向かってタックルした。派手な音を立て、棚が壁を巻き込みながら向こう側へと倒れた。
「何が起きた!?」
突然の壁の崩壊に、ラングファミリーの兵達は思わず銃を撃つ手を止めて、そちらに顔を向ける。だが、彼らの驚きに満ちた顔は、自分たちの方に恐ろしいスピードで迫ってくるジャックを認識したことで、一瞬にして恐怖に彩られた。
「ジャッ――」
その恐怖の名を最後まで呼ぶことは出来なかった。ジャックの丸太のような腕の一振りで、三つの首が同時に宙を舞った。返す刀でさらにもう一人の首を両断。最後の一人が声にならない悲鳴をあげ、ジャックに銃を向ける。だが、引き金を引く間もなく、その口に鉈が差し込まれ、後頭部から切っ先が顔を覗かせた。
「畜生っ! 撃て!」
二階の吹き抜けから叫び声と共に銃声が鳴り響く。ジャックは鉈に刺さったままの男を持ち上げ、二階に向ける。そうして男の体を盾にしつつ、左手で新たな鉈を取り出し、銃撃の隙を見計らって二階へと放った。
ぎゃあっと大きな悲鳴が上がった。放たれた鉈は二階にいた男の胸に突き刺さっていた。そのまま叫び声をあげながら男は一階へと転落する。
「カバーしろ、お前ら!」
新手の黒服達が、雄たけびを上げながら一階へと降りてきた。
ジャックは鉈の死体を盾にしながら駆け出した。近場の部屋のドアに体当たりしつつその中に身を隠す。
「不用意に近づくな! 奴の獲物は刃物だけだ!」
黒服の一人、オールバックの男がそう叫ぶ。その男を中心に他の黒服達も左右に展開し、銃口をジャックが入っていった部屋の入口に向けている。
「今だ」
レイの合図と共に、レイとコウは部屋から飛び出した。




