『スワンプマン』
「治そうと思えば治せるけど」
ボクが名乗ってからずっと、イザヤが優しくてヘンだ。
「治るの?」
これは説明しても無駄だな、と言いたげな冷たい視線を投げかけて応える。
イザヤはいつもヒマさえあれば話しかけてくれる。ヒマさえ、っていうのはもう、イザヤはずっとヒマなもんだから、お茶でも飲もうかなってなるとお話になる。
イザヤの話は難しくてわからないから、ボクは相槌を打つばかりだ。寝言のような言葉は耳心地がよく、この頃は声ではなく音として聞いている。ときたまボクが質問すると、とても困った顔をするので、これも楽しみの一つだ。
「治る。『スワンプマン』のことは話したっけ」
なんだっけ。
「聞いてないよ」
「……いや、話してるよ。まぁいいや」
「性格悪いよ、イザヤ」
「姿勢が悪いよ、デミィデア」
「パルマって呼べって言ってんじゃん」
「いやぁそれは難しいよパルマさんちゃん」
にゃん、とマオちゃん。薪を拾いに行った帰りのようだ。
「なんせ「マオ、やめろ」うにゃっス」
やれやれ、とジェスチャーして、マオちゃんは暖炉の前のカーペットに寝そべる。
「……『スワンプマン』。ある男が沼の近くで落雷に遭って死んでしまい、その拍子に沼の一部が変質して男と全く同じ姿形、そして記憶と心を獲得したとして……そのスワンプマンは、先ほどの男と同じ存在なのか? っていう……聞いてないの?」
「いや、よくわかんないし……」
でも長く話すイザヤは良いものだった。
「たとえばデミィデア、その右手が完全に生え変わったとして、それは君の手か?」
「そりゃそうだよ」
「じゃあ腕が取り替えられたら?」
「? ボクのじゃないの?」
「…………。じゃあ、デミィデアが死んだ後、全く別の、同じ姿形・心の何かがきみとして暮らし続けたら?」
「ボクだよね、それ」
「…………はぁ」
あ、なんか勝った気がする。
「……じゃあ治すけど、文句言うなよ」
「文句? 言うわけないじゃん」
…………。
「ばかばかばかばか! イザヤのアホ!」
前言撤回である。
イザヤの安楽椅子に縛りつられたボクは、その辺で拾ってきたであろう泥をテキトーに盛り付けられていた。ちょっと口にも入れられている。ほんのり甘い……かも?
「うるさいなぁ。……このくらいか」
手をほろったイザヤは、さて、と両手を挙げた。
「あい請け負った!」
待ってましたとばかりに、マオちゃんがイザヤの首を掻き切る。
「うおあぁああぁ⁉︎」
掻っ切るどころか落ちたんだけど首!
血が噴水みたいに吹き出して、ボクにもめっちゃかかってきた。こんなに出るもんなの⁉︎
床とか家具とかにももちろんかかって、掃除大変だろうなぁとか思って、ようやく気付く。
「イザヤ死んだじゃん!」
「ご主人は死なないよ?」
「だってこれ首が……!」
生命活動を終えたイザヤの首から下は、力なく前のめりに倒れ込んだ。切り口からはまだおびただしい量の血が流れ出し続けている。
「まぁまぁにゃあにゃあ」
頭と首の流血が繋がり、その血を手綱のように引き合って、
「うわ、うわうわうわ……」
「あー……痛かった」
くっついた。生き返った。
「これが『スワンプマン』……。ちょっと違うけど、まぁ、うん。テキトーな質量と、『スワンプマン』の血……。これで治るだろ、多分」
多分って言った? 多分って言った!
イザヤの血を浴びた泥が蠢き出し、ボクの体を這い回る。溶けるように染み込んで、右手が生えてきた。
「な、治った……治ったー! やったー! ……ん?」
動かない。
「イザヤ、動かないんだけど」
やっぱりピンク髪の女の子が好きな人(この時点では無自覚)のこと見てニヤニヤしてたり事あるごとにぎゃあぎゃあ騒いでるのがいいよね、ってことで書きました
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