19. 君と本音
夕食は、なんとなくエドたちが最初に出会った料理店でとることになった。
三人はそれぞれ好きなものを頼み、黙々と食べていた。
料理はテルーラで食べたものまでとはいかないが、相変わらず美味しい。
…………しかし。
エドは視線だけ動かして横の方を見る。
明らかにチンピラといった感じの男が、料理も頼まずこちらの方をちらちらと見ていた。
やけに顔が赤い。すでに酒に酔っているのは明らかだ。
どうやらティアーネもそれに気づいているようで、もとより不機嫌そうな顔をさらに険しくしていた。
「……なあ、そこのネーチャン、俺と一緒にもっといいとこ行かねえか?」
案の定、ニヤニヤしながらその男がこちらに近寄ってくる。
はあ、とため息をついてティアーネは言い返す。
「見ての通り先客がいますの。他を当たってくださる?」
ティアーネにそう言われ、ようやくエドたちもいることに気づいたのか、男は睨みながら声を上げた。
「はあ? どう見てもガキじゃねえか。お守でも頼まれてんのか? ……それによぉ」
バン!とナビスの前のテーブルを叩く。その拍子にグラスが倒れ、ナビスの服に水がかかった。
あわててグラスが落ちないように手を伸ばしたナビスの腕を掴む。
「こいつなんて亜人じゃねえかよぉ? イライラすんだよ、こいつらみたいな下等生物が人間様と同じように食事してるとなあ!?」
思いっきり腕を引っ張られたナビスが床に転がる。
ゲラゲラと男は笑いだした。
「お前には床がお似合いだぁ! 大人しくそこでお座りでもしてな!」
テーブルの上を転がったいったグラスが、床に落ちて割れる音がした。
店内がざわつく。異変に気付いた店員が、もうすぐやってくるだろう。
早くどうにかしなければと、エドは立ち上がろうとした。
「――ここ、雰囲気がよくて好きでしたのに」
と、小さくティアーネがそう呟くのが聞こえた。
エドよりも早く、ガタリとわざと大きな音を立ててティアーネは立ち上がる。
「おうおう、俺と来る気になったか? んん?」
音に男はティアーネの方を見て、それからニヤリと汚い笑みを浮かべた。
「――いいえ。ただ私は怒っているだけです」
ティアーネは男に歩み寄り、真正面から静かに睨んだ。
男は不満そうに口をとがらせる。
「んだぁその顔? 俺様に殴られてえのか?」
男が拳を振り上げた。
まずい、と思ってエドは立ち上がって止めに入ろうとするが、ティアーネが手で止まれと合図する。
はらはらしながら見守っていたが、結局男の拳がは振り下ろされることはなかった。
男は、拳を振り上げた状態で固まっている。
「あらあら、どうしたんですの?」
ティアーネがわざとらしく首を傾げる。周りには見えないように隠してはいるが、エドからはティアーネがその手の中に氷の刃を持ち、男の腹に突き付けているのが見えた。
ティアーネが少し力をこめると、男の服は簡単に破れる。
「ひっ……」
思わず男が力を抜いたのを感じて、ティアーネはくすくすと笑った。
「賢明な判断ですわ。私――よく棘があるって言われますの」
その表情と氷の刃は、さぞかし男に恐怖を与えただろう。
男は舌打ちをして、そのまま逃げるように店を出ていった。
「大丈夫ですか? ナビス」
ティアーネが手を差し伸べる。あっけにとられていたナビスはその手を掴んで立ち上がった。
「あ、ありがとうございます」
堂々と立つティアーネの姿が、エドにはやけに美しく見えた。
それから三人は、駆け寄ってきた店員に騒動を起こしてしまったことを詫び、料理代と割れたグラスの弁償をして早々と店を後にした。
「……すみません、また僕のせいで」
「そんなことはないですよ、ナビス。私が怒りたくて怒ったのです。とてもすっきりしましたわ」
帰り道、謝るナビスをなぐさめながら、ティアーネはさらりとそう言う。
「それにしてもさっきのティアはさすがに怖かったな。夢に出てきそう」
「あらエドさん、あなたもあの男と同じようにされたいのかしら?」
エドが茶化して言うと、ティアーネから予想通りの言葉が返ってきた。
声のトーンが冷たすぎて、まるで冗談に聞こえないが。
エドはさりげなく下のほうに視線を向ける。
ティアーネはああ言っているが、花冠を持ったティアーネの手が、まだわずかに震えていたのも、それに隠すように差し込まれた黄色の花も、エドは見逃していなかった。
「……全く、どれが本当の君なんだろうな」
「――? 何か言いましたか、エドさん?」
「何のことかな」
思わずつぶやいてしまった言葉に反応したティアーネに、エドは肩をすくめた。
俺様がチンピラBだぁ! ヒャッハー!!!!
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