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校庭を素早く走り抜け、校舎の入口まで辿り着いた二人は、入口の左右に張り付きながら、中の様子をうかがう。月明かりが閉ざされたことで、校舎内は完全に闇に覆われており、全てがおぼろげな輪郭しか判別出来なかった。
レイはポケットからペンライトを取り出し、前方を照らした。コウもポケットからタクティカルライトを取り出し、銃に取り付けた。
二人の前方に照らし出されたのは、ボロボロの下駄箱だった。所々にクモの巣が張っており、湿った埃の臭気が鼻孔を刺激する。
「床に天井、あらゆるところに目を配れ」
ゆっくりと闇の中をなぞる様に、ライトで照らしていく。中に足を踏み入れると、埃の臭気がより濃くなっていくのを感じる。
「夜の学校ってのは、やっぱ不気味だぜ」
「その感覚はよく分からんな」
「ああ、おっさん学校行ったこと無いんだっけ? えっとな、一足す一は――」
「それは今必要な情報か?」
音を立てないよう慎重に下駄箱を通り抜けると、二階への階段と左右に伸びる廊下が見えてきた。ふと、階段の方に明かりを向けると、赤黒い光が反射した。よくよく見ると、階段上部から血が流れており、付近に血だまりを作っていた。血の跡をなぞる様に階段上部へとライトを向ける。やがてライトに映し出されたのはうつろな眼を向けた男の生首だった。
「……あらら」
思わず、コウは小さく唸った。男の顔には見覚えがある。先程話していた殺し屋三人組の一人だ。
「おっさん、上に行く?」
「あぁ、死体を辿っていけばジャックとも出くわすだろう」
二人は慎重に階段を上っていく。踊り場まで登りきったところで足を止め、二階にライトを向ける。空中を舞う大量の埃がライトに映し出され、コウは思わず喉がむずがゆくなった。
その時、足元の死体からゴソゴソと衣擦れの音が聞こえてきた。コウがそちらに視線を向けると、ペンライトを口にくわえたレイが死体のポケットをあさっていた。
「……おっさん、死体あさりやめろよ」
「貰えるものは貰っておかないとな」
レイはそう言って、死体から取り出した弾薬ケースやマガジンを、自分のポーチに詰め込んでいく。その様子に、コウは呆れたようにため息を吐きながら、視線を前方に戻し――
目が合った。
暗闇に浮かぶぼんやりとした巨体。返り血で汚れた薄汚いコート。そして髪の隙間から覗く獣のような二つの眼。写真で見た男、ジャックだ。




