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「さあさあ、クソッタレ共! パーティタイムだ!」
コウはそう叫び、アクセルをさらに強く踏み込む。そして館前を縫うように敷地内を蛇行運転していく。それに呼応するように、レイも対物ライフルを容赦なく連射した。まるで荒れ地を走るかの如く車体がガクガクと揺れ、それに合わせて視界の黒スーツが次々とミンチにされていく。
騒ぎに気付き、館の窓やドア周辺から銃で応戦する黒服たち。だが一発撃つ度、お返しとばかりに大口径のライフル弾が続々と撃ち込まれ、壁ごと相手を吹き飛ばしていた。
『車を止めろ。乗り込むぞ』
どれだけ走り回っていただろうか。レイの言葉を受け、コウは玄関前で車を止めた。助手席が開き、レイが愛用のライフルを手に取る。マガジンを装填。ボルトをスライドさせる。
「俺が先導する。ついてこい」
レイは車から離れ、玄関の右側に張り付く。コウのそれに倣い、レイの背後に付く。一呼吸おいて、レイがドアを蹴り破り、中を素早く確認。その視界には、テーブルをバリケードのようにして待ち構えている敵が映る。
レイがドア脇に隠れるのと、マシンガンによる弾幕が返されるのは、ほぼ同時だった。軽快な銃声が鳴り響き、入口から無数の弾薬が吐き出されている。
「正面に三人。二階左右に二人ずつ。まだまだいるだろうな」
「どうすんだ?」
コウの問いに、レイはスモークグレネードを取り出しながら答える。
「こいつを投げたら、ジャックを放り込んだ部屋。とりあえずあそこまでいく。遅れるなよ」
レイは入口の脇から銃口だけ出し、銃を乱射する。そして一瞬相手の弾幕が止んだところに、ピンを抜いたグレネードを放り込んだ。その瞬間、パンっと乾いた音が鳴り響き、煙が玄関周りを覆っていく。
「いくぞ、コウ」
レイの言葉を合図に、二人は突入した。館内は想像以上に煙が充満しており、自身の足元もよく見えない程だった。コウは正面を走るレイの足音、そして自分の記憶を頼りに、必死に中腰で走り抜ける。やがて、なんとか壁伝いに進んでいくと、目的の部屋が見えてきた。滑り込むようにして部屋の中に入り込む。
「遅いぞ」
扉を閉めると同時に、レイの悪態が返ってきた。文句の一つも返そうと、コウが口を開きかけた途端、背後の扉が派手な音を立てて無数の穴を開けた。
「奴らが入り込んだぞ! 殺せ!」
怒声と共に、鳴り響く銃声。コウは急いで扉の横に張り付き、機を見ながら慎重に銃で応戦する。
「奴らを中に入れるなよ」
そう言うレイの足元には、まるで簀巻きのように全身をダクトテープでぐるぐる巻きにされたジャックが転がっていた。おそらくラングファミリーの誰かがやったのだろう。
「簡単に言ってくれるね。狙いをつける暇すらねえぞ」
「適度に弾をばらまくだけでいい。まずはこいつを叩き起こす」
レイはそう言うなり、懐から注射を取り出すと、それをおもむろにジャックの左胸に突き立てた。すーっと入っていく謎の液体。その瞬間、突然ジャックの眼が開き、苦し気なうめき声と共にじたばたと暴れ出した。簀巻き状態なこともあって、まるで打ち上げられた魚のように床をのたうち回っている。
「……何打ったんだ? それ合法的な奴?」
ジャックのあまりにも苦し気な表情を見て、コウは思わず尋ねる。
「まだ規制されていないという意味でなら、合法だ」
レイは淡々とそう告げながらジャックを見下ろしている。やがてジャックの動きが落ち着いてきたところで、その首根っこを押さえ、顔を自分の方へ向けさせた。
「ジャック。落ち着いたか。多少混乱しているだろうが、まずは俺の話をよく聞け」
ジャックは焦点の定まらない視線を彷徨わせながら、唸るような声を出す。そんなジャックの様子に構わず、レイは言葉を続ける。
「ここはラングファミリーの館だ。俺達はお前を生け捕りにするよう、ニックに雇われたハンターだ。今の自分の状況を見れば分かるだろうが依頼は達成された。だが、奴は支払いを拒んだ。そこで俺達はラングファミリーの連中を皆殺しにするために戻ってきた」
レイはこれまでの経緯を簡潔に説明した。そしてナイフを取り出すと、ジャックに巻きつけられたダクトテープを切断していく。
「手伝え。お前の目的も同じだろ?」
「え?」
思わず驚きの声を上げたのはコウだった。
戒めから解放されたジャックは、ゆっくりと上体を起こすと、レイを静かに見つめる。
「……どこまで知っている?」
ジャックが静かにそう言った。
「ただの憶測だ。お前の行動は明らかにファミリーの人間を誘い出す動きだった」
レイは淡々と言葉を続ける。




