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4話 普通(?)の2人

 美香は相変わらず毎週のように告白を受けているという日常が続いているらしい。

 中学生時代で他校にも知れ渡っていたのだから当たり前で、高校でも登下校で声をかけられていたりする。

 そういえばこの間はリビングのゴミ箱に芸能事務所の名刺が捨てられていた。


 隠し撮りもされているが、ひどいのは僕が見つけて注意してる。

 彼女の後ろを離れて登校しているので、スマホをかまえている奴を見つけやすいのだ。僕がストーカーなわけではない。


 今僕はマンションの裏口から出入りしている、誰かに見られるかもしれないからだ。

「私が誰と一緒にいようと、他の人には関係ないでしょう」と美香はイライラしているので「そうだね」と相槌してなだめようとするが。

「自分が何言っているのか理解してる?まあどうせ何も考えてないんでしょう」と怒られてしまった。適当なのがバレている。


 考えている事といえば、美香にこれ以上嫌われないようにするだけです。

 なので言われた事、いや言われる前に自分でできることはするように心がけている。


「今日も美味しかったです。ご馳走様」やっぱり美香の料理は美味い。

 やらなくていいとは言われていたが自分の食器は片付けている。水道で軽く洗って食洗機に入れるだけど。


「もう終わり。もっと食べなさいよ」と立とうとする僕を止める。

「いや十分だって」

「情けない、男子高校生でしょ」

「ラクビー部なら食べれたかもしれないけど」

 当校にラクビー部は無いので本当か知らない、なんとなくだ。冤罪である。

「4cmは大きくなってもらわないと」美香の声はだんだん小さくなり最後は聞こえなかった。


 4cm?

 僕は168cmなので170cmにはあと2cmだが。プラス2cmはなんなんだ?

 教えてくれそうな雰囲気はない。こういう時追求するとキツく言い返される。無視するのが一番、長い付き合いで身につけた知恵だ。


 食器が洗い終わり棚に戻そうとすると「私がするからカー君はしなくていい、適当な場所に置かれても困る」。茶碗や皿の置き場所は覚えたけど「ありがとう」と一応礼を言っておく。

 機嫌良さそうに片付け始めたので、これが正しいのだろう。


 クールビューティと言われる美香の表情は分かりにくい。

 いや、学校では喜怒哀楽の表情ももっとはっきりしている。僕と2人切りの場合にかぎり表情の変化が極端に少なくなる。

 表情がわかりにくいが長年見続けている。食後の「今日も美味しかったです」と今の「ありがとう」で機嫌が良くなった程度の事はわかる。


「そうだ今日シャワーだけにするんで、もう入るね」体を洗いたい理由がある。

「どうしたの?」

「ちょっと怪我した」


 !

 美香が「どこ、ひどいの」と言いながら一気に迫ってきた。近いって。


「大した事ないよ。ここ」と言って袖をまくる。肘と手首の間の内側が赤くなっている。

「ひどい、どうしたのこれ」いやいや、そこまでひどくなって。


「ちょっと弓を引いた」

 弓道場に部活が始まる前に行けたので先輩を真似て弓を引いてみた。で初心者がする代表的な怪我をしたのだ。

「なんで、そんな危ない事を」と続けそうになる美香に

「百合さんにたっぷり搾られたから、もう十分」とストップをかける。

 見つかって正座のままたっぷりと注意を受けている、もうたくさんだ。注意そのものは正論でだったけど、あそこまで長く座らせたのは罰の意味があたんだろうな。

 ほぼ毎年1人いるらしい、今年は僕だった。


 美香は慌てて応急箱をとりに走る。

「消毒と、あと何...包帯」

「もう乾いているから大袈裟だよ。それに今シャワー浴びるって言ったけど」

「そうか、判った消毒はその後ね。じゃさっさと行ってきて」


 シャワーは傷にしみたが、先輩の助言を聞いて冷やしていたのでこの程度で済んだ。去年やった先輩が経験を教えてくれたのだ、来年のために覚えておこう。


「カ、カー君、は、はだか」

 リビングに戻ると、美香が僕を指さし横を向く。

「え。消毒してくれんじゃないの」面倒なんで上半身は着てない。美香は僕のだらしない体は見慣れていたと思っていた。


 美香は深呼吸の間をあけて「そうだった」

 自分で言ったんだから覚えててよ。


 美香は「ここに座って」と自分が座っているソファーの隣を叩く。

 そこに座ると彼女は床とソファーを行ったりきたりして、今度は「なんかやりづらい。床に横になって」と。


 言われるままに床に仰向けに横になると

 今度は「まったく」と言って、僕の右側から左側へひょいっとまたいで移動した。

 僕が治療を考えずに横になり美香が傷の無い側にいたためだが、美香はスカートを履いていた。慌てて目を瞑る"無頓着だ"こっちの身にもなれ。


 美香は僕がシャワーに入っている間にネットで手当の方法を調べて用意済み。消毒、傷口には傷用の保護テープ、周りの青いところに湿布して、包帯でぐるぐるにされた。

「大袈裟だよ」たかがかすり傷なのに。

「化膿するかもしれないでしょ。私が安心するためにも必要、とっちゃダメだからね」

 まあ明日から土日だしいいか。


 夕食後は2人共自由。美香は基本自分の部屋に入り勉強をしている。僕も真似して自室に篭るが彼女とは違い半分はゲームをしている。彼女の視線が無いとダラけてしまう。僕は本来こうだった。

