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第三話


 「……………………。」


 私は今、鬱々とした気持ちで舞踏室に続く階段を歩いている。広い階段の両端には花々が飾られ、豪奢なシャンデリアからは眩い光が降り注いでいる。


 そして、私の右側には真っ赤な顔で今にも倒れそうなこの国の王女殿下がいる。私の腕にそっと手を置いているが、時々足を踏み外したり、ふらついたりするので、その都度支えている。


 チッ…………!


 私は心の中で舌打ちした。


 そんなに躓くなら重厚なドレスなんて着るなよっ!


 私は男になったストレスで性格が歪みまくっている…。


 はぁ…。心の中で溜め息をつく。表面上は凛々しい勇者の顔で、王女殿下と目が合うと微笑むようにしているが…。


 大分、上辺だけの表情がうまくなったわ…。


 舞踏室からは陽気な管弦楽の音楽が休みなく流れている。


 「さあ、王女殿下。中に入りますよ。」


 「はい!」


 王女殿下はかなり緊張しているようで、彼女の手はしっとりと汗で湿っていた。


 そういう私は初めての舞踏会なのだが、どうでもいいと思っているので緊張もしない。


 こんな会、早く帰りたいわっ!



※ ※ ※ ※ ※



 時は遡り、舞踏会の直前。


 何度も来る訪問を拒否して部屋に籠っていたが、それでもそろそろ行かないといけないかと思い部屋を出た途端、舞踏会仕様の正装をした王宮騎士達につかまった。


 王令で王女殿下のエスコートをせよとのこと。


 はいはい…分かりましたよ。


 もうーーーっ!


 食べたいものだけ食べて帰ろうかと思っていたのに…。


 それにしても流石は王宮騎士…カッコイイ…。しかも今日は白の正装をしているから輝いて見える。


 1人はこの間王女に付き添っていた誠実そうな新緑の髪をした騎士様ね。後の2人は初めて見るけどステキだわ。細マッチョで短髪の爽やかな青年(学校にいたら絶対モテるタイプ)と、筋骨隆々で強そうな騎士様…服の下の胸板が見てみたいわ。


 無言で3人を見続けていると、


 「…勇者様、申し訳ありません。急なお願いをしてしまい…。」


 私の表情が怖かったのか、3人とも縮こまっている。


 「…王女殿下の場所まで案内して下さいますか?」


 私がそう言うと、3人とも顔を見合わせて安堵した表情をみせた。


 

※ ※ ※ ※ ※

 


 そして今、この状態というわけ。


 躓く王女殿下を支えて階段を登り切り、殿下と共に舞踏室へ足を踏み入れた。


 会場の騒めきが静まり返り、皆一斉にこちらに注目した。


 今日の殿下は何故か私の瞳の色と同じ青色のドレスを着ている。宝石が散りばめられており、動きによって色が変わる。薄茶の柔らかな髪をアップにし、可愛らしい容姿を引き立てるよう珊瑚色の口紅が施されている。


 殿下は可愛いから目立つわよね。


 しかし、よく見ると、殿下より自分に視線が集まっていることに気付いた。


 「…ステキね…。」


 「あんな美しい人みたことないわ。ほぅ…。」

 

 「この世のものとは思えない美しさだ。」

 

 「魔力も剣術も凄まじいらしいぞ。」


 自分を褒め称える声が聞こえてくる。


 私も自分自身を鏡で見た時、神かっ?!って思ったもんね。その上、魔王を倒す強さがあるのよ。凄すぎて自分でもついていけないわ。


 …でも今日は王女殿下も見てあげてほしいな。


 嫌悪しかなかった王女殿下が少し可哀想になった。


 彼女を覗き込んで「大丈夫ですか?」と尋ねると、


 「あっ…はい…………。」


 顔がさらに赤くなり、意識消失しかかった。

 

 ?!…また?まだ慣れないの?!


 私は王女殿下を抱き上げ、バルコニーにあるソファーまで運んだ。抱き上げた時にどこからか狂気じみた悲鳴が聞こえて一瞬落としそうになったが、落とさなくて良かった。


 従者に伝え、すぐに個室でお医者様が王女殿下の診察を始めた。


 私はその間、バルコニーのソファーで休むことにした。


 もう…疲れた…。

 

 これから女性をリードしながらダンスしないといけないなんて……あんな密着して微笑みながら………地獄だ。


 どうせまた意識がなくなるんでしょ?私はここで休んでいる方がいいわ。


 王女殿下が終わりまで目が覚めませんように…。


 バルコニーは涼やかな風が通り、とても気持ちが良かった。眠気がやってきて、うつらうつらしていたところ、


 「勇者様…勇者様…。アラン様…。」


 ぞくっと寒気がするような甘い声が聞こえてきた。


 これは目を開けてはいけないやつだ!


 寝たふりをしよう!


 「本当に美しいですわ…。この方に唇を奪われてみたい…。」


 !!!? 絶対やめてよねーー!?


 「ああ…もう、我慢できない。」


 !?


 「お嬢様、おやめ下さい!」


 「…………………………。」


 悪寒がする…悪寒がする…悪寒がする…


 パチっと目を開けると、至近距離に昼間のギラギラ令嬢がいた。


 「うわぁーーーー!」


 怖い!!!


 思わず防御魔法を発動してしまい、令嬢を弾き飛ばしてしまった!!


 やばい!!令嬢が飛んでる!!


 私は咄嗟に風魔法を駆使し、人々の上を飛び越えた。そして令嬢が着地する位置に先回りし、受け止めた。


 あー良かった……って、げっ!!?


 ホッとするのも束の間、令嬢の顔を見ると血塗れになっている!?防御魔法の衝撃で顔面に怪我をしたらしい。


 やばい!!


 私は高度治癒魔法を全力で施した。


 見る見る傷が治り、怪我をする前からあったニキビも治っている。


 はぁーーー良かった…。寿命が縮んだわ…。


 しかし、流石にやりすぎたな…。


 「どこか痛いところはありませんか?」


 お姫様抱っこの状態のまま、令嬢に尋ねた。

 

 「どこもかしこも痛くて身動き出来ません!このままずっと抱いていて下さいまし!」


 令嬢は私の首に両手を回し、きつく抱きしめてきた。その上、頬を擦り寄せてスリスリしてくる。


 気持ち悪!!!


 私は令嬢を引き剥がし、例のイケメン従者に引き渡した。


 従者は私を睨みつけ「許さない!」と殺気立っている。


 それにしても本当にイケメン…あの涼しげな切長の目にずっと見つめられていたい…。


 「勇者様ーー!もう一度抱き上げてー!」


 令嬢はイケメン従者の腕の中でもがいている。


 何てうらやましい奴!


 周りの人々は何が起こったのか理解できていないようで、ポカンとしている。見せ物と勘違いして拍手している酔っ払いもいる。


 その騒々しい中、何も知らない王女殿下が目を覚まし、個室から出てきた。


 「…どうかしましたか…?」


 ほらーー!騒がしくするから、王女殿下が起きちゃったじゃないー!!


 「なんでもありませんよ。殿下、もうしばらく休みましょう。」


 王女殿下に微笑みながら諭すように言った。


 「はい!」


 殿下は言われるがままベッドに横になった。


 従順な殿下…。ギラギラ令嬢よりよっぽどいいわ。


 



 



 



 




 


 


 

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