1
暗く、静まり返った廃墟の中。分厚い雲のわずかな隙間から漏れる月明かりが、男の目前をぼんやりと照らしていた。
男の目の前には、恐怖で顔を引きつらせた男の首が転がっていた。光を失ったガラス玉のような眼球が、その首を眺める男の姿を映している。その横には首を失った体が横たわり、首の切り口からあふれる血が床に血だまりを作っている。血だまりが徐々に広がっていく様を、男は無言のまま見つめていた。
しばらくして男は血だまりから視線をそらす。そして目の前の首を掴むと、ゆっくりと歩き始めた。男の足音が、まるで遅いメトロノームのように、一定のリズムで廃墟に響く。埃が舞い、カビの臭気が、全身にまとわりつくが、男は意に介さず、無言のまま歩き続ける。階段を降り、荒れ果てた一階を抜けて外に出た。冷たい外気が羽衣のように男を包み、体にまとわりついた臭気を散らしていく。
男は足を止め、空を見上げた。そしてそこに浮かぶ月の優しい光を愛おしそうに眺める。やがて男は顔を下げ、自らの右手に握られた獲物に視線を落とした。
それは赤黒い血がべっとりと付着した大きな鉈だった。月の光が反射し、男の目が細められる。
男は前を見る。そして再び歩き始めた。夜闇の中に消えていくその男の顔は無機質で、しかしどこか悲しそうな表情をしていた。