第四話
先程のギラギラ令嬢はどこへ行ったかな…?
…あっ!いた!従者にがっちりホールドされている。羨ましい奴………。
はぁーーーっ、もう帰りたいわ………。
精神的に疲れ果て、ソファーに倒れ込んでいると、
「勇者様。飲み物はいかがですか?」
また別の令嬢がグラスを持ってこちらを見ている。
艶やかな黒髪はアップスタイルにしてあり、後毛が透き通るような肌の豊満な胸元に落ちている。表情も艶かしく、周囲の男性陣は皆釘付けとなっている。
何だか…妖艶な魔女みたい…毒とか入っていそう。
「いや、結構だ。」
私が断ると、一瞬驚いた表情をしていたが、すぐに笑顔をつくり、話しかけてきた。
「私はライアス・クレア。ライアス公爵令嬢ですわ。勇者様とは初めてお目にかかります。隣に座ってもよろしいですか?」
もの凄くエロい感じがする。
「あちらのソファーへ行かれたらいかがですか?」
速攻で断った為、令嬢はムッとした表情をしたが、何か考え込むように私の顔をじっと見つめて、
「……私の誘いにのらなかった方は初めてですわ…。」
恍惚とした表情をした。
だから何………………?
「あなたのようなセクシーな人見たことありませんわ……。」
私がセクシー?!! キモ……
だんだん心の底から悪い靄のようなものが湧き上がってきた……
これはやばい!また変な魔力が発動してしまう。ここはもう離れよう!
急いで立ち上がった瞬間、令嬢が倒れ込むように私に抱きついてきた。豊満な胸を擦り付けてくる。
……!!ひぃ……!!!
体から魔力が放出しかかった刹那、
急に令嬢が床に転がった!!!
えっ!????
また私何かした………!???
………違う、私じゃない!!!
ギラギラ令嬢だ!!!
「私の勇者様に何てことを!!!」
この人、公爵令嬢だよ?!大丈夫?!
従者から逃れた令嬢が、鼻息荒く公爵令嬢に掴みかかっている。
怖っ…………………
高貴な令嬢って、皆お淑やかなんじゃないの??
それにしてもそんなに掴みかかったら令嬢の胸が……。
周りの男性陣は何かを期待しているのか、止めに入るフリをしながら近くで凝視している。
令嬢より気色悪いわ!!スケベ野郎!!
そこへギラギラ令嬢のイケメン従者が慌てて飛び込んできた!
やめて!あなたはそんなところに入らないでっ!!
私はすぐさま令嬢2人の周りに結界を張り、男共を退けた。そして、令嬢達に入眠魔法をかけ、眠らせた。
「…!?今度は何をした?!」
イケメン従者がこちらを睨みつける。
「何も? ただ眠らせただけです。」
私は眠った令嬢をそれぞれの従者に引き渡し、ほぅと息をついた。
「…やはり、あなたの魔力は凄い!息を吐くように術を出されるのですね!」
ふいに声をかけられ横を見ると、この国の第二王子殿下がこちらを見ていた。
美しいと評判の第二王子。光の加減で青にも黒にも見える髪は晴れた夜空のよう。前髪を後ろへ流し、額を全て出しているので、整った顔が全面に表れ、誠実で潔い男らしさも感じる。
はぇーーー!これは想像以上の美しさだわ。
暫く見惚れてしまった。
美しい2人が見つめ合う光景に会場の皆が息を飲んだ。
「戦士達は皆……もちろん私も、あなたに憧れています。あなたに師事したいと皆思っています。王宮に残っては下さいませんか?」
誠実そうな凛々しい瞳に見つめられ、思わず「はい」とこたえそうになった。……いやいやダメダメ。自分自身の問題が大きすぎる……。
「……申し訳ございません。今は無理なのです。自分自身で整理したいことがあるのです。」
「そうですか……。それなら仕方ありませんね…。それでも年に一回の武術大会には是非出場して頂きたい。私もあなたに追いつけるよう鍛錬するつもりです。」