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ダメカワピンク救世主伝説/  作者: 人藤 左
6/35

魔王マッサージセラピーとリベンジ受付/♡

 手が生えてから数日経った。


「ねぇ。もういいよ」

 めちゃくちゃ気持ちいいからやめないでほしいのだけど、それはそれ。


「もう動くってこと?」

「いや……動かないけど」


 血管とか神経がちゃんと繋がってない、とはイザヤの解説。つまり、これはまだボクじゃないってことだね。


「じゃあ、続けるよ」

 ボクはひたすら、イザヤに腕をさすられていた。ボクに触れた手がボクに触れたまま補填部分にも触れることで、同じ体の一部だと認識させる訓練なのだそうだ。この施術は腕にはじまり両足、顔と続く。


「あ゛ぁー……」

 めっちゃ捏ねられた。


 で、治ったってわけ。


「ね、ね。ボクが帰りたいって言ったらどうする?」

「…………」

 あ、困ってくれるんだ。

 嬉しいな。


「帰ってどうする?」

「お酒を飲む」

「…………」

「あと、『庭』から帰ってきたってなったらみんなにスゴいって言われちゃうじゃん?」

「…………」

「ゲゴのやつもギャフンと言わせてだね、それで……これも、返したいし」


 腰のポーチから、馬車で知り合ったお兄さんに借りたままのハンカチを取り出す。


「……じゃあ、仕方ないな」

 安楽椅子から立ち上がったイザヤは、奥の部屋から髪留めとチョーカーを持ってきた。


「動かないで」

 顔が近い。耳元で囁くな。……いや、めっちゃいいんだけどさ。


 わざとやってんのか?


 黒い獣……これが猫らしい……があしらわれた髪留めと真っ白いチョーカーを付けてくれたイザヤは、少し機嫌が悪そうに座り直した。


「そのヘアピン。この『庭』で迷わなかったり、距離を折り曲げたりできる」

 言ってイザヤは、紙を二つに畳んでみせた。


「それって、うそ、ゼロになるってことじゃん」

 端と端、入口と出口が繋がるってことは、入った途端に出られるということだ。


「厳密にはそこまでではないんだけどね。で、そのチョーカーは『スワンプマン』安定のためのアンテナだ」


「アンテナってなに?」

「【アンテナだよ】」

 説明が面倒なのか、『統一言語論』で済ませにきた。……へえ。遠くても受け取れる? って感じなんだ。


「あと、それ。ローブ。余ってたから羽織っていくといい」

「うん。ありがとうね、イザヤ。マオちゃんも。ありがとう。また会おうね」


◆◆◆


 そうして、怪我をしてから初めて外を歩いた。とても清々しい気分だった。


「えっと、紙を折り畳むイメージ……イメージ……」

 バカみたいに酔ったときみたいな眩暈の中、数分。

「うわ、ホントに着いちゃった」

 見覚えのある街の端だ。


「えー、どうしよう。ホントに帰れたんだ。どうしよどうしよ。なんで挨拶したらいい?」

 まずはギルドのジュリー姉さんだよね。ついでに宿を取ってお酒飲んで……


「お金! ないじゃん!」


 そりゃそうだ。どうせ死ぬんだと思って雀の涙ほどのお金は使い果たしてから捨てられたのだ。なんなら儀礼剣もバックラーも着替えとかすらもない。


「えー……どうしよう……」

 イザヤのとこに戻る? あんだけボクはやってやるんだ! って感じで出て行って、日が暮れる前に帰っちゃったら、もう子供じゃん。却下。


「どうしようもないか……」

 働くしかないだろう。


 幸いローブで顔を隠せる。これで一文なしがノコノコとギルドに戻ってきて、顔見知りにバレて笑われることはないだろう。凱旋の予定は変更だ。上手いことデカい仕事をやりきって、正体を明かす! これだ!


 そんなわけでギルド受付。

「いらっしゃいませ。あら、……パルまむぐっ」

「ちょっと、ちょっとね。知らないフリして」

 ジュリー姉さんにあっけなくバレてしまったので、咄嗟に左手で口を塞いだ。


 声をひそめて、話を続ける。

「ちょっと事情があって、すぐにクエストを受けたいの。いま選ぶから待ってて」


 綺麗な目に涙を滲ませながら、ジュリー姉さんは小さく頷く。


 さて、と左にある掲示板へ。遠出の討伐系はムリだから、近場で、払いのいい……

「失礼」

 ――無駄にいい声が断って、受付に現れた。


 その老紳士は、ジュリー姉さんに食堂の方へと案内されていった。


 心臓が早鐘を打つ。ズキンズキンと、イザヤに治してもらったところが弾けるように痛い。


 でも、頭はとても冷静だ。


 ここで腐ってた三ヶ月、あいつへの仕返しを考えるのが楽しみの一つだった。色々あった考えはパァになったけど、それでもとっさに色々思いつくには十分な燻りである。


「ジュリー姉さん、あとでゆっくり話したいな」

 フードをより深く被って、『スワンプマン』による補填を一度解除。痛みとかはない。これでよし。


◆◆◆


「そう。大切なものを置いてあった洞窟に、アルキケダマが棲みついてしまってね。それを取ってきてほしいのだよ」


「はい。それで、その……」


「報酬の件だね? 構わんよ。ロドロス伯の娘さんから受注があったと聞いて、私もそれなりに察している。いいだろう。達成のあかつきには、ドネドミネ家の私への借金を棒引きとしよう。そうだな……3000万で、どうだろう」


「3000……よろしいのですか⁉︎」

「もちろん。ギルドの方で都合が悪いのなら、ふむ、正規の報酬を払った上で、私個人の好意として、という形にもできるだろうね」


「ありがとうございます……ありがとうございます……」

 金髪の美少女が、とても丁寧に頭を下げている。

 相変わらずやってんなぁ。


「お久しぶり、ゲゴ・ラクスさん」

 話がひと段落ついたみたいなので、ボク、登場。


「その節はお世話になりました」

「ん……?」

 声だけではピンと来なかったようなので、ゆっくりとフードを下ろしてやる。


 忘れたとはいわせないぞ。

「その薄気味悪い髪……パルマか」


 傷とかじゃないのかよ! いやまぁ目立つだろうけどさ!

 ……と、声を荒らげてはいけない。


「その依頼、ボクも受けたいんですけど」

「ま、待ってください! この依頼はわたしが……」

 家柄の良さそうな女の子がボクに縋り付いてくる。掴んだ腕の先、手首からがないことに気付いて、顔を見上げ、眼帯に目が行って、竦んだように手を離した。


「報酬は全部この子のもんでいい。誰かに言いふらすこともしない。あと、どんな条件を飲めばいい?」

「なぜ生きている……と聞きたいが、野暮か。何が目的だ?」


 令嬢さまに対してゲゴは、ボクを品定めするようによく観察する。


「あの辺に忘れ物をしちゃってね。あそこ、私有地だろうから入りにくくて」

「ほう……」

 顎に手を当て、唸るゲゴ。


「ふ、ふふ。よし。任せよう」

「任されました。――よろしくね、お嬢さん」

 ひたすら捏ねられる桜餅の生地みたいなピンクちゃんと、不敵な態度のピンクちゃんが書きたくて書きました


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