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Lawless Hunter 首狩りジャック  作者: 佐久謙一
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「ニックが、どこまで本当のことを言っているかは知らないが、お前がラングファミリーと敵対しているのは確かだ。だが、疑問がいくつかある。お前はファミリー以外に自分を狙う人間がいたことに驚いていた。まあ当然だ。こんな弱小ファミリー、内部のゴタゴタが外部に漏れてしまえば一瞬で消し飛ばされる。外の人間など雇うはずがない。もし目的がファミリーを潰すだけなら、情報を流せばいい。しかし、お前はそれを行わなかった。ファミリーと敵対しつつも、ファミリーを潰す、最も効果的な方法を取らなかった。何故だ?」

 レイの言葉を、ジャックは静かに聞いていた。自らの手を見つめ、それを閉じたり開いたりしている。やがてジャックは無言のまま立ち上がると、周りを軽く見渡し始める。その視線は部屋の隅に丸めて置かれた自分のコートで止まった。

「途中で捨てても良かったがな」

 嫌みったらしく言うレイ。ジャックは特に何の反応も返さず、コートを持ちあげる。そしてそれを勢いよく羽織った。一瞬見えたコートの裏側には、数えきれないほどの無数の刃物が仕込まれていた。

「何本持ち歩いてんだよ」

 思わず突っ込んでしまうコウ。血で薄汚れたコートを纏ったジャックは、改めてコウとレイに向き直ると、ようやくその口をゆっくりと開いた。

「俺は、ファミリーとしての役割を果たしているだけだ」

「どういうことだ?」

 レイが尋ねる。ジャックは憎々し気に顔を歪ませると、絞り出すような声で言った。

「……ニックは……親父を――ボスを殺した」

 その言葉に、レイはすっと目を細める。

「クーデターか」

 ジャックはゆっくりと頷いた。

「親父は自分の代で足を洗うつもりだった。薬の売上げは順調だったとはいえ、他組織との小競り合いも多く、密売ルートも警察組織に睨まれコストも跳ね上がっている。ここらが潮時だった。だが、ニックのグループはそれに真っ向から反対した。元々リスクの少ない取引ばかりを仕切らせていた故に、稼業を続けていくデメリットが考えられなかったようだ」

「一度、犯罪のうまみを知っちまったら、カタギには戻れないだろうしな」

「親父は、いずれニックも分かってくれると思っていた。俺も同じだ。家族だからな。実力行使に出るなんて、想像も出来なかった」

「家族への情で判断を鈍らせたか。よくある話だ」

 ジャックがレイを睨みつける。その視線をレイはまっすぐに見返した。

「そしてむざむざとボスを殺されたわけか」

「……あの時、俺はニックに取引の手伝いをするよう言われたんだ」

 ジャックは言葉を続ける。

「ニックの部下三人と共に、廃ビルの一室まで出向いた。だが、ビルに入るなり、三人は銃を抜いて俺に向けた。『ニックからの伝言だ。親父と仲良くな』それが奴らの最期の言葉だ。俺は急いでここまで戻ってきたが、既に館は占拠されていた」

 レイは顎に手をやり、静かに息を吐く。

「あいつにしては賢いやり方だな。自分の下に付くかどうか分からない構成員は、不安の種でしかない。排除が最も理にかなっている」

「あぁ。ジャン。トマス。アーロン。ジェイコブ。古参のメンバーは全員殺された」

 ジャックはおもむろにコートから巨大な鉈を静かに抜いた。その目は殺意に満ち溢れている。

「俺は親父の、そして殺された家族の仇を取るために戦っている。ラングファミリーのジャックとしてだ。外部の――お前らハンターの手は借りたくない」

「そうも言っていられない状況のようだが?」

 レイはボロボロとなった入口の扉を顎で示す。扉はもはやそのまま通り抜けられそうなほど大きな穴を開けており、敵の銃撃も激しさを増すばかりだった。

「あいつら、少しは弾を節約しろよな」

 扉の横に張り付いているコウは苦々しい顔でそう言った。

「さあ、どうするジャック? いくらお前の腕でも、一人で太刀打ちできる人数じゃない」

 レイはきっぱりとそう言う。その言葉に、ジャックは小さく鼻を鳴らした。

「手を借りたいのはお前の方だろ。はっきりそう言え、ハンター。回りくどいぞ」

 ジャックの言葉に、思わずコウは吹き出してしまった。レイは小さく唸りながら顔をしかめる。

「……分かっているのなら手を貸せ。こちらとしても引き金を引かれた以上、手ぶらで帰る気は無い」

 ジャックはレイを見つめる。やがて、小さくゆっくりと頷いた。

「分かった。協力しよう。だが、ニックには手を出さないでくれ。家族の不始末は、俺がけじめを付けなければならない」

 その言葉に、レイも小さく頷いた。

「契約成立だ」

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