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1. 私とあの子

 ――インターネット、それは人々が顔を隠したまま繋がる、現実とは少し離れた世界である。


RRR_io:なあ、突然気になったんだけどフィーって彼女いるのか????


Phiis:は?wお前俺に喧嘩売ってんの??いるわけないだろww


RRR_io:よかったー。やっぱ俺ら仲間だよな^^


Phiis:なんかお前と一緒にされんのはむかつく

    で、今日はできんの?


RRR_io:いつでもおk


Phiis:りょうかい。じゃロビー立てとく


RRR_io:ty


 今日も、そんな会話がネットゲーム内で流れている。


――――――――――――――――――――――――――――


「――そりゃあ、いるわけないでしょ」


 ロビー製作画面を操作しながら、藤岡千里は苦笑する。それもそのはず、千里は名前からも分かる通り正真正銘の女だ。

 しかし千里が操作しているのは男性アバターであり、チャットでの言葉遣いも男とそう変わらない。


 現実では女性であるはずの人がネット上で男を装う――いわゆる”ネナベ”という人種に千里はあたる。

 女と分かると途端に態度を変えられるだの、面倒ごとに巻き込まれやすいだの、男として振る舞うことに抵抗がないだの色々理由はあるが、結局は「純粋にゲームを楽しみたいから」という結論に至り、千里は長年ネナベを続けている。



RRR_io:素材集め完了!そういや、お前も明日仕事だっけ?


Phiis:そうだな。・・・朝早くてつらい


RRR_io:右に同じく。今日のとこはここで終わりにすっかー


Phiis:今日もありがとな。


RRR_io:こちらこそー

     また今度な


 "RRR_io"がログアウトしました。



「今日も終わっちゃったか……」

 

 千里はブルーライトに照らされながら頬杖をつく。いつもこの瞬間は、どこかもの悲しさを感じてしまうのだ。

 なんとなくカーソルをフレンド欄に持っていき、一番下までスクロールする。


 フレンドリストの最後の行にあったのは、「marria 最終ログイン:1年以上前」の文字列。

 一瞬、チャット欄を開こうとしてしまったが、すぐに我に返ってゲームを閉じる。


「もうログインなんてしてくれないのは分かってるのに、どうしても見ちゃうんだよなあ」


 電源を消した画面に映る自分から逃げるように千里は立ち上がり、すぐそばのベッドに飛びこむ。

 

「もしもう一度、あの子と話せたら」

 

 布団の中で、まどろみながらつぶやく。


「ちゃんと謝って、それで……」


 その先は言葉にならないまま、千里は眠りに落ちた。



――――――――――――――――――――――――――――



 夢の中、波のさざめく音が反響する。


 千里が目を開けると、目の前にはどこまでも続く海が広がっていた。

 妙に鮮明で、それでいて景色は遠くなるにつれてぼやけており、心なしか不安になる。

 足の裏には砂と、海水が撫でていく感触がある。どうやら、波打ち際に立っているようだった。


「ここは――」


 辺りを見回そうとすると、突然上から声が降ってくる。


『――振り返ってはだめよ』


 刹那、体が固まる。別の次元から話しかけられているかのように少しだけ籠ってはいるが、透き通った美しい女性の声だ。

 その言葉にはなんの強制力もないはずなのに、千里の体は前を向いて固まったまま、声に耳を傾ける。


『そう、お利口さんね。貴方には、まだ私の姿を見る権利はないもの』


 不思議なことを言う。千里は首を傾げた。


「貴方は、誰なのですか?」

『――私?』


 声の主はふふ、と楽しそうな笑みをこぼす。


『そうね――あえて言うなら、"神様"かしら。ああでも、貴方とはずっと離れたところにいるのよ。だからこうして、夢で会うしかなかったの。ね、千里ちゃん?』


 唐突に名前を呼ばれて驚くが、神様なら当然なのだろう。千里はおそるおそる神様に尋ねる。


「なぜ、私なんかに会いに?」

『それはもう当然――貴方の意思を確かめるためよ?』


 話がつかめない。もう一度質問しようとするが、神様の妖艶な声に遮られる。


『藤岡千里、貴方に問うわ。――貴方、この人生に悔いはない?』

「人生の、悔い――?」


 まるで、これから千里が死ぬかのような物言いだ。


『そう、亡くしてしまった大切な人、叶えられなかった夢、伝えられなかった思いや、言葉――そんな後悔、何か一つくらいはあるでしょう?』


 一つひとつの言葉に記憶がよぎる。何年も前に他界した、女手一つで千里を育ててくれた母。結局得られなかった、当たり前の青春の日々。でも、やはり一番に思ってしまうのは――


「――一人、どうしても会いたい人がいます。大切なことを、何も伝えられなかった人が」

『ええ、貴方はもちろん、そう答えなくっちゃね』


 すべてを知った上で、千里の反応を楽しんでいるのだろうか。神様らしい不気味さだ。


『藤崎千里――もう気づいているかもしれないけど、貴方はもうすぐ死ぬわ』

「そう……ですか」


 あまりにも唐突すぎて、何も感想が出てこない。


『ごめんなさいね、私の勝手ですべて決まってしまっているの。でもそんな貴方に、いいことを教えてあげるわ』


 一拍おいてから、神様がゆっくりと喋りだす。


『その子、私の世界に転生しているのよ。しかも前世の記憶を持ったまま』

「、じゃあ――」


『ふふ、そう焦らないの。もちろん、貴方にもその権利をあげるわ。私からのプレゼントよ』


 海の世界が、端の方から崩れて消えていく。


『”ティアーネ・フィア・レイシャ”。この名前の女の子を探しなさい。――大丈夫、貴方が探そうとしているかぎり、必ず会えるわ』


 視界が真っ白になっていくにつれ、神の声も、だんだんと小さくなっていく。


『藤岡千里、貴方に祝福を。そこに真実の愛があるのなら、何も恐れることはないわ――』

見切り発車の初投稿です。

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