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「っ!?」
コウが銃を向けるのと、巨体が闇の中へ消えていくのは、ほぼ同時だった。
銃声が響き、マズルフラッシュが闇を大きく照らした。しかし前方にジャックの姿は無く、放たれた弾丸は天井に穴を開けるだけだった。
「おっさん、いたぞ!」
コウは階段を上がろうと、足を踏み出す。だが、突然レイに襟首をつかまれ、後ろに引きずり倒された。
「いてっ、何すんだよ!」
コウが文句の声を上げるや否や、レイは無言のまま傍らの男の死体を両手で持ち上げると、前方に向かって放り投げた。宙を舞う男の死体。途端、空を切る音が鳴り、その死体は空中で真っ二つに切り裂かれた。
コウの目が驚きで見開かれる。一瞬でよく見えなかったが、何か大きな刃物のような物で胴体がぶった切られているのは確認できた。
「立て!」
レイはコウの襟首を持ち上げるようにして立たせた。脇からは階段を駆け上がっていく音が聞こえる。
「行くぞ、コウ!」
その音を追いかけるように、レイはものすごい速さで階段を駆け上がっていった。突然の出来事の連続に、コウは一瞬混乱したが、すぐに頭を切り替えて、レイの後を追った。
コウが三階まで辿り着くと、険しい顔をしたレイがこちらにライトを向けた。
「見失った」
レイはポツリとそう告げた。
左右に伸びる廊下は漆黒の闇に包まれ、まるでぽっかりと開いた化け物の口のようだとコウは思った。四階への階段は崩れた天井によって塞がれていた。
「何て足の速さだ」
レイが小さく悪態づいた。コウは左右の廊下を交互に見ながら、レイに尋ねた。
「なあ、おっさん。何でジャックが階段を上ってくるのを待ち伏せしてるって分かったんだ?」
「……あぁ、単純な罠だ。わざわざ姿を見せるってことは誘い込んでいるってことだ。踊り場で死んでいた奴も同じ手に引っかかったんだろう」
レイの言葉に、コウの背筋に冷たいものが走った。レイがあそこで止めなければ、コウは踊り場の死体第二号になっていただろう。
「それで奴は?」
「さあな」
レイは右の廊下に当たりを付け、そちらに向かって歩き始めた。
「だが、歩き回っていれば向こうからまた何か仕掛けてくるだろう」
レイの言葉に、コウは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
「あんまり良い作戦とは思えねえんだが」
「あぁ、俺もそう思うよ。だが、やるしかない。背後を頼む」
レイはライトを口にくわえ、麻酔銃を構えた。腰を落としてゆっくりと闇の中を進んでいく。コウもレイと背中合わせになる形でゆっくりとついていく。
しばらく歩いていると、ライトの光が横たわる人影を捕えた。ライトに映し出されたのは殺し屋三人組のリーダー格である太った男だった。先程の死体と同じく首を切り落とされ、恐怖に歪んだ顔を虚空に向けていた。
レイはライトを手に持ち、死体の周囲を照らす。死体は窓際に寄り掛かる様に倒れており、その向かいには教室らしき部屋があった。
「コウ、待ち伏せを警戒しろ」
レイはそう言うなり、太った男の死体に近付き、その懐をまさぐり始めた。
「おっさん。だから死体あさりやめろって」
「あとから戻ってくるわけにもいくまい。拾えるうちに拾っておく」
レイは素早い手つきで死体から弾薬やナイフ等を抜き取っていく。コウは教室側をライトで照らしつつ、その作業が終わるのを待っていた。
その時、窓から突然大きな腕が伸び、レイの襟首をつかんだ。




