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「ターゲットはそいつだ」
アンティークよりの家具が立ち並ぶ部屋の一室。一人掛けのソファに腰かけたコウは、ローテーブルを挟む形で、スーツを着た男と向かい合っていた。
現在のコウは白のインナーに、前を開けた紺のデニムシャツ、そして草色のカーゴパンツといういでたちで、スーツの男と向き合うには、やや違和感のある格好だ。そんなコウの体面に座る男の年齢はまだ三十代前半であろうか。ほどよく焼けた肌とオールバックに纏めた髪。スーツよりも海パンにサーフボードのほうが似合っていそうな風体だ。口に太い葉巻をくわえ、その首や手には、とても良い趣味とは言えない金色のネックレスや指輪が光り輝いていた。
「もう既にウチの腕利きが五人以上やられている。これ以上は手段を選ばん。こいつを見つけ出して今すぐこの首を取ってこい」
スーツの男はそう言って、テーブルの上に置かれた写真を乱暴に小突いた。
「……えっと、ですね。ミスターラング」
「ニックでいい。周りにもそう言わせている」
スーツの男――ニックは煙を吐き出しながらそう言った。コウは頷きながら言葉を続ける。
「オーケー、ニック。私達ハンターはこのように個人の依頼も受け付けてはおりますが――」
コウは話しながら後方をちらりと確認する。コウの背後には、腕を組んだレイが壁にもたれかかっていた。レイはいつものように黒のタートルネックとコットンパンツという格好だ。
そんなレイは、顔だけをまっすぐに向けたまま視線だけを動かし、周囲に目を配らせていた。コウは再び正面に向き直り、ニックの顔をまっすぐに見つめる。
「私達は殺し屋ではありません。なので、私達は殺しの依頼を受けることが出来ません」
コウの言葉にニックは眉間に皺を寄せた。明らかに不機嫌そうな顔でコウを睨む。
現在、コウ達がいるのはとあるマフィア――ラングファミリーの若頭の館だ。そして目の前にいるのは、このマフィアの長であるニック・ラング本人だ。
コウ達のハンター事務所に電話があったのは、日も沈みかけた頃だった。マフィアの若頭から直々に頼みたいことがあるということで、詳細も聞かされずに、この館まで呼び出されたのだ。元々嫌な予感はしていたのだが、今月に入って稼ぎがあまりよろしくないということで、二人はしぶしぶ館まで出向くことになった。だが、そこで言い渡された依頼は、事務所的にはNGである殺しの依頼だったのだ。
「手前らハンターは金さえ積めば何でもする連中って聞いていたぞ」
ニックは苛立たし気に煙を吐きながらコウを睨み続けている。ニックの背後に佇む黒スーツの男も同様にコウを睨んでいる。その二人の視線を受け流しながら、コウは営業スマイルを張り付けた顔で言った。
「私達は殺しが出来ません。ですが、ターゲットを見つけ出す依頼ならば、実現可能です」
「ああ? 何だ、そりゃ。その腰の銃はおもちゃか手前」
ニックは大きくため息を吐いた後、後ろの黒スーツの男に指で合図する。黒スーツの男がニックに顔を近づけると、ニックは何かを耳打ちし、男が頷いた。
「よし、分かった」
ニックはそう言うと、コウに向き直り、言葉を続けた。
「ウチの人間を三人付ける。手前はこいつを見つけ出して連絡しろ」
コウはローテーブルに置かれた写真を手に取る。写真には一人の男の姿が映し出されていた。目元まで伸びたボサボサの黒髪と、その髪の隙間から覗くうつろな眼。肩幅が非常に広く、黒いレザーコートと相まって非常に威圧感のある風貌だ。
「お尋ねします。この人は一体何をしたのですか?」
コウは尋ねた。ニックは一瞬視線を彷徨わせた後、煙を吐き出しながら言った。
「組織の裏切り者だよ。親父と何人かの部下を殺して逃げやがった。それ以上は身内の話になるんで詳細は言えない。それで見つけるまでどれくらいかかる?」
コウは振り返り、レイに写真を肩越しに見せる。レイは写真を一瞥した後、腕を組んだまま指を一本立てた。その合図にコウは頷くと、写真をポケットに仕舞いながら、顔をニックに戻した。