 勉強が終わると美香は僕のドアを叩く。日課のランニングだ、揃いのジャージに着替え外に出る。


「またその格好」

 美香は帽子とサングラスで変装した僕の姿に不満がある。自分も伊達メガネをしているのに、不公平だ。

「誰かに見られるかもしれないだろう」という言い訳しても機嫌は治らない。

 だがこれでよほど近づかないと僕とはわからないはずだ。


 ランニングが済むと今度は美香がお風呂に入る。普段なら僕を入れようとするが、すでに入っている。

 そうだったランニングで汗をかくの忘れてた。襟元の匂いを嗅いで確認してみるが自分じゃわからん。


「何してるの」今度は僕と色違いのスエットを着てきた美香が首をひねる。

「匂ってるかと思って」

「カー君は別に嫌な匂いはしないよ」

「汗かいたけど〜」

「いまさら。夏一緒に寝たこと有ったよね」それは小学生の頃だよね。

 そうか寝室が一緒だった、クーラーが効いているとはいえ寝汗は出る。どうしても匂いの問題は有るか。


 昔を思い出し「そういえば美香いい匂いがして」クッションを思いっきり投げつけられた。

「デリカシーの無い事は言わない」と怒鳴られる。

「褒めたんだけと。いい匂い。。。いや違うな、僕が美香の匂いが好きだと」

 匂いの好みは人それぞれだと聞いた事がある。一緒に住んでいる人の匂いが自分好みだというのは恵まれているのではないか。

「だから、そんな恥ずかしい事は言わないで」耳まで真っ赤にして怒られた。

「ごめんなさい」また何かやらかしたらしい。


 "まったく"とか言いながら美香は、洗濯機から持ってきた乾燥が済んだ衣類を床に置く。

 彼女は僕のも一緒に洗っている。"お父さんのとは一緒に洗わないで" 的な事はされていないが喜んでばかりはいられない。

 次々とたたんで整理してあっという間に幾つかの山になった。

 この洗濯物の山の中に彼女の下着類を見た事はない。いやそれどころか引っ越してきた以降目の隅にも映った事がない、かなり警戒している証拠だ。ここで随分嫌われていると再確認する。


 自分用に分けられた山を自室を通り寝室へ持っていく。

 僕は美香の部屋に入るのを禁止されている。だが彼女は掃除のためと僕の部屋に入るので不公平だ。美香の部屋に入りたいというわけでもないが。


 普通ならここで朝が早い美香は寝室に入るのだが、金曜日は違う。リビングにだらだらといる、それに釣られ僕もいる事になる。

 ゲームやネット鑑賞などして一緒に過ごす。特に何をするというわけでもない、美香は単純に夜更かしがしたいだけのようだ。

 でも夜更かしに慣れていない美香のほうが早く眠くなる。ギリギリまで寝室へは行こうとせず、電池が切れる子供のようにぱたりとその場で動かなくなる。


 こうなると「美香、寝るんならベッド行こう。風邪ひいちゃうから」と揺すっても起きなくなる。

「ん〜」と返事があるだけだ。

 仕方なく彼女を運ぶ、最近は毎週のようにこうなっている。美香を抱っこできる役得があるので黙っているが美香はどう思っているのだろう。もしかすると自分で寝室まで行っていると思っているかもしれない。


 メガネが危ないので外すと「カー君、抱っこ」と甘えてくるのも最近のお約束だ。眠いと年齢退行でも起こすのだろうか。

 お姫様抱っこで寝室まで運ぶ、かなり厳しいよろよろする。鍛え始めたばかりだから許してほしい。

 それに美香は中学でのバスケのおかげで女子にしては身長がある、たしか僕より少し高いはずだ。


 ベッドに寝かせると「カー君、ミーの匂い好き〜。へへぇ」と寝言を言う。

 僕は小学生の頃は美香のことをミーと呼んでいた、今そんなふうに呼べる気はしないけど。

 昔はこんな感じだったと懐かしいんでいると


『そのいちご可愛いね』と偶然に見えてしまったパンツから目を離せなくなったのがバレ、それを隠すため履いていた当人に向かって言っているシーンを突然おもいだした。

 おい昔の自分何であんな事言ったんだ、すーげー黒歴史だセクハラもいいとこじゃないか。美香が覚えていない事を切に願う。


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