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6. 結論

 



「これは今いる国、日本の地図です。そしてこっちが世界地図。今いるのがこの細長い島国の・・・・・この辺りですね」


 食事の後、月子がテーブルに並べた地図を見やすい様にと、ソレイルを肩に乗せた。


「どうですか?」


 肩に立って見下ろすソレイルに、月子が指差しで遠慮がちに尋ねるが、その声はソレイルの耳には全く届いていない様で、ただ食い入る様に地図を見ている。


 彼女が指さした島国は、ソレイルにとって見知らぬ形のものばかりだ。見た事のない精巧(せいこう)な作りの地図は、全く知らない国々や海域が描かれている。そしてその地図にはソレイルの国も、隣国や周辺諸国も、全く()っていない。


「ナイ・・・・」 


 顔を強張らせて無言になるソレイルをテーブルへ降ろし、月子はゆっくりと言葉を続ける。


「ソレイルさんの国って、魔法とか使えるのが普通だったりします?」

「・・・・ツカウ、する」

「そうですか・・・・・何か心当たりは?」

「タスケル、した。マリョク、タクサン、オオキイ、した。バクハツ」 

「爆発・・・・?大きな爆発って事かな・・・・・何かを助けるのに、ソレイルさんの魔力で大きな爆発を起こした、とかでしょうか」 


 無言で(うなず)くソレイルに、月子は溜息(ためいき)を吐いた。


「では、力がでないと言っていたのは、魔力とかそう言うものの事だったのですね・・・・・・」

「デル、しない」


 せめて魔力が使えれば、何かしらの方法はあるかも知れない。だが、力を出し切った所為(せい)かソレイルには現在(ほとん)ど魔力が残っていなかった。時間が経てば少しずつ魔力も戻るだろうが、それまでどうする事もできないのが現状だ。


 両の拳を握り、(うつむ)くしか出来ない事がただただ悔しい。


「ソレイルさん。今のお話が本当なら、私には1つ思い当たるものがあります。あまり現実的でない事かもしれませんが」

「・・・・・ハナス、する。ナニ?」

「もしかしたら貴方は、その爆発の衝撃で、別の世界から今いるこの世界へと来てしまったのではないでしょうか。私の生活するこの環境には、魔法とか魔力とかはありませんから」


 持てる魔力全てをぶつけたあの時、異なる世界へ飛ばされたのだろうか。そう考えてしまえば色々と辻褄(つじつま)が合う。けれど、だからと言って異世界へ来てしまったとは、ソレイルも簡単には納得出来ない。

 部下も居なければ連絡手段も浮かばない。どうすれば良いのか、あの後どうなったのか知る術も無い。

 考えれば考える程に、ソレイルは不安に胸を(さいな)まれるばかりだ。


 ソレイルを覗き込む様に見つめる彼女の瞳は、心配そうに揺れている。けれど、それがまるで独りではないと言われている様で、ソレイルには嬉しかった。

 (はげ)ますように、月子の指先がソレイルの背に触れる。背中に感じる熱にまた少しだけ不安が和らぎ、小さく息を吐き出した。


 月子からすれば、ソレイルは得体の知れない者でしかない。だから放っておけばいいのだろうに、それでも手を貸し、助けようとしてくれる。


「もし嫌じゃなかったら、(しばら)くここにいてもいいですよ。この出会いも何かの縁でしょう。私が出来ることは少ないかもしれないけれど、もしかしたら、誰かがソレイルさんを探しに来てくれるかもしれませんし、無闇に動きまわるより良いと思うんです。それに・・・・・私はこの家で独りきりだから、少し寂しかったし」 


 これも『(えん)』だと、月子は笑う。優しい、暖かい笑顔をソレイルに向けて。

 少し目を伏せ、寂しかったのだと言った彼女に、心がさわりと揺れた。


「・・・・・カンシャ」


 ソレイルがもう一度頭を下げると、月子は嬉しそうに笑った。その破顔(はがん)した様は、随分(ずいぶん)(おさな)くて可愛らしい。


「でも、食器とか洋服とかどうにかしないといけませんね。特に着替えがないと困りますよね?せめてあと1セットはないと。本当は作ってあげたいですが、裁縫は苦手なんです・・・・・!」


 嬉しそうに早口で(まく)し立てる月子は、とても楽しげだ。

 早くてイマイチ言葉の意味がソレイルには伝わらなかったが 、助けてくれようとしていることだけはわかっていたから、背中に触れていた月子の指先を両手でぎゅっと掴んで、その目を見返した。


「アリガトウ、カンシャ」

「あの、恐らく他の人に見られたら騒ぎになると思うし、私の様に「大きい人間」からは隠れていた方がいいと思います。それに、隠れるにはいい場所だと思いますよ、ここは」 


 月子の祖父が遺した家は、集落からも外れた山腹にある一軒家だ。水は近くの川から引いているし、電気は通ってはいるが、携帯電話やスマートフォンの電波はギリギリ。隣家と付き合いはあるが、山を下らなくては顔を合わせる事すらないそんな場所。不便な事も多いが、彼を(かくま)うにはもってこいだろう。


 自分より遥かに大きいとは言え、女性に手間を掛けさせるのは申し訳ないのだが、言葉に甘えて(しばら)く月子の世話になろう。きっと彼女は大丈夫だと、出会って間もない人物を既に完全に信用してしまっている自分に、ソレイルは内心苦笑いした。


「改めて、これから宜しくお願いしますね!」





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