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時空検閲官の書庫

作者: 京屋月々

 「時空検閲官の書庫」なんて仰々しい名前の就職先なので、ちょっと緊張してたけど、やる事はバイトしてた時と変わらないな。


 やれ、あっちの本をこっちの本棚にまとめろだの、納品された新刊を作者順に並べろだの、神様の仕事ってもっと神々しいものだと思ってたよ。


 今日は太陽系宇宙にある地球の本が多いな。

 あの惑星は文化が狂っているので好きだ。

 ボーイズラブとか、男の娘とか、撮り鉄とか、私には全く理解できない。

 今日は料理に関する本でまとめられているようだ。

 「中華料理」だって。なんだろ。

 食べるのは好きだけど、絶品に美味いのはアネビュラ宇宙の暗黒サンド。

 これに敵うものなんてない。

 多元宇宙内のグルメ歩きが趣味の私だから言える。

 今更、地球のご飯って言われてもなー。パクチーも不味かったし。


 私は、本に記載された代表的な中華料理を具現化した。

 具現化は禁止されてるけど、どうせ書庫には誰もこないし、別にいいよね。


 ふーん。まーぼーどうふ?

 あー、辛いだけ的な?

 そういうの、もう飽きてるんだけどね。


 私が具現化した麻婆豆腐を一口食べた瞬間、頭に火花が弾けた。


  辛さが何層もある?

 

  辛さって、こんなに深みがあるの?

 

  種類が違う辛さが口から体に浸透してくる!


 こんな、刺激が強いもの、もう食べたくない!


 食べたくないのに……。

 なんで、食べることを止められないの……?



 「そうして、私が麻婆豆腐を貪り食べてるところを上司に見つかっちゃってね。時空検閲官の書庫の仕事、クビになっちゃったってわけさ。流れ流れて、今はこんな辺鄙なところに住み着いちゃったってわけ」


 ま、いい思い出だわさ、と婆さんは椅子から立ち上がると、腰を叩き奥に去っていった。

 僕は、この中華料理屋で住み込みで働く老婆の話を聞くのが好きだ。

 突飛なことばかり言うし、老婆は都度真剣に語る。

 やれ多元宇宙で就職活動してただの、アンドロメダ星雲の料理屋で修行しただの、全く頭のおかしな婆さんで愉快だ。

 認知症かと疑っていたが、婆さんの作る麻婆豆腐は絶品だ。

 うちの店は、この麻婆豆腐目当てに来る客が絶えない。


 たまに婆さんの顔を見て、ボロボロと泣き出す客もいる。


 「あなたの麻婆豆腐を一度でいいから食べたくて、仕事をやめてここまで来ました!」


 なんて口調で感動している。

 そいつらの中には、耳がとがっているヤツや、顔色が妙に白いヤツ、黒目が極端にでかいヤツらが混じってる。

 コスプレか……?


 そして、そういう奴らは決まって、婆さんに袋を差し出す。


 「これ! お土産の暗黒サンドです!」



